コロナ禍の現在、旅行を控えている人も多いかと思いますが、シティーホテルやビジネスホテルに泊まった際、ふと開けた引き出しの中に「聖書」が入っているのに気付いた経験がある人は多いのではないでしょうか。ホテルによっては小さな書棚があって、地元の観光ガイドと一緒に並べてあることも。

 なぜ、多くのホテルの部屋に「聖書」があるのでしょうか。コロナ禍で廃業や閉館するホテルもありますが、そうしたホテルの部屋にあった聖書はどうなるのでしょうか。「贈呈」元として、ホテルの聖書に記載してある一般財団法人日本国際ギデオン協会(東京都千代田区)に聞きました。

1908年、米国でスタート

Q.なぜ、ホテルに聖書を贈っているのでしょうか。いつ始まったものですか。

担当者「ホテルへの聖書贈呈はアメリカで始まったのですが、国際ギデオン協会の創設者の一人が『毎晩、寝る前に聖書を読む』ことを習慣にしていたことと深い関係があります。1898年秋、ウィスコンシン州ボスコベルの小さなホテルで、2人のビジネスマンが偶然、相部屋になりました。このうちの一人はかつて、死の床にあった母親と毎晩、必ず寝る前に聖書を読んで祈ることを約束しました。そして、それが長い間の習慣になっていました。

お互いがクリスチャンであることを知った2人は共に聖書を読み、ひざまずいて、祈りをささげました。この出会いがギデオン協会発足のきっかけです。2人は、ビジネスマンが頻繁に利用するホテルに聖書を備えれば、宿泊者がいつでも聖書を読むことができると考え、1899年に協会を発足。1908年、モンタナ州スーペリア市のホテルに25冊の聖書を贈りました。ホテルへの聖書贈呈の始まりです」

Q.世界的な取り組みなのでしょうか。また、日本国内ではどのくらいの聖書が贈られているのでしょうか。

担当者「国際ギデオン協会の本部はアメリカ、テネシー州のナッシュビルにありますが、2020年5月現在、協会の働きが及んでいる国と地域は200を超えます。累計で24億冊を超える聖書をホテルや学校、病院、刑務所などに贈呈してきました。日本でも多くのホテルや旅館に和英対照聖書を贈り、備え付けられています。日本での活動は1950年から始まり、ホテルや旅館、大学などに計約4000万冊を贈ってきました」

Q.こうした取り組みはギデオン協会だけがしているのでしょうか。

担当者「日本には、仏教聖典を贈呈しておられる公益財団法人仏教伝道協会という団体があり、国内だけでなく、海外のホテルなどにも贈っているそうです」

Q.聖書の費用はどのようにしているのでしょうか。

担当者「キリスト教各派の友の支援(寄付)によって賄われています」

Q.ホテル側から断られることはないのですか。

担当者「それぞれのホテルの考え方によって、贈呈を断られることもあります。しかし、多くのホテルでは備え付けていただいています」

Q.イスラム圏など他の宗教の信者が多い国でも行っているのでしょうか。

担当者「中東のアラブ首長国連邦やカタール、南アジアのインド、スリランカなど、さまざまな宗教の国々にもギデオンの動きは広がっています」

Q.ホテルの部屋の聖書は持って帰ってもよいのですか。

担当者「聖書はホテルの備品です。欲しいと思われたら、フロントに話してみてください。あるいは当協会にご連絡いただければと思います」

Q.コロナ禍で、廃業するホテルや閉館するホテルが出てきています。廃業したホテルの聖書はどうなるのでしょうか。

担当者「ホテルが廃業する際、備え付けていた聖書を返却したいという要望を受けることはあります。その際は引き取らせていただき、傷み具合などを確認した上で、ホテルや旅館ではありませんが、必要とする人たちに贈り、聖書は『第二の人生』を歩むことになります」

Q.ホテルの聖書が自殺防止に役立っている、との話も聞きました。

担当者「聖書は世界のベストセラーであり、読んで、さまざまな励ましや救いを得たという話を聞きます。その中には、絶望の中でホテルに宿泊した際、聖書を読んで希望を得たという話もあります。なお、当協会の聖書には『悲しみで心がふさぐ時』『孤独な時』といった場面ごとに、どのページを読めばよいか示した目次があります。ホテルなどで聖書を読んで心の傷が癒やされ、魂に休息が与えられることを願っています」