普段何気なく利用している駅が、実は昔、別の駅名だったということがあります。地域のイメージアップから致し方ない事情まで、駅名を変更する理由は様々です。

関西ならではの理由がたくさん

 関西の鉄道では近年、各地で駅名の変更が行われました。中には関西ならではと言える、変更の背景やパターンが見え隠れします。

パターン1. 「古都」にちなむ

 湖西線の西大津駅は2008(平成20)年、大津京駅に改称されました。天智天皇が667年から数年間治世を行った場所にちなみ、地元の積極的な改称運動によって実現したものです。乗換駅となる京阪石山坂本線の皇子山駅も、2018年にJRの駅名に合わせ京阪大津京駅に改称しています。

 また、JR京都線にある長岡京駅は、1995(平成7)年まで「神足(こうたり)駅」でした。長岡京市の中心部の最寄り駅であるため改称となりましたが、この市名の由来は、8世紀にかつてあった都です。784(延暦3)年に平城京から移され、わずか10年後に廃都となりました。


長岡京駅の旧駅名「神足」の駅名標は街角に残る(画像:Bakkai [CC BY-SA 3.0], from Wikimedia Commons)。

パターン2. 最寄りの神社仏閣をアピール

 関西ならではと言えるのが、神社仏閣の最寄り駅であることを示すため、駅名に取り入れたパターンです。

 阪急は旧来より駅名に神社仏閣を多く取り入れています。清荒神・売布神社・門戸厄神・崇禅寺・総持寺・長岡天神に加え、2013(平成25)年には宝塚線の中山駅を中山観音駅に、服部駅を服部天神駅に改称しています。

 全国の八幡神社の最上位に位置する石清水八幡宮は、京阪本線の「八幡市駅」が最寄り駅でした。2019年に、石清水八幡宮駅に改称。市の名前を冠した駅名が改称されるのは異例のことです。もっとも、戦時中の約8年間は同じ駅名でしたから、今回「復活」となった格好です。

 京都の市街地西部を走る嵐電では2007(平成19)年に大規模な駅改称を実施。その中で、太秦(うずまさ)→太秦広隆寺、車折(くるまざき)→車折神社、御室→御室仁和寺(おむろにんなじ)、竜安寺道→龍安寺(りょうあんじ)と、寺社仏閣にちなむ変更も複数ありました。

まだまだある「ならでは」の理由

 他の地方では見られない地理的要素が原因の改称や、改称にまつわる「戦い」のエピソードもあります。

パターン3. 「京都ならでは」の問題点を解決

 碁盤の目のようになっている京都市中心部の地区名は、土地固有のものではなく、縦横の通りの名前を用いて呼称されるのが一般的です。たとえば地下鉄東西線にある西大路御池駅は、縦(南北)の西大路通と、横(東西)の御池通の交点にあることから名付けられています。

 さて、京都市内を南北に抜ける地下鉄烏丸線と京阪線は、それぞれ交わる横の通りを駅名にしました。その結果、丸太町・四条・五条の3駅が、互いに1kmほど離れて並存することになってしまいました。

 誤乗防止もひとつの理由にあってか、京阪側が2008(平成20)年に3駅を改称。それぞれ付近の観光地にちなみ、神宮丸太町・祇園四条・清水五条となりました。

 同様の例として、近鉄京都線と地下鉄烏丸線の両方に十条駅がありますが、北は京都駅、南は竹田駅でそれぞれ互いに乗り換えができ、誤乗してもさほど影響がないのか、改称はされていません。

パターン4. 大学の最寄り駅であることをアピール

 東西を問わず、大学のお膝元であることは地域にとってイメージアップに繋がるのでしょう。関西でも2019年だけで4つの駅で相次ぎ、大学名にちなんだ駅名変更が行われました。

 阪神は鳴尾駅を鳴尾・武庫川女子大前駅に改称。京阪も深草駅を龍谷大前深草駅に改称しました。さらに大阪大学の最寄りである阪急宝塚線の石橋駅、大阪モノレールの柴原駅がそれぞれ石橋阪大前、柴原阪大前に改称しています。


約9か月間「日本最長駅名」だった等持院・立命館大学衣笠キャンパス前駅(乗りものニュース編集部撮影)。

 さらに続く2020年、嵐電北野線では等持院駅を等持院・立命館大学衣笠キャンパス前駅に改称。大学名だけでなく施設名まで付加することで、当時の「日本最長駅名」に躍り出ました。なお、最長駅名の座はわずか9か月後、富山地方鉄道富山軌道線の「トヨタモビリティ富山 Gスクエア五福前(五福末広町)停留場」に明け渡しています。

言われてみれば関西特有だったケースも

 もう一つ、地理的要因とは言えませんが、関西にしか見られない駅名のパターンも見られます。

パターン5. 「JR」をつけて差別化

 関西だけに見られる特徴として、私鉄と同じ駅名をJRが新設する場合に「JR」を冠するというものがあります。

 その先駆けとなったのが大和路線のJR難波駅です。長らく「湊町駅」の名前で、広い構内を持つ幹線の一大ターミナル駅でした。1994(平成6)年、駅の地下化工事や関西空港の開業に合わせ、「ミナミ」の中心地として知名度の高い「難波」を駅名にしました。その際、南海や近鉄などとの差別化を図るため、会社名であるJRを冠したのです。


「JR」が付く駅名が連続するおおさか東線(乗りものニュース編集部撮影)。

 その後1997(平成9)年、学研都市線の上田辺駅がJR三山木駅に改称。所在地の田辺町が京田辺市となったのをうけての措置ですが、近鉄の同名駅と区別するため、JRを冠しました。その後も新駅としてJR藤森・JR小倉・JR五位堂・JR淡路・JR野江・JR河内永和・JR俊徳道・JR長瀬・JR総持寺と大量発生しています。

 歴史的に、同名の駅が別に存在する場合の措置としては、橋本に対して和泉橋本といったように旧国名を冠したり、「〇〇駅」に対し「〇〇市駅」としたりするケースが多かったのですが、そうしたパターンも変化しているようです。

※一部修正しました(1月23日9時30分)。