「タケ(久保建英)は、エリア近くでのプレーが少なかった。そこでハーフタイムに、『後半はもっと中に入ってプレーを』と指示した。ディフェンス面では犠牲を惜しまずに、(右サイドバックの)ダミアン(・スアレス)をサポートしていたね。ファンタスティックな調和を見せていた」

 久保建英がヘタフェで初先発したウエスカ戦後、ホセ・ボルダラス監督のコメントである。要求は高く、手放しで激賞しているわけではない。しかし、「ヘタフェ久保」としての初先発が上々だった感触が滲み出ていた――。


ウエスカ戦に先発、79分までプレーした久保建英(ヘタフェ)

 1月20日、本拠地でのウエスカ戦。久保は4−2−3−1の右アタッカーとして、ビジャレアルからの移籍後、初先発を果たしている。序盤から、バルセロナの下部組織育ちで左利きの技巧的選手、トップ下に入ったカルレス・アレニャとパス交換をしようとする気配が濃厚だった。うまくいかなくても、お互いリズムが合うのだろう。

 何気ないが、このシステム、選手起用はボルダラス・ヘタフェにとっての「新しい様式」を象徴していた。

 それまで、ヘタフェは4−4−2を基調に戦ってきた。強度の高いプレッシングと強固なブロックで相手に対抗し、長いボールを2トップに放り込む。能動的にボールを持って相手の裏を取る、という試みは二の次で、リアクション戦術が基本だった。

 久保とアレニャの補強によって、プレー様式が変化したのだ。

 久保は前半から、ボールの受け方だけで相手の逆をとって、マークを外していた。その技量の高さを存分に見せている。38分、自陣からのパスをあえて大きなトラップで入れ替わり、次のディフェンスは緩急の変化だけでかわし、クロスを入れた。そのボールは相手にブロックされたが、随所で食いつかせてはファウルを引き出し、もしくは抜け出しに成功していた。

 キックのうまさも群を抜いているだけに、直接ゴールを狙うセットプレーは任されていた。前半だけで2本、際どいFKがあった。ひとつはGKの横飛びではじかれ、もうひとつは正面だったが、ゴールの可能性が伝わってきた。

「試合前にタケとは話をした。彼は質の高いFKを蹴れる。ヘタフェには他にもキッカーはいるが、タケに任せることにした。事実、とてもいいボールを蹴っていた」

 ボルダラスはそう語って、久保をキッカーに指名していたことを明らかにしている。

そして冒頭に記したように、久保は「ヘタフェの選手としての仕事」もしていた。足を使ってプレスをかけ、勤勉に帰陣。69分、マウロ・アランバリの先制点のシーンも、久保が必死にプレスバックをすることでボールを下げさせ、GKが長いボールを蹴り込んだところを味方が跳ね返し、そのままカウンターに持ち込んだものだ。

 プレー様式は変化しても、「泥臭く戦え」というベースは同じ。チームのために戦えない選手は、ヘタフェでは使えない。

 久保は指揮官の求めに応じるように、その後も献身的だった。突破を試みる相手に立ちはだかって体をぶつけて倒れ、右からのクロスに対して適切に守備のポジションをとってファーサイドの選手に仕事をさせていない。小さな体を張る姿が目立った。最後は疲労で動きが鈍くなり、79分にフランシスコ・ポルティージョと交代したが、及第点のプレーを見せたと言えるだろう。

「(成績でいえば)良。前半、スペクタクルな技術の数々を披露した。(マーカーのハビ・)ガランとの1対1は最高だった」

 スペイン大手スポーツ紙『アス』も高評価で、二つ星(0〜3の4段階)を与えた。1−0でチームが勝利した点も大きいだろう。移籍後は連勝で、暫定ながら10位まで順位を引き上げているのだ。

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 もっとも、久保が真価を問われるのはこれからである。ウエスカは昨シーズンまで2部におり、今シーズンは最下位で監督が交代したばかり。対峙した選手の質も高いとは言えない。相手に攻められる時間が長くなった時、チームをけん引できるのか。守備に体力を使うと、どうしても攻撃に入った時の動きは鈍くなるだろう。

 チームが攻撃的にシフトしたのは、得点力アップが急務だったからで、その点、久保にはゴール、もしくはゴールに直結するプレーが求められる。それはボルダラスの証言からも伝わるだろう。

 今後3、4試合のうちに、自身が試合を決められる選手であることを証明できるか。それがデビュー戦を乗り越えた久保が挑む、次の"任務"となるはずだ。

 次節は1月25日。スペインスーパーカップでレアル・マドリード、バルセロナを破って優勝したアスレティック・ビルバオとの敵地戦になる。