コロナ禍による巣ごもり需要を追い風に業務スーパーの躍進が続く(記者撮影)

あの低価格チェーンストアの大躍進が続いている――。

冷凍品やなど食材販売の「業務スーパー」をフランチャイズ(FC)展開する神戸物産は、12月中旬に2020年10月期の業績を発表した。売上高は3408億円(前期比13.8%増)、営業利益が238億円(同24%増)と、増収増益を達成した。

株価も右肩上がりで、12月1日には年初来高値を記録。足元の時価総額は8500億円を超える。決算発表の同日に行われた会見で、神戸物産の沼田博和社長は「好調の一番の要因は巣ごもり需要による販売拡大だ。また、ここ1〜2年でTVなどのメディア露出が増え、新規顧客を獲得できたことも業績を後押しした」と振り返る。

冷凍野菜の販売量が2割増加

業績の牽引役は「冷凍野菜」だ。天候不順による青果価格の高騰も相まって、2020年10月期の冷凍野菜の販売量は前期比で2割程度増えた。事前に調理した野菜を冷凍した商品が人気を博しており、例えば「揚げなす乱切り」は4割ほど販売量が増えたという。

中食需要の取り込みにも余念がない。総菜・弁当を販売する業態「馳走菜(ちそうな)」を2020年10月末時点で25店舗の業務スーパー内で展開している。沼田社長は「FCオーナーや顧客の評判もよい。業務スーパーに次ぐ事業の柱にすべく、5年後に100店舗展開を目指す」と力を込める。

一方、業務スーパーしては、2025年までに1000店舗の展開を目指す。2020年10月末時点で879店舗展開しており、2021年10月期には30店舗純増を計画する。ただ、エリア別で見ると、関西ではすでに245店舗を展開しており、一部で自社競合も発生している。そこで目をつけたのが、手薄な九州・北海道エリアと都市部への進出だ。

足元では九州攻略が着々と進んでいる。2020年10月期に業務スーパーは34店舗純増となったが、そのうち16店舗は九州への出店が占めた。店舗への配送を集約しコストを抑えたことで、新規出店する体制が整ったためだ。

沼田社長は「これまで神戸や横浜の拠点から出荷していたがコストが多くかかり課題だった。FCオーナーにとっても配送コストは大きな負担で、新規出店の妨げとなっていた」と話す。2020年秋には仙台で倉庫を確保した。配送コストを抑えることで北海道での新規出店を加速させる構えだ。

長年の課題だった都市部への出店に向けた準備も進む。これまで業務スーパーは郊外のロードサイドに大型店舗を出店しており、店舗面積の限られる都市部には思うように出店できずにいた。現在、100坪以下の小型店舗でも利益を上げられるような什器を開発しているという。


2021年10月期の会社計画は、売上高3410億円(前期比0%増)、営業利益248億円(同4%増)と、これまでの成長ペースと照らし合わせると伸び悩む印象だ。会社側は、コロナ特需と2020年6月に事業譲渡したクックイノベンチャー事業(2020年10月期の売上高は157億円、セグメント利益は3.7億円)の剥落を盛り込んでいる。ただ、足元の勢いや出店ペースを踏まえれば、会社計画は軽く達成するだろう。

酒類や食肉などの新商品を拡充

既存店売り上げのさらなる拡大のため急ぐのが商品ラインナップの拡充だ。これまで業務スーパーでは、製造から販売までを一貫して手がけることで、価格を抑えた商品を展開してきた。輸入品や自社製造品などのPB商品の販売は、売り上げ全体の3割程度を占める。

すでに関東の一部店舗では、本部一括仕入れの酒類だけでなく、牛肉や豚肉のアウトパック商品(工場でパッケージ化したもの)の取り扱いも始めている。「豚肉や牛肉は賞味期限も長く廃棄ロスを抑えられる。アウトパック商品ならば、バックヤードや職人が必要ないので店舗の負担も少ない」(沼田社長)。

業務スーパーは消費者の節約志向を掴むことで売り上げを伸ばしてきた。今期はどこまで消費者を囲い込めるのか。新規出店と新商品の展開が大きなカギを握る。