新型コロナウイルスはさまざまな職業の人の人生に大きな影響を与えた。それはお笑い芸人も例外ではない。コロナ禍で仕事が減り、いつの間にか3,070キロのマラソンを走る危機に直面している芸人の今をお伝えする。

■コロナで舞台が減り、さらにバイトにまで……

「元カノて、会いたないときに、おうてしまいますなぁ」

居酒屋で女の子を必死に口説いているとき、注文をとりに来た店員が元カノの“あけみ”だった。すごい偶然ではあるが、ありそうといえばありそうなシチュエーションからこのショートコントは始まる。

その後、元カノといたるところで出くわすことに。新しい彼女と行った温泉で、自販機で、番組の収録中にも、そして最後は……。

みんなのたかみち(36)という芸人の持ちネタだ。他にも、一緒にいた人間がとんでもないタイミングで消えていく「帰ったん?」や、寝てしまう「寝てたん?」など、シュールなピン芸を持っている。

テレビに出る機会はあるものの、主戦場はやはり舞台。コロナ禍によって、予定されていたライブの多くが中止になり、舞台に立つ機会は著しく減少した。

また、子供向けのお笑い番組「わらたまドッカ〜ン」(NHK Eテレ)の初代「わらたま芸人マスター」という顔も持つたかみちは、保育園や幼稚園に呼ばれてネタを披露したり、子供向けのイベントを開催したりしていた。だが、こちらも激減……。さらに影響は芸能活動だけではなかった、とたかみちは語る。

「豊洲市場のお寿司屋さんでアルバイトをしてたんですよ。築地にあったときから、3年くらい。僕は渋谷区に住んでるんですけど、市場は朝早いから、始発でも間に合わなくて、自転車で1時間半くらいかけて……。でもコロナでお客さんが来なくなったら、『ごめん、もう雇えない』となってしまって。幸いご厚意で豊洲にある海鮮丼屋さんに移ることはできました。結局、1時間半かかるのは変わらんのですけど(笑)」

ここまでは、コロナ禍の芸人にとっては珍しい話ではないのかもしれない。さらに、たかみちが仕事の機会を失うことになった。“パラスポーツ大好き芸人”として活動していたためだ。

「車椅子を作っている会社の社長さんと仲良くて、その方を通じて、もともとパラスポーツの選手たちと交流がありました。夏季も冬季も、五輪に出るような選手を5人くらい知っていて。その縁もあって、パラスポーツについて広めてくれないかと頼まれて、本格的に勉強を始めたんです。そしたら、ほんま奥が深くて、ハマりましたわ」

競技の魅力だけではなく、選手の普段の生活についても話せるたかみちは重宝された。ラジオでパラスポーツを紹介し、関連のイベントで盛り上げ役をしてきたが、3月20日に東京オリンピック・パラリンピックの延期が決まると、イベントもキャンセルに。

「競技者の方々の無念と比べると……」と言うたかみちだが、コロナ禍で露出の機会を失い、収入も例年に比べて大きく落ち込んだ。

客と対面して活動する機会を制限されたため、ネットでの活動に力を入れることに。子供向けの歌を自作し、インスタグラムのライブ配信で毎日歌った。そんななか、百獣の王でおなじみの武井壮(47)のYouTubeチャンネルに出る機会に恵まれる。

「武井さんがみんなのお願いを叶える、というコーナーに出さしてもらったんです。なかなか売れへんし、バイトの場所が遠いって悩みを話したら、原付スクーターを買ってくださった。しかも、宣伝になるように、僕の名前と写真のラッピングまで入れてくれた。ほんまありがたい」

たかみちは自分のYouTubeチャンネルは持っていたがほとんど更新していなかった。武井はたかみちにYoutubeの活動にももっと力を入れるようにアドバイスした。

「それで、年内にチャンネル登録者が3,070人にいかへんかったら、3,070キロのマラソンを走るという約束を武井さんとしました。3,070人をこえたら、武井さんが“ビッグボーナス”をくれるけど、届かへんかったらマラソンという企画です。3,070は『みんなの』に由来するんですが、3,070キロって東京大阪間を三往復分あるんですよ(笑)」

企画をスタートした11月時点での登録者数は500人ほど。12月も残りわずかだが、まだまだ道のりは遠いという。草野球仲間の俳優の武田航平(34)も出演して、チャンネルを盛り上げてくれている。

コロナ禍で、多くの仕事を失ったみんなのたかみち。そんな彼を支えているのは交際5年になる彼女の存在だ。

「『売れたら結婚しよう』という話はしてるんです。待たせて申し訳ないなぁと思うんですけど、彼女は『あんたは絶対売れるから大丈夫。1年であろうが、2年であろうから、必ず売れるってわかってるから待ててる』と、ずっと言ってくれて。めっちゃええコです」

コロナさえ来なければ、仕事もあったし、結婚するチャンスも早まったかもしれない。3,070キロマラソンをかけたチャレンジもしなかっただろう。

「走るなら、1年間とかで考えなあかん。これでお笑いの仕事とかおろそかにしたら意味ないから、どこをどういう風に走ろうか……。仕事があるときは何日間か東京に飛行機とかで帰ってきて、また戻って続きを走る。でも、そしたら交通費はどうすんやろ……。いやいや、諦めてはいませんて! 3,070人集めて、なんとか回避せんと! YouTubeでいろいろ始めてみましたんで、ぜひ一度チャンネル観てください。おもろいなって、なんか刺さるもんあったらでいいんで登録してくれたら嬉しいです。でも、交通費はどないしましょかね……」

多くの人が生き方の変更を余儀なくされた2020年ーー。それでも、腐らず、嘆かず、たくましく生きている人間がここにもいる。

【PROFILE】

みんなのたかみち(プリンセス金魚)

ワタナベエンターテインメント所属。本名・高道淳史。1984年5月30日、京都生まれ。京都産業大学在学中に、大前りょうすけとプリンセス金魚を結成。趣味は少女漫画鑑賞で、蔵書は1千冊を超える。自分のYouTubeチャンネルで2020年内に登録者3,070(みんなの)人に届かなければ3,070kmマラソンを走るという企画にチャレンジ中。