2015年7月のリリースから5年が経った今でも、多くのユーザーに愛され続けているスマートフォン向けRPG『Fate/Grand Order』(以下、FGO)。ダウンロード数は5,700万を突破し(グローバル累計、2020年11月時点)、新情報が発表されれば、Twitterのトレンドには瞬く間に関連ワードがずらりと並ぶ。

ゲーム内では、歴史や神話・伝承などに名を残した古今東西の人物をモチーフにした「英霊(サーヴァント)」が数多く登場。プレイヤーは彼らの「マスター」となって、ともに人類を滅亡から救うための戦いに挑んでいく。

この壮大で骨太なストーリーこそがFGOの魅力のひとつだが、とりわけプレイヤーから熱い支持を受けているエピソードが、第1部 第六章の『第六特異点 神聖円卓領域キャメロット』(以下、『キャメロット』)だ。『Fate/stay night』にも登場したアーサー王を中心とする円卓の騎士の物語を題材に、「もしもあの歴史や伝説が、私たちが知っている展開とは違うものだったら……」という“if”の世界を描く。

このたびライブドアニュースでは、FGOの魅力を伝える特集を展開。ファン待望の劇場アニメーション化が実現した、12月5日公開の『Fate/Grand Order -神聖円卓領域キャメロット- 前編 Wandering; Agateram』を中心に、キャストやスタッフのインタビューをお届けしていく。

第5回では前編の監督を務めた、アニメ制作スタジオ・SIGNAL.MDの末澤慧氏にインタビュー。圧倒的ボリュームの第六章を劇場版として描くためには、原作要素の取捨選択など、苦渋の決断も多くあったという。そこからどのように『前編 Wandering; Agateram』が生まれたのか、制作秘話を聞いた。

取材・文/阿部裕華

「『劇場版FGO キャメロット』」特集一覧

『FGO THE STAGE』がシナリオ制作への活路となった

SIGNAL..MDはFateシリーズのアニメ作品には初参加ですが、劇場版『キャメロット』前編の制作を手がけると決まったときはどのような心境でしたか?
「なぜ僕なんですか?」と思いました(笑)。

でも、関係者の方に聞くところによると、いろいろなバージョンのFateシリーズのアニメを見てみたいと。『Fate』=ufotableさんというイメージもあるけれど、『バビロニア』をCloverWorksさんが担当したりと、毛色の違う『Fate』を作りたかったのかなと思います。

とはいえ、決まったときは「大変なことになりそうだな……」という予感はすごくしましたね。
そんな大変そうな予感がしていた作品の監督を務めることになったと……。
僕自身、『Fate』には疎かったこともあり、無理だと思って何度も断っていたんですよ(苦笑)。にもかかわらず、監督を務めることになりました。
監督に決まってから、『キャメロット』のゲームシナリオを読まれたのでしょうか?
監督を務めると決まったタイミングで、最初に舞台版の『キャメロット』を観ました。それまでは本当に劇場作品にできるのか不安だったのですが、舞台を観たらいけるかもしれないと思えました。とてもドラマのあるストーリーだったので、しっかり拾っていけば映画も作れるのではないか、と。そのあと、ゲームをプレイしました。
ゲームシナリオを読まれたときは、どのような印象を受けましたか?
とても悲しいお話ではあるものの、合間にはギャグパートもあるし、キャラクターの感情が細かく描かれているパートもある。1行進めるごとに、さまざまな感情が目まぐるしく変わっていきます。けれども、最後にはちゃんと話がまとまるストーリーだと感じましたね。

なので、さすがにこのままでは映画にするのは大変だぞ、と(笑)。

膨大なテキスト量によって、だんだん話が盛り上がっていき、ああいった形で結実する。そこにカタルシスを感じるわけで、映画として成立させるためには、まずはお話を絞り、ゲームのシナリオを整理しなければと思いました。

観客に「絶対的安全圏」を意識させないような構成

制作に入る前、ゲーム原作の奈須きのこさんから「こういうふうに描いてほしい」といった意見や要望などはありましたか?
奈須さんとの最初の脚本会議にて、「ベディヴィエール(ベディ、CV:宮野真守)の物語をしっかり描いてほしい」と言われましたね。

また、「映画ならではの、映像の力で新しいものを見せてほしい」という思いを感じました。なので、劇場版『キャメロット』のロンゴミニアドのビジュアルをご覧になってとても喜んでくださって。奈須さんが思い描いていたロンゴミニアドともズレがなく、モチーフとしてもすごく筋が通っているから嬉しいとおっしゃっていましたね。
本作がベディヴィエール視点という構成は最初から決めていましたか?
最初にベディ視点の構成を考えたあと、一度『バビロニア』のように、藤丸(立香、CV:島﨑信長)くんを中心に据えてベディを見るような作りも考えたんですよ。でも、『キャメロット』においては藤丸くん目線でベディの葛藤を描くことが難しく、藤丸くんが中心ではドラマの展開が行き詰まってしまって……。

途中で、「藤丸はストレンジャー的なポジションにしてはどうか。『マッドマックス 怒りのデス・ロード』のマックスのような、個人のドラマを背負っているけど、この事件ではそれを語らず、その人間性だけを見せる。ベディヴィエールはそれを受け取って、凝り固まった自分と向き合っていけばいい」と奈須さんに提案されまして、「そこまで変更していいんだ……!」と、みんなでシナリオを考え直していった記憶があります。
これまでのFGOアニメでは藤丸が主人公として描かれていたので、『キャメロット』を観てとても新鮮な気持ちになりました。
ベディを中心に据えるなら、カルデア本部やレイシフトのシーンを入れたくなかったんです。カルデアの様子を映すことで、観客のみなさんを絶対的安全圏に連れていってしまう。そうやって安心させたくなかったんです。先が詰んでしまってどうしようもないという状況を、ベディと共に体験してもらいたかったんです。

どうしようもない旅の中で一生懸命に頑張っている姿を描いても、文明の進んだ世界からヒューンとワープしてきた人たちが出てくると、「この人たちがいるから、この旅はもう大丈夫」という考えがどうしても頭によぎってしまう。そうはしたくなかったんです。

ゲームのシナリオでも、ベディが砂漠でさまよいながら語っている場面から始まるので、映像でもそこから始めたいと思いました。そして、そこから始めるとなると、カルデアから旅立つ藤丸くんたちを描いてしまったら時制が前に戻ってしまうので描けない。
藤丸たちが急にレイシフトしてきたのは、そういった理由があったんですね。
オープニングのあとに、ワープホールから藤丸くんたちがひゅんって出てくるしかできないですよね。また、(レオナルド・)ダ・ヴィンチ(CV:坂本真綾)がバギーを調達する場面も同じ理由で削り、次のシーンからすでにバギーに乗って探索をしているカルデアチームが映る流れにしています。

前編に詰め込まれた『キャメロット』の要素

脚本制作時には、後編を担当する荒井和人監督、前後編の脚本を担当する小太刀右京さんと、どんな打ち合わせをされましたか?
荒井くんとは本読みのときにいろいろお話して、そのあとちょこちょこご飯に行ったり、制作の節に会って話したりしました。僕と荒井くんは性格が違うというか、気になるところが全然違うんですよ。僕は「ここでこういう相槌は打たないのでは?」「ここは言いよどむのでは?」と、かなり感覚的なことを言うタイプで、荒井くんは反対に論理的なので。

それぞれの意見を持ち帰って脚本を書かなければならなかった小太刀さんは、難しかったのではないかと思います。
前編の脚本から感じた、小太刀さんならではの色やこだわりはありますか?
小太刀さんは、1人ひとりのキャラクターのカラーを精一杯出そうとしてくれていたと感じます。

たとえば、ニトクリス(CV:田中美海)のかわいらしさやオジマンディアス(CV:子安武人)の尊大さ。各キャラクターに与えられた性格を、短い尺の中で、どうにかしてセリフや動きの違いで出せないかと苦心していただきました。

とにかくキャラクターが多く、描かなければいけないことも多いので、それらを整理するのは本当に大変だったと思います。
前編はアーラシュ(CV:鶴岡聡)の宝具解放からベディヴィエールのモノローグで幕を閉じますが、前編をどこまで描くかはどのように決まったのでしょうか?
尺の都合もあり、一度「アーラシュの宝具解放は後編にする?」という話題もあがったんですよ。ただ、そうすると、(前編の)終わり方が中途半端になってしまうので、前編の節目となる部分はここ(アーラシュの宝具解放)までだよね、と意見を一致させました。

でも、作り始めたら「しまった!」と思って……。アーラシュの宝具解放までを描くということは、ゲームシナリオ全体の約3分の2を前編で描かなければならず、キャラクターや世界観の説明など要素がギュウギュウになってしまいました。
エジプト領でのシーンは10〜15分くらいしかないのですが、あのシーンで藤丸くんの性格もわかるし、ルシュド(CV:南真由)の心境の転換期でもある。短いシーンの中に多くの要素を詰め込まなければならないと作りながら気づいて……大変でした。
尺の問題から、シーンを絞らざるを得ない点もあったかと思います。取捨選択はどのように行っていたのでしょうか?
劇場版『キャメロット』の前編ではシリアスさ、悲しさを描くためにギャグパートはほとんどカットしました。「世界を救うんだ!」と言っている人が、何かギャグを発言したあとに「頑張るぞ!」と言っても、「本当に大丈夫……?」と思ってしまう。

限られた時間の中で、伝えたい感情と真逆の気持ちになるようなシーンが入ってしまうと、観客のみなさんの感情を正規ルートに戻せないと思ったんです。

ドラマを引き立たせるための、原作にはない新しいセリフ

劇場版『キャメロット』を描くうえで、末澤監督がこだわったシーンがあれば教えてください。
ダ・ヴィンチちゃんが去り際に発する「君ならできるさ、この先も」というセリフ。これは脚本にはなく、コンテの段階で僕が足しました。

自分の命を懸けて藤丸くんやマシュ(CV:高橋李依)を助ける場面ですが、藤丸くんはダ・ヴィンチちゃんがいなくなったあとも頑張らなければなりません。だから、感傷に浸るのではなく、藤丸くんを後押しするセリフを言ってほしかったんです。

ダ・ヴィンチちゃんが藤丸くんを信頼していることもわかるし、そこまで信頼してくれているなら藤丸くんも「ここは任せよう」と思えるだろう。そして「次は自分が頑張る番だ」と、ダ・ヴィンチちゃんから受け取った思いを胸に「行こう、マシュ」と歩き出せると思いました。
他にも、監督が提案して入れたセリフはありますか?
アーラシュがベディへ放つ、「自己犠牲なんて見習うもんじゃない」というセリフも僕が入れました。アーラシュは大英雄で、『キャメロット』でも「事を成して命を終える」というセリフがあるように、自分が宝具解放するのは“成すべきことを成すだけ”だと思っている。

アーラシュがノリノリで「命懸けで宝具を放ったら、この事態は回避できるぜ!」ではドラマが足りないと思いました。

渋々、「やりたくないし、やるべきことでもないとわかっている。でも、やらなきゃいけないんだよね。それは君も同じでしょ? ベディヴィエール」というバトンの渡し方がいいと思ったんです。
アーラシュの存在がベディヴィエールに影響を与えたと、一瞬でわかるシーンでした。
あの瞬間にベディは「ああ、自分はなんて浅はかで軽い人間だったんだ。この人には敵わない」と思い知らされます。

アーラシュだって、なんでもっといい手を思いつかなかったんだろうと後悔していると思うんですよ。平和的な解決方法を探って探って、それでもダメだったから宝具を解放するしかない。悲しいけど、これが戦争なんだよね、と思うような。そこまで追い詰められていないと説得力がないと思いました。

だから、自分なりの解釈で「自己犠牲なんて見習うもんじゃない」というセリフを入れました。そこはけっこう大きな変更点だったかな。前後に補完されるセリフがないので、わかりづらいと言われているシーンではありますが、感じてもらえる人はいると思っています。
ゲームシナリオとは異なる描き方ですが、奈須さんとはこの変更点についてお話されたのでしょうか?
このセリフに関しては、奈須さんと見解の違いで話し合いをしました。奈須さんから「アーラシュはもっと勇ましいキャラクターで、『やるべきことをやっただけ。(宝具解放は)当たり前のこと』と思っている」と返答をいただいて。

でもそれだと、「お前は俺みたいになれるのか?」と、ベディをとても突き放しているような気もして、アーラシュはもっと優しいのではないかと思い、このセリフを入れさせてほしいとお願いしました。

前編はベディヴィエールの心のロードムービー

劇場版『キャメロット』でいちばん描きたかった軸やテーマについて教えてください。
ベディの再起、魂の救済ですかね。まだ完全には救われていませんが、再起してもう1回頑張れるところまで向かう、内面的な旅を描いていて。ベディが座っているところから再び立ち上がるというカットが、それを物語っていると思います。
劇中のほとんどの時間、ベディヴィエールには悲壮感が漂っていると感じていたのですが、旅の中でのベディヴィエールの変化をどのように表現されていったのでしょうか?
ベディはひたすら暗いですよね。劇場版『キャメロット』の前編は、精神的にまいってしまった人が回復するまでの話だなと僕は解釈しました。

責任に対するプレッシャーに押しつぶされて、ベディは殻に閉じこもってしまう。ずっと後悔していて、そのうち笑うことも怒ることも、悲しむことさえも忘れてしまった。感情の振れ幅が狭くなっている状態です。

そうなっているベディが旅を通じて、藤丸くん率いるカルデアとアーラシュに出会います。彼らはベディにとっての回復薬のような役割を果たしていて、彼を処方するというか……。
ベディヴィエールにとっての回復薬、ですか。
たまたま出会った藤丸くんやアーラシュと関わって、そばで彼らの言動を見ていくうちに、だんだんと人間らしさを取り戻していき、感情が豊かになる。そして最後は、怒りと悲しみで感情がぐちゃぐちゃになった状態で前編は幕を下ろします。

感情がどんどん増幅していった結果、モードレッド(CV:沢城みゆき)やトリスタン(CV:内山昂輝)と会ったときにも、「何があってそうなってしまったんだ!」と怒鳴り合いのケンカができるところまで回復した。真っ向からケンカを受けて、「円卓の誇りは地に落ちたのですか?」と言い返している。

最初のベディだったらそんなことは言えていないと思います。ケンカを吹っ掛けられても、じゃあいいです、と去っていたはずで。
たしかに。最初は人との関わりそのものを拒絶していましたもんね。
だけど、オジマンディアスとの対話のシーンでもわかるように、藤丸くんは思ったことをパッと言える人じゃないですか。そういう藤丸くんを見て、ベディはそれを見習わないと、と受け取ったんですよ。受け取って、言い返せるようになって、さらに戦えるようになった。

というように、劇場版『キャメロット』の前編は「心のロードムービー」だと思って描きました。そこを拾い上げてくれた人はグサッときたのではないかと思いますし、喜んでくれている人たちは、もしかしたらベディみたいな境遇に置かれたことがあるのかもしれない、と感じています。

坂本真綾と共感し合った、ベディヴィエールへの解釈

坂本真綾さんがインタビューで、主題歌『独白』の制作時に末澤監督から「組曲のような楽曲にしてほしいと依頼を受けた」とおっしゃっていました。1番はバラードなのに2番からとても激しいアレンジに展開していく曲調は、まさにベディヴィエールの感情の変化を表現していたんですね。
そうなんです。坂本さんが歌詞を書かれるので事前に打ち合わせをしたのですが、そのときにはベディの説明しかしていなくて。僕の独自の解釈ですが、ベディはこういうキャラクターでこういう思いを抱えていると感じています、とお話させていただきました。そしたら、坂本さんが非常に共感してくださって。
末澤監督はベディヴィエールに対し、どのような解釈をされていたのでしょうか?
「アーサー王伝説」でもわかるように、ガウェインやランスロットと比べると、ベディヴィエールは大きな伝説を残していません。それを理解したうえで、前編の中でベディは「大した取り柄もないけど、王様は僕を褒めてくれました」と言っている。彼にとっては王様の存在が救いだったんですよね。

そんな王様(獅子王、CV:川澄綾子)の存在を失うことによって、「自分は本当に何もない、弱い剣士に戻るのではないか」「これまでの自分もなかったことになるのではないか」と恐怖を感じた。そこで取った行動が、結果的にあのような事態を招いてしまったというお話で。

要するに『キャメロット』で描かれるベディの後悔は、「自分を大事にすることを選んでしまったこと」だと僕は感じました。その話を坂本さんにしたら「そういうこと、ありますよね」と。
共感してくださったんですね。
「忘れないと前に進めないけど、忘れるのが怖いときってありますよね」と言われて、伝わったなと思いました。嬉しかったですね。

また、ベディのモノローグで幕を閉じることは当初から決まっていたので、曲の入りをジャーンと明るくするのは違うと思って。“静”から入ってほしいとお伝えしました。
完成した『独白』を聴いたとき、どのような気持ちになりましたか?
最初はどう聴いたらいいんだろうと(笑)。注文通り、最初は静かなところからどんどん激しく曲調が変わっていくから、不思議な気持ちになりながら聴いていましたね。何回も聴くうちに、とてもいい曲だなという気持ちがより強くなりました。ベディの核心に迫るような歌詞と曲と歌声だと思います。

スタッフ、キャストでこだわりぬいたアフレコ現場

コロナ禍前だったので、キャストのみなさんが集まってアフレコできたと伺っています。
前半部分はキャストのみなさんが集まってアフレコ、後半部分は別々でのアフレコでした。
みなさんが集まってのアフレコの雰囲気はいかがでしたか?
ワイワイしていました。あのクラスの声優の方たちが一堂に会することって、なかなかないな……と今となっては思います。

そのときは映像が全然完成していなかったので、「これ本当に完成するのか……?」と思われていただろうなと(笑)。ベディの夢のシーンのラフには色がついていたので、「わー! あれはどんな映像になるんですか?」とみなさんが驚きながら聞いてこられたのが記憶に残っています。
アフレコの際には、末澤監督からキャストのみなさんに提案することも?
僕自身、初めてのアフレコでわからないことも多く、コンテのようなラフな画ばかりだったことから、やたらと細かい指示を入れていたと思います。あと、僕が細かいところに引っ掛かっていたので……。
どのような点に引っ掛かっていたのでしょうか?
語尾の言い方だったり、他の人は誰も気にしないような細かい点が気になってしまって。一度持ち帰って聞き直して、後日やっぱり録り直しをさせてくださいとお願いしたりしました。

すごく細かい点なのですが、そのあと音声を全部つないだ映像をみなさんに観ていただいたとき、「なるほど」と思っていただけたと思います。直感を頼るのは大切だと感じましたね。
たとえばどのような場面ですか?
ベディの夢のシーンでの「なぜ我が名を果たさぬ ベディヴィエール」というセリフですね。川澄さんに、獅子王の声色が変わるところはどうしますか?と聞かれて。僕は「動きの中でだんだん変わっていくのはどうか?」と言ったのですが、音響監督の明田川仁さんや周囲の人達からは「それだと中途半端になるから、カットが変わるのをきっかけにパッと変化したほうがいいのでは?」と言われました。僕はなるほどと納得して、パッと変わるほうでセリフを録ることにしました。

しかし、持ち帰ってつなげて聞いてみたところ、だんだん変わっていくほうがやはりいいと思った。カットきっかけだと整理されすぎていると感じました。中途半端な感じが重要だったんです。「あぁ、変わっていってしまう……」というベディの喪失感を演出できると思いました。それで、申し訳ないですが川澄さんにそのセリフだけ再録させていただきました。周囲に反対されても直感を信じてみよう、と思った出来事でした。

仁さんは、そんなわがままに何度も対応してくださって、とてもありがたかったです。
本作で主役を務めるベディヴィエール役の宮野さんには何かお伝えしましたか?
宮野さんには細々した演技の直しはしていないと思います。録り直しもほとんどしていないですし、指示もあまり出していない気がするな……。とても勘のいい方だな、という印象を抱きました。

アフレコの前に、本作で描かれるベディの説明をしたくらいですね。最初は疲れて気力を失っている状態ですが、いろいろな人との出会いを経て徐々に感情を取り戻していきます、と。そうしたら「わかりました」と、スッと演じてくださった。
なるほど。それでは最後に、劇場版『キャメロット』前編をこれから観ようと思っている方、そしてすでにご覧になられた方へ、メッセージをお願いします。
僕からはとにかく観てほしいなと。観てもらうことでしか、みなさんとコミュニケーションが取れないから。いろいろなご意見を見ていますが、ここまでハッキリ意見の分かれることにもありがたさを感じていて、まずは試しに観てほしいと思います。

この作品を観て抱いた感想を通して、FGOをどう思っているのか、FGOに何を求めているのか、そしてアニメーションや映画に何を求めているのかがわかるのではないかと思うんです。図らずともそういう作品になったので、観ようかどうしようかと悩んでいる方は、ぜひ観ていただいて、良いにしろ悪いにしろそれぞれの中で感想を持ってもらいたいという思いがあります。

ある意味、とても舌足らずな作品なんですよ。全部を説明していないからこそ、何回も観てもらったり、特定のキャラクターをよく観察してもらったりすることで、少しずつ新しい発見があるのではないかと思います。
末澤慧(すえざわ・けい)
1985年6月19日生まれ。香川県出身。アニメーション監督、アニメーター。2007年より、大学在学中にアニメーターとしてのキャリアをスタート。2018年の劇場版『フリクリ プログレ』では、共同ながら初の監督を務めた。2020年公開の『Fate/Grand Order -神聖円卓領域キャメロット- Wandering; Agateram』が個人では初の監督作品となる。

    作品情報

    『劇場版 Fate/Grand Order -神聖円卓領域キャメロット- 前編 Wandering; Agateram』
    2020年12月5日(土)より公開中!

    「『劇場版FGO キャメロット』」特集一覧

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