「遊べる本屋」をキーワードに、遊び心たっぷりの書籍や雑貨を次々送り出しているヴィレッジヴァンガード。オンラインショップでもユニークな商品が続々登場している。今回は、ヴィレッジヴァンガードオンラインショップで取り扱っている商品の中でも、近頃話題となっているあのブランケットなど、ヒット商品を多数手がけているエコードワークス代表の福澤貴之さんに、商品開発の秘話などについて話を聞いた。

【写真】思わずクスリ!ヴィレヴァンのヒット作&失敗作

■赤ちゃんがセリフをしゃべる?予約開始・即品薄のヒット作「お昼寝コミックブランケット」

オンラインショップで予約が始まると発売前にもかかわらず、品薄になった「お昼寝コミックブランケット」。吹き出しとセリフが描かれており、赤ちゃんがコミックの一コマになったように見えるおもしろグッズだ。種類は「狸寝入り」と「スヤスヤ」の2つで、価格はそれぞれ4400円(税込)。

福澤さんは「本商品は赤ちゃんを寝かせることでマンガの1シーンが完成するブランケット。ベビーフォトとして人気のお昼寝アートなどの背景として取り入れることができます。友人夫妻に赤ちゃんが生まれたことを機に、オリジナルのベビーグッズを制作してプレゼントできないかと思い立ち考案しました」と開発に至った背景を語る。

「ポイントはセリフやナレーションの内容で、生まれたばかりの赤ちゃんを寝かせることでストーリーが成り立つよう文言を工夫しています。ほかにもいくつかのバリエーションを用意しており、今後ラインナップを広げていくことを予定しています」と話す。新作の登場が楽しみだ。

■トリックアートで妄想を実現!「妄想マッピングTシャツシリーズ」

トリックアートを応用し、妄想を実現してくれるTシャツシリーズ(商品により価格は異なる)。「妄想マッピングTシャツ/ Illusion grid」(税込3300円〜)は、正面を向いた時だけ胸が膨らんで見えるTシャツ。プリントされたグリッド模様が印影を疑似的に表現し、リアルな錯視効果が得られる。

「本作は濃色Tシャツとシルクプリントで錯視効果を生み出すことにトライし、アンダーバストにうっすらと影が落ちているような錯覚の生成に成功しました」と開発時の工夫を振り返る福澤さん。「ぜひデイリーユースの1枚としてお楽しみいただきつつ、イチ作者として、街なかですれ違える日を心待ちにしています」とも。

妄想マッピングTシャツシリーズは足掛け7年で累計3万枚以上を売り上げたヒット商品。ほかには筋肉がうっすら浮き出しているかのように見えるTシャツや、女性のバストがチラ見えしているような、まさに「妄想」をかき立てる商品がそろう。

■契約成立なるか?「ザ・ポエティックマンション」

カードを組み合わせてマンションポエムを作り、より魅力的でおもしろいポエムを競い合うゲーム(2970円・税込)。「“マンションポエム”って何よ?」という声が聞こえてきそうだが、マンションの広告で「田園に住まう、贅沢」とか「川辺のきらめきまで、駅から徒歩10分」(以上は筆者の創作です)など、マンション広告でよく見られる「無駄に情感たっぷりで詩的なキャッチコピー」のことを「マンションポエム」と呼び、隠れファンが潜んでいるのだとか。

エコードワークスの福澤さんも、ファンの一人。それを何かのプロダクトに生かせればと考えていたところ、マンションポエムが生成できるカードゲームの企画をひらめいたそう。

遊び方はカードを組み合わせてポエムを作り、架空のマンションをより魅力的に訴求して制約を勝ち取るというカードゲーム。「家族とにぎやかに過ごしたい」など、お客様の要望を設定する「テーマカード」、ポエムを生成する「ポエムカード」、「資料紛失」など、ゲームの行く末を左右する「アクションカード」を使い分けてゲームを進める。

「ポエムカード」は上の句、中の句、下の句の3文節に分けられ、組み合わせは15000通り以上。会社員役のプレイヤーはポエムを生成し、お客様役のプレイヤーにプレゼンする。そしてお客様役が気に入ったポエムを一つ選び成約と相成るが、それを阻むアクションカードもあり、なかなかひと筋縄ではいかないのがおもしろいところだ。

福澤さんがこのゲームをひらめいたきっかけは、興味本位で訪れたタワーマンションのモデルルーム見学。それからカタログやチラシ、ティッシュまでマンションの広告をかき集めたそう。さらにゲーム制作の経験者も含めた友人らとブラッシュアップし、現在の形ができ上がったとか。カードが生成するマンションポエムの数々は必見だ。

■意識高い系?「スマホをやめて本を読め(スマホケース)」

新書を読んでいるように見え、意識高い系を装えるスマホケース(3300円・税込)。タイトルと商品が相矛盾する、アイロニーたっぷりの商品だ。福澤さんによればイチオシのポイントは「ひと目でわかる新書らしさ」と「どこからともなく醸し出される偽物っぽさ」だそう。

一見新書風。だけど偽物っぽいデザインが絶妙だ。「かしこまっていそうでいて、随所に小ネタがちりばめられており、どこからともなく嘘っぽさがにじみ出てくる絶妙なバランスを目指しました。たとえば、帯に書かれた“みんなが絶賛”といういい加減でバカっぽい表現などもそのひとつ」と福澤さんが語るように、あちこちに小ネタが仕込まれているのも楽しいポイントだ。

■子供のころの願望を実現?「HANAGA TAP(鼻型コンセントタップ)」

子供のころ、家電のプラグをこっそり鼻に入れようとしたことはないだろうか。そんな潜在的な願望をかなえてしまったのがこのタップ(1980円・税込)。

白のプラグを接続すれば鼻から牛乳、黒のプラグなら鼻毛、赤なら鼻血。2口、3口のコンセント全体を覆いつくしてしまう鼻型のタップは非実用的ではある。だけど、見た目のインパクトと遊び心が非実用性を吹き飛ばしてしまう。

鼻の形がリアルで、プラグを差し込むとそれもおかしみを誘う要素の一つだが、福澤さんによれば最も苦労したのが「鼻のフォルムの追求」だったそう。商品を見れば、その苦労は十分報われているといえる。

■谷間めがけて飛び込め!「タニマダイバー(ネックレス)」

胸の谷間めがけて飛び込んでいくネックレス型ウェアラブルフィギュア(2200円・税込)。「ミニフィギュアの新しい場所を作りたかった」ことが、開発のきっかけだという。

「女性にとっては目を引くフィギュアを身に着けることで胸元のアピールになり、さらにそれを目視することへの正当な(?)理由付けになる」のが自慢のポイントだと福澤さん。しかし、そのようにニッチなフィギュアのニーズがあるのかどうかも悩んだものの、クラウドファンディングで出資を募ったところ目標以上の賛同者が。悩みは見事解決したという。

■失敗作もヒットへの布石になる

こうしてみるとヒット作やユニークな商品が次々と誕生しているように見えるが、中には人知れず消えていく商品も。

その一つが2018年秋ごろに制作した「スマホの気持ち可視化ケース」。スワイプされたりタップされたりしているスマホの気持ちをスマホの背面でコミック調に表現した。

福澤さんは「プロトタイプを作成し、一応希望者がいれば受注生産で販売できる体勢だけは最低限整えていたのですが、このデザインですとスマホの機種ごとに印刷データを用意する必要があったり、カメラ穴の位置によってはデザインが破綻してしまったりと生産面での課題も多く、制作当時も積極的にアピールしにくかった側面があります」と振り返る。

SNSで紹介するも大きな反響があったわけでもなく、試験販売も含めてフェードアウトしてしまったそう。しかし「結果的にこのスマホケースは売れずとも、当時コミックモチーフのスタディを経験したことが、今回のお昼寝コミックブランケット開発の布石の1つになったと思います。実際、このスマホケースのために用意した一部の素材は、そのままお昼寝コミックブランケットで活用していたりもします」とポジティブな結果になっている。

■間接的な要素がいくつも連なってヒット作につながる

もう一つが「ビールみたいな哺乳瓶ソックス」。こちらは今年の春先にベビーグッズとして開発した。哺乳瓶でミルクを飲む赤ちゃんが、缶ビールを飲んでいるかのように見せるデザインの哺乳瓶カバーだ。

開発のきっかけは「ビール党夫婦への出産祝いに相性がよさそうだと考えて制作しました」とのことで、デザインは程よくかわいく缶ビールらしさもあり、絶妙な仕上がりだと自負するだけのことはある。SNSでも少なからず反響はあったそうだ。

しかし「『ビール党夫婦への出産祝い』というニーズ自体がニッチで、そもそもの絶対数が少なかったためか、SNSでの投稿も比較的狭いコミュニティ内でしかシェアされていなかった様子で、話題が一線を超えずに尻すぼみしていったような印象でした」。

結局半年ほどは在庫が動かず、手元に残っている状態だったという。しかし、これもお昼寝コミックブランケットの開発に活かされ「より多くの人がクスッと笑えるようなテイストに仕上げたい」と考えるきっかけになったという。

今回お昼寝コミックブランケットが話題になったことに伴い、ベビーグッズ関連の前作として哺乳瓶ソックスを目にする人が増え、そこから半月程度で哺乳瓶ソックスはめでたく完売した。

この経験を通じ福澤さんは「情報拡散、広告宣伝のあり方について考えさせられる機会となりました。『よいものを作る』=『よいものだから拡散される』とは限らず、『よいものを作ること』と『それをよいと感じてくれる人の元へ情報を届けること』は別物として、制作と宣伝の両輪が噛み合わないと販売には繋がらない⋯というのは基本的な話ですが、それが非常にわかりやすく現れた事例だと思います」と分析する。

「結果的に、コミックモチーフのスマホケースは量産に至らず、ベビーグッズの哺乳瓶ソックスは初動に勢いがつきませんでした。しかしこういった間接的な要素がいくつも連なって、今回のお昼寝コミックブランケットの開発につながりました。そして今回の件もまた、今後の開発に何かしらの形で関わってくるのではと、思っています」。

ヒット作品は偶然生まれるのではなく、それまで積み重なった要素がすべて有機的に結びついた結果誕生するということがよくわかる、貴重な体験談だ。

■おもしろ商品を見付けるポイントは?

こうした遊び心たっぷりの商品を探し、世に送り出すのも、ヴィレッジヴァンガードオンラインの仕事の一つ。メーカーからの新作紹介はもちろんだが、SNSやお店、展示会などでも随時“いいところをついているね”という新商品や新規メーカー、クリエイターを探しているとのこと。次は何が登場するか、同社の商品から目が離せない。

取材・文=鳴川和代