コロナ禍で生活者にさまざまな行動変容が起きた。住宅にかかわる行動変容を調べていくと、「住まいの選び方」と「働き方」がまさに表裏一体と感じることが多い。そんななか、リクルートホールディングスが、「Afterコロナの”働く”と”住む”の関係性」をテーマにした、オンラインによる「コレカラ会議(第3回)」を開催した。どんな変化が起きるというのか、紹介しよう。【今週の住活トピック】
「コレカラ会議」第3回を開催/リクルートホールディングス

「コレカラ会議」とは何ぞや?

例年、リクルートホールディングスでは、その年の「トレンド予測」を発表していた。SUUMOジャーナルでも、これまで度々記事として紹介してきた。しかし、世界中がコロナの真っただ中にいるなか、例年とは違う形でトレンドを予測しようとしている。

事務局の説明によると「今までの『社会における良い兆し』の発信から、一段進化して『日本の未来を“良い未来につなげる兆し”』の発信へとシフトする」のだという。すでに、仕事と教育の関係性をテーマにした第1回、婚活、仕事、進学の関係性をテーマにした第2回が開催されている。

そして第3回は、筆者の専門領域である「住まい」と、コロナ禍で表裏一体だと強く認識された「仕事」の関係性からafterコロナの“良い未来につなげる兆し”を発信する、オンラインセミナーが12月2日に開催された。

暮らし方も変わり、働く人も変わる「クラシゴト改革」が起きる

リクルート住まいカンパニー『SUUMO』編集長の池本洋一さんと、リクルートキャリアHR統括編集長の藤井薫さんによる発信の内容を整理すると、次のようになる。

まず、コロナ禍で、「働き方」が変化した。自由に「テレワーク」ができるようになったり、副業を認める企業が増えたりした。特に、テレワークは多くの人に肯定的に受け止められ、今後も何らかの形で継続すると予測される。

そうなると、勤務先に通勤するという前提が薄れるので、通勤重視で選んだ今の家に住み続ける必然性がなくなり、住む場所の選択肢が広がってくる。また、通勤時間が無くなったことで新たな時間が生まれ、その時間を、自分がやりたかったことに使えるという状況も生まれた。
まとめると、テレワークがキッカケとなり、「仕事や暮らしの自由度・裁量度」が増すという変化につながったと発表された。

第3回「コレカラ会議」の様子(撮影:リクルート住まいカンパニー広報)

藤井さんによると、コロナ禍において、自分の人生・キャリアを見つめ直した人も生まれた。人生とは何か、自分にとって幸せとは何かを見つめ直した結果、自分のやりたい暮らしを実現するために、仕事選びにおいても時間の自由度やテレワーク・副業の裁量度などが重視されるようになっている。

こうしたことから、with コロナ・afterコロナに加速すると予測されるのは、画像2のように「暮らし方」と「働き方」もともに変える「クラシゴト改革」を行う人が増えることだとしている。

第3回「コレカラ会議」資料より転載

「クラシゴト改革」を先取りする人も多数出現?

実は、すでにこれを先取りして、暮らし方も働き方も変えてしまった人がいるという。池本さんは7人の実践者を紹介した。

●テレワークとフレックス制を利用して、都内とワーケーションの暮らしを実現
(20代後半、独身男性の事例)
コロナ前は、IT関連会社に通勤勤務。コロナの影響でフルテレワークに変わり、誰にも会わない生活に。そこで鎌倉の実家に戻って、朝夕は趣味のサーフィンを満喫する生活に変える。都内の自宅に戻ってからも、小田原などでワーケーションしながら、サーフィンを続ける。勤務先が試験的に、自宅以外の場所でのテレワークを認めたことが大きかった。

●副業に加えてテレワークが可能になり、多拠点居住の生活を実現
(20代後半、妻と二人暮らしの男性の事例)
コロナ前は、民間気象会社に通勤勤務。副業を認めてもらい、フォトグラファーの仕事も週末にしていた。コロナの影響でテレワークが可能になり、多拠点居住を開始。平日も朝夕はフォトグラファーの仕事ができるようになり、土日は撮影に加えてさまざまな場所に行き、感性を磨けるようにもなった。多拠点居住では、住まいの定額制サービス「HafH」を利用するなど、住居費の抑制に工夫をしている。

第3回「コレカラ会議」資料より転載

ほかにも、テレワークが可能な会社に転職して、東京で子育てをしながら、地域おこしのふるさと副業に参画した人の事例、フルテレワークになって生まれた時間を、地元の飲食店支援などのコミュニティ活動を行った人の事例などが紹介された。

藤井さんからは、働き方を変革する企業の事例紹介があり、時間と場所の自由裁量が広がると、仕事やキャリアを変える人が出てきて、生き方そのものを丸ごとデザインし直す人が増えていくとまとめた。

最後に、オンライン会議では質疑応答の時間もあり、「これまで言われてきた“働き方改革”と今回の“クラシゴト改革”とは、根本的にどこが違うのか?」という質問があった。

それに対して、藤井さんは「働き方改革は会社の中が前提で、暮らしは関与していませんでした。新しい価値を創出する場が、生活者の体験に広がっていったという点が大きな違いでしょう」と、池本さんは「今回取材した方々は、自らがこうした暮らし方をしたいと会社に働きかけて実現していました。主権が移動したというと言いすぎかもしれませんが、会社側でなく自らが自己裁量権を拡大させているという点が違いだと思います」と回答した。

さて、筆者が見る限り、「コロナ禍でさまざまな行動変容が生じている」ことを示す調査結果は多い。テレワークを急速に導入した企業もあり、「仕事は勤務先に通勤して行う」という、これまでの常識が打ち破られる事態が起きた。この影響は大きく、自宅で仕事をする場所を確保するようになったり、通勤時間が無くなって生まれた時間を活用しようと考えるようになったりして、どこにどんな家に住むかを考え直す人も増えてきた。

加えて、コロナ禍で働き方改革が加速された。柔軟な働き方を可能にする企業が好まれるようになり、企業に勤務して安定した収入を得ながらも、働く場所や住む場所を変えようという人も出てきた。加えて、住まいの定額制などの新しいサービスが利用できるようになったり、都心の生活者を受け入れようとする地方自治体や企業があったりして、やりたいことが実現できる環境が整ってきた。

こう見ていくと、コロナによってできなくなったこともある一方で、新たに実現できるようになったこともある。これを機会に自分らしい生き方を考え直すのもよいと思う。


(山本 久美子)