韓国・ソウルの大型ビジョンに映し出されたNiziU(写真:Lee Jae-Won/アフロ)

毎年11月に「紅白歌合戦」(NHK)の出場者が発表されると、1年の終わりを感じ始めるのではないでしょうか。テレビ業界では、そのころから各局が1年を締めくくる大型音楽特番がスタート。25日にそのトップバッターとして、日本テレビが4時間特番の「ベストアーティスト2020」を放送しました。

放送後、ネット上にはさまざまな記事やコメントが飛び交っていますが、なかでも目立っていたのはK-POPグループに関するもの。実際、同特番には、IZ*ONE、ジェジュン、TOMORROW X TOGETHER、NiziU、BTS(五十音順)の5組が出演し、NiziUは2回パフォーマンスを披露しました。

12月2日、9日の2夜にわたって放送されるフジテレビの「FNS歌謡祭」にも、すでにIZ*ONE、ENHYPEN、ジェジュン、NiziU、BTSの出演が発表済み。なかでもENHYPENは今年オーディション番組で結成されたばかりのグループで日本の音楽番組初出演であり、さらなるK-POPグループの出演も考えられます。

また、テレビ朝日が12月25日に放送予定の『ミュージックステーション ウルトラSUPER LIVE2020』、現段階では未発表ですが、例年放送されているTBSの『CDTVスペシャル! クリスマス音楽祭』へのK-POPグループ出演も間違いなくあるでしょう。

「戦後最悪」と言われるほど日韓関係が悪化し、「嫌韓感情が増した」という人は決して少なくありません。そんな批判を受けやすい状況の中、なぜ各局はK-POPグループを重宝するのでしょうか。掘り下げていくと、主に4つの理由が浮かび上がってきました。

スポンサー受けのいいファン層と熱気

真っ先に挙げなければいけないのは、ファンの熱気と年齢層。

例えば、NiziUのプレデビューアルバム『Make you happy』はオリコンで女性アーティスト初となるデジタルランキング3部門同時1位のほか、国内音楽配信サイトで87冠、MVの再生回数も2カ月で1億回突破。12月2日リリースのデビューシングル「Step and a step」のMVも公開1日弱で1000万回突破する盛り上がりを見せています。そのほかにも、昨年12月に東京、1月に大阪、2月に福岡でドーム公演を行ったBLACKPINK、同じく3月にドーム公演を予定していたTWICE、アメリカ・グラミー賞にノミネートされたBTSが日本でも人気があることは言うまでもないでしょう。

K-POPグループはネット戦略に長けていることもあって、「MVやショーケースの動画を次々に見る」「デジタルのリリースやライブを買いまくる」などとファンの熱が高まりやすく、物販力にも定評があります。そんな熱気は、「出演番組をリアルタイムで見てファン同士で盛り上がりたい」という気持ちにつながるなど、視聴率に直結しやすいことも起用理由の1つ。実際、「ベストアーティスト2020」の世帯瞬間最高視聴率はNiziUがデビュー曲を披露したときの16.0%でした(ビデオリサーチ調べ、関東地区)。

さらに、K-POPグループのファン層がスポンサー受けのいい若年層であることも重要なポイント。「ベストアーティスト2020」の出演時間を見ると、19時台に3組(ジェジュン、TOMORROW X TOGETHER、NiziU)、20時台に2組(IZ*ONE、NiziU2回目)、21時台に1組(BTS)でした。若年層が見やすいように早めの時間帯に配置して、視聴率を取ろうとしていたのです。

つまり、K-POPグループは「大人の中には嫌いな人も多いけど、子どもたちの中には大好きな子が多い」ということでしょう。だからこそ、今春の視聴率調査がリニューアルされたことで視聴者層の若返りを図っている各局にとって、K-POPグループは必要な存在なのです。

日本人メンバーとレコード会社の存在

2つ目の理由は、K-POPグループの中に日本人メンバーが増えたから。3人の日本人メンバーがいるTWICE(サナ、モモ、ミナ)を筆頭に、IZ*ONEも3人(宮脇咲良、矢吹奈子、本田仁美)、NCTは2人(ユウタ、ショウタロウ)など、年を追うごとに日本人メンバーの数が増えています。9人全員が日本人のK-POPグループ・NiziUは、その最たるものでしょう。

さらに今年だけでも、TREASUREのハルト、ヨシ、マシホ、アサヒ、ENHYPENのニキ、aespaのジゼルなど、10数人もの日本人がK-POPグループのメンバーとしてデビュー。運営サイドが営業戦略として日本人をグループに組み込んでいるだけでなく、最初からK-POPグループでのデビューを目指す日本人が増えているため、来年もこの傾向は続いていくでしょう。

グループの中に日本人メンバーがいることで、「日本人を応援してもらう」という起用の大義名分ができるうえに、番組内でのコミュニケーションも万全。日本の音楽番組ならではの構成・演出を理解してもらうことも、トークパートで盛り上げることも可能であるなど、制作面での不安はほとんどないようです。

また、K-POPグループの楽曲は韓国語版だけでなく日本語バージョンがリリースされ、ソニーミュージックやユニバーサルミュージックジャパンなどの日本のレコード会社が関わっていることも、彼らの番組出演が多い理由の1つ。楽曲を販売するだけでなく、音楽番組に出演したり、番組のテーマソングや挿入歌にしたり、ライブを行うために、日本語バージョンを作っているのです。

熱心なファンほど韓国語バージョンを聴く人が多いものの、それだけでビジネス的なスケールは十分とは言えません。だからこそ日本語バージョンを作って売ることで日本企業も収益を得ていますし、日ごろ取引のあるテレビ局もK-POPグループを起用しているようです。

「プロが起用せざるをえない」スキル

3つ目の理由は、ハイレベルなパフォーマンス。近年、音楽番組に、「歌が下手なアーティストが増えた」「それどころか口パクが当たり前になってしまった」「ダンスもお遊戯会みたいなものばかり」などと厳しい声が飛ぶようになっていました。

その点、デビューの段階から徹底的に鍛え上げて「世界に送り出せるレベルの完成品を見せる」という方針で育成されたK-POPグループにスキル面での心配はありません。例えば、今年1月に日本でCDデビューを果たしたTOMORROW X TOGETHERは、「ダンスのシンクロ率90%超」を前面に出して人気を獲得しつつあります。

日本の音楽番組に携わっているプロフェッショナルたちがそんな彼らのスキルに気づかないはずがありません。むしろ音楽番組に携わっているからこそ、彼らの人気だけでなく、スキルも認めて起用せざるをえないのです。

また、日本のアイドルグループに「育てながら売る」「未熟なころから成長するまでの姿を見せる」というスタイルが多いことも、K-POPグループを起用する一因と言えるでしょう。これはスタイルの異なる日韓のグループをそろえることで、番組としてのバランスを整えることが可能になるからです。

作り手だけでなく視聴者側も、ネット動画の普及でMVなどを見る機会が増え、歌とダンスを見極める目が肥えてきました。K-POPグループのグローバルな活躍もスキルの説得力となり、日本のアイドルグループに物足りなさを覚える人々の心をつかんでいるのです。

また、今年はコロナ禍によって、多くの人々がリモート画面を見ることに慣れました。韓国に限らず海外在住のアーティストがテレビ番組に出演する機会も増え、例えば「ソウルのスタジオからの生中継」も決して珍しくありません。作るほうも見るほうも海外からの出演を受け入れやすくなっていることが、さらなるオファーにつながっているのでしょう。

虹プロとParkさんで好感度アップ

これまで挙げた3つの理由に加えて、今年新たに追加されたのが、「Nizi Project」によるK-POP全体の好感度アップ。「Nizi Project」は韓国の芸能事務所・JYPエンターテインメントと日本のソニーミュージックによる合同プロジェクトであり、現在のNiziUメンバーを発掘・育成しました。

今年1月にHuluでスタートしたオーディション番組「Nizi Project」の序盤はほとんど話題になっていませんでしたが、「スッキリ」(日本テレビ系)が繰り返し特集を組んで放送したほか、3月にYouTubeでの公開が始まったあたりからジワジワと人気が浸透。オーディションが佳境に入った4月には「虹のかけ橋」(日本テレビ系)という番組も加わり、「スッキリ」でもゴールデンウィークに集中放送するなど、K-POPファン以外の目にもふれる機会が増えました。

そのオーディションで候補者たちが歌い、踊っていた大半の楽曲はK-POP。ふだん聴かない人もK-POPの楽曲になじみができたことで、音楽番組を手がける各局のスタッフが起用しやすくなったのは間違いないでしょう。

さらにNiziUのプロデューサー・J.Y.Parkさんの人情味あふれるコメントも、K-POPグループ全体の好感度アップに貢献しました。強烈な嫌韓感情のある人を除けば、「音楽は別物だから問題ない」「音楽番組に出るくらいならまあいいか」というムードになっているのです。

ここまで「ファンの熱気とスポンサー受けのいい年齢層」「日本人メンバー増加と日本のレコード会社」「ハイレベルなパフォーマンス」「『Nizi Project』によるK-POPの好感度アップ」。複合的な理由が重なっているだけに、この傾向がすぐに変わることはないでしょう。音楽の世界において日韓の交流はますます盛んになり、音楽番組ではこれまで以上にK-POPグループの姿を見るようになりそうです。