来季のJ2昇格を賭けた闘い。J3はその最終盤を迎えている。ブッチギリの強さで既に優勝と昇格を決めた秋田は別格にして、その下には勝ち点差僅かで昇格圏の争いが続いている。29日は暫定4位で勝ち点49の長野と勝ち点46で上位に食らいつきたい今治の直接対決がおこなわれた。前日には既に相模原が勝ち点を53にまで伸ばして2位に立っているだけに、両者にとって残り5試合はひとつも落とすことができない状態だ。

 試合は開始3分で大きく動く。長野のFW吉田が相手陣でプレッシャーを掛け、最終ラインでビルドアップに参加していた今治のMF楠美からボール奪取。あわやGKと1対1という場面を作り出す。これを楠美自らが後ろから倒してしまい、決定機阻止の判定で一発レッド。いきなり今治は残りの87分を数的不利の状態で戦わざるを得ない状態に追い込まれた。

 一気に長野に流れが加速するかと思われたが、現在2連敗中の長野も今治ゴールを脅かすまでにはいかない。今治の4‐4‐1の守備ブロックを何度か突破しても、シュートの軌道はなかなかゴールに向かわない。前半では唯一のあわやのシーンは22分にMF藤山のバーを叩いたシュートのみ。ホームのサポーターにとってはじれったいシーンが続く。

「自分が得点を取ることができていれば2連敗もなかったし、力のなさも痛感している」(FW吉田)

 決定力のなさは日本サッカーの永遠の課題だといわれるが、特に長野のように外国人選手がいないクラブにとってはこれをどう克服するかが重要なミッションとなる。

 一方の今治だが勝利と引き分けの線引きが難しい試合となった。数的な不利の中で無理して勝ちにいくと、失点するリスクは高まる。0‐0の状態をいかに長引かせ、セットプレイなどのワンチャンスを活かして1点取って逃げ切るかという戦いを見せていた。特に後半に入ってからはMF玉城が1トップのレオ・ミネイロに近い位置を取り「押し込まれたあとのクリアだったり、セカンドボールの起点、攻撃の起点になるのが狙い」(玉城)

 数的不利の今治が長野を押し込む時間帯も僅かとはいえ作り出すことはできた。ただどうしてもチームとしては押し込まれる展開になり「早い時間に10人になり、すごく難しい試合になってしまった。守る時間がすごく多かったが、なんとかチーム全体で耐えながらひとつふたつのチャンスをモノにしようと守備を頑張った」(DF園田)

 大きく全体の流れは変わることなく、結果的に今治のシュートは2本に終わっている。

 圧倒的有利な状態にありながら、ことごとくシュートチャンスでボールを枠に運べなかった長野。残り時間10分のところでようやく試合を動かすことに成功した。CKからのボールを吉田が頭で合わせるが、これはバーを直撃。またかと思われたが、混戦でDF広瀬が頭で繋ぎ、最後はMF東が脚でこじ入れた。

「ボールがバーに当たって上に上がったときに、広瀬が競り勝つと思ったので、こぼれ球に行く準備をしていた。しっかりこぼれてきたのはラッキーだったと思う」(東)

 虎の子の1点が長野にもたらされた。実はこのゴール判定に今治の選手は東がオフサイドだったと猛抗議をした。ちょうどそのタイミングでゴールシーンが場内の大型ビジョンに映し出されており、今治は「あれを見てくれ」とレフェリーにアピール。ところが東にボールがわたるシーンの直前に、パッと画面が切り替わってしまい、今治の選手ベンチがずっこけるとコントのような事が起こった。元々VARがない以上、どう抗議しても判定は覆ることはないだけに、今治も残された時間の中でどう戦うかに頭を切り替えるべきだった。

 結果的にこの1点が決勝点となり長野に勝ち点3がもたらされた。2位相模原との勝ち点差は僅か1。

「今日のミーティングでも選手達に伝えたが、(プレッシャーの)その重みをどう捉えるかだという事。プレッシャーと感じて恐れてしまうのか、それとも、遣り甲斐や幸せを感じることが出来るか。僕は今監督だが、選手だった頃の立場から考えて『この状況は幸せでしかない』という事を話した。このプレッシャーが楽しみに感じなければ、プロサッカー選手としてまだまだなのでは」(横山監督)

 一方の今治は2位相模原との勝ち点が7に開き、残り4試合での逆転は限りなく難しい状態に追い込まれた。ただ今年JFLから昇格したばかりのクラブとしては上出来も上出来だといえる。

 かつてない混戦の中で続くJ3の最終盤戦。僅かな勝ち点差の中でひしめく戦いに終止符を打つのはいったどのチームか。残り4節、まったく目が離せない。

文/吉村 憲文