座間9人殺害事件の裁判員裁判の公判が開かれた東京地裁立川支部の101号法廷(写真:共同通信)

自殺者が増えている。10月だけでも全国で自殺した人は2158人になり、前年同月と比べて619人、40.2%の増加だ。この増加傾向は今年7月から続いている。

それに、今年になってから、いわゆる芸能人の自殺が目立つ。9月には女優の竹内結子と芦名星が、7月には三浦春馬が自ら命を絶っている。さらにさかのぼれば、フジテレビの番組『テラスハウス』に出演していた女子プロレスラーの木村花が、5月に自殺している。同番組をめぐるSNS上での誹謗中傷が原因であるとされる。いずれも22歳から40歳までの若い世代だ。

こうした日本の状況を象徴するような事件の裁判員裁判が11月26日に結審した。神奈川県座間市のアパートで男女9人の遺体が見つかった事件だ。

自分も自殺願望があるようにして誘う

白石隆浩被告(30)は、2017年8月から10月にかけて、ツイッターで自殺願望をほのめかす相手を見つけると、自分にも自殺願望があるように「いっしょに死にましょう」「殺してあげます」などと持ちかけて、遺体発見現場となったロフト付きのアパートの部屋に誘い、殺害している。

しかも、9人中8人は15歳の高校生から26歳までの若い女性で、部屋で首を絞めて失神させたあとに、必ず性行為に及んでから、首に巻いたロープで30分から1時間ほど吊るして確実に命を奪っている。

残る1人の20歳の男性は、最初の被害女性Aと白石被告と、自殺を目的に3人で会ったことから面識があり、事件の発覚を恐れたことが理由だった。

いずれも絞殺したあとは、ロープから降ろした遺体をバスルームに運んで解体。その一部は一般ゴミといっしょに捨て、頭部などはクーラーボックスなどに詰めて部屋に置いていた。その9人の遺体の一部が、同年10月30日にアパートから発見された。

9人の所持品のうち現金は、勝手に自分で使っていた。つまり奪ったことになる。

まさに猟奇的な事件だった。

もともとは、路上やネットを使って風俗のスカウトの仕事をしていた白石被告。それが「女性のヒモになりたい」と考えはじめ、スカウトの経験から「自殺願望のあるような女性なら言いなりにしやすいだろう」と判断したことが、自殺願望を持つ女性とつながるきっかけだった。

法廷で白石被告はこう語っている。

「ツイッターを使ってキーワード検索をし『疲れた』『さみしい』『死にたい』とつぶやいている女性をフォローしたりダイレクトメールを送ったりしました」

「何か悩みや問題がある人のほうが口説きやすいと思いました。操作しやすいということです」

そこで最初の被害者となる女性Aと実際に会う。だが、そこでは自殺を思いとどまらせる。

「もともとヒモになることや、お金を引っ張るという目的に対して、頑張って口説こうと思っていました」

彼女に貯金のあることはわかっていた。その金でいっしょに住むことを前提に、ロフト付きの部屋を借りる。ロフトがあれば、首を吊りやすいと考えたからだった。

すると彼女に、他の男の影を感じるようになる。いずれ彼女は自分から離れていく。そこで殺害を決意する。その手順は前述の通りだ。

金づるになりそうかを見極める

「継続的に、女性をレイプして、お金を奪おうと思いました。Aさんの件で約50万円と部屋が手に入り、いざ殺人や死体損壊をすると、意外とうまくいき、次もやれる自信がありました」

同じように、自殺願望のある女性を誘い出し、相手が金づるになりそうかどうか見極め、金づるになりそうもなく、本気で自殺する気もないと判断すると、いきなり首を絞めて性的暴行を加える。そして、ロープで吊るして、金を奪って、遺体を解体する。それを繰り返す。

裁判では、弁護側が承諾殺人を主張。被害者に自殺願望があったとして、「殺害方法や日にちを伝え、自らの意思で被告に会いに行き、死を実現させた」としている。

これに対して、検察側は「承諾はなく、単なる殺人」と主張。しかも被告人本人も、承諾はなかった、として弁護側と主張が食い違い、被告人質問でも弁護側の問いかけには答えようとしない、異例の展開になっていた。

被告人質問では検察の尋問に快活に答え、被害者全員について殺害直前の承諾は「なかった」と明言している。むしろ、最後の被告人質問で白石被告は、この期間のことについて、こう述べている。

「自分の快楽をずっと追い求めた生活だった」

こうして振り返ると、その猟奇性ばかりに視点がいきがちな事件だが、その前にまず着目すべきことがある。この事件の背景に隠された日本の事情だ。そこを見落とすべきではない。

なぜ、こんなに若い人たちが「死にたい」とつぶやき、白石被告と結びついたのか。実は、日本という国は、20代から30代の死因の第1位が「自殺」なのだ。それがもう20年以上も続いている。

判決までに77日間の審理期間が予定されていた、この座間の事件の裁判員裁判がはじまった9月、厚生労働省は昨年2019年の「人口動態統計」を公表している。

そこにある5歳ごとの年齢階級別に表示される死因の順位を見ると、15歳から39歳までの死因の第1位がいずれも「自殺」だった。2人に1人がなるとされる「がん」よりも多い。しかも、10歳から14歳まででは、「自殺」が死因の第2位を占め、2017年には同年齢階級の第1位になっている。

さらに、40歳から49歳までの死因の第1位は「がん」だが、第2位は「自殺」となる。50歳から54歳まででは「自殺」が第3位、55歳から59歳までで第4位、60歳から64歳までで第5位だ。

国内の日本人の自殺者数は、3万2000人を超えた2003年をピークに、年々減少傾向にある。ところが、20代、30代の死因の第1位が「自殺」である傾向は、もう20年以上変わらないで推移している。こんなに若者が自ら死を選ぶ国は、先進国といわれるなかでも日本だけだ。

欧米各国の死因1位は「事故」

政府は10月27日の閣議で2020年版『自殺対策白書』を決定している。その中でも、15歳から39歳までの死因の第1位が自殺であることを確認すると、「先進国の年齢階級別死亡者数及び死亡率(15〜34歳、死因の上位3位)」とする図表を提示している。

それによると、2013年から2015年までの各国の統計で、日本は自殺が死因の第1位だが、フランス、ドイツ、カナダ、アメリカ、イギリスは、いずれも自殺が第2位で、イタリアは第3位となっている。各国とも第1位は「事故」だった。

人口10万に当たりの死亡者を示す自殺の「死亡率」を見ても、日本は16.3だが、フランス7.9、ドイツ7.5、カナダ10.6、アメリカ14.1、イギリス7.4、イタリア4.1となっている。やはり日本が高いことがわかる。ちなみに、韓国は同年齢階級の死因の第1位が自殺で、死亡率は日本と同じ16.3となっている。

今年の死亡者数の増加は、新型コロナウイルスの影響が考えられる。そうだとすると、これは「新型コロナウイルス関連死」と見たほうが正しい。

芸能人の自殺が目立つのも、個々の事情を検証する必要はあるとしても、もともと同年齢層の自殺が多かったことを加味する必要がある。

まして、座間の事件が起きたのは3年前のことだ。前述のようにこの年は10歳から14歳までの死因も第1位が自殺である。

ずっとそんな状況が続く日本の現実を突いたのが、この事件だった。希死念慮を抱く若者がこの国には多いことを、少なくとも白石被告は知っていた。そういう人間を操作しやすいという自信も抱いていた。だからこそ、不気味なのだ。

現代の日本の闇を象徴する座間事件

国は、芸能人が自殺すると「厚生労働大臣指定法人いのち支える自殺対策推進センター」が厚生労働省と連名で、「メディア関係者各位」とする通達を出し、報道を過度に繰り返さないこと、自殺に用いた手段について明確に表現しないこと、などWHO(世界保健機関)の『自殺報道ガイドライン』を踏まえた報道に徹するように要請する。模倣して若者の自殺が増える傾向にあるからだ。

しかし、自殺者数が減少傾向にあったとは言え、若者の自殺が死因の第1位であったことは、もう20年以上も改善されないできた。メディアに注意喚起する以前に効果的な対策が実施できていないことの証左だ。

それができないから、今回のような事件を生んだ。現代の日本の“闇”を象徴する事件なのである。

検察は最後に白石被告に死刑を求刑した。判決は12月15日に言い渡される。