戦術は、戦略を遂行するための手段である。

 それは、サッカーの世界ではチームのキャラクターとなっている。いかに戦うのか。それを日々の練習で鍛え上げ、確立する。その色は、90分の中で否応なく出てきて、必ずしも勝ち負けを決めるものではないが、長い目で見て、大きくモノを言う。戦術が鍛えられていないと、たとえ目の前の試合で勝ったとしても、偶発的な勝利となって後が続かないのだ。

 戦術がトレーニングによって鍛えられたチームは、しぶとさがある。

 それぞれの監督が、異なるアイデアでチームを率い、一つの形にする。その点、戦術は監督次第で変わる点はあるだろう。あるいは、対極的な戦いになるかもしれない。
例えば、マンチェスター・シティを率いるジョゼップ・グアルディオラと、アトレティコ・マドリーのディエゴ・シメオネ監督は、対照的な戦術を信条としている。能動的と受動的、あるいはボールありきか否か。コンセプトからして違い、麾下選手の顔ぶれも変わる。
 
 ただし、二人の指揮官のアプローチは似ているかもしれない。

「多くの人が、(シメオネとグアルディオラを)正反対だと考えるかもしれないね。全く共通点などないと。でも、似ているんだよ」

 昨シーズン、アトレティコからシティに移籍したスペイン代表MFロドリはそう証言している。ロドリは、シメオネ、グアルディオラと二人の監督の指導を経験した選手だ。

「どちらの監督も、とても(勝負に関して)激しい。とにかく仕事熱心で、毎日、選手たちのベストを引き出そうとする。練習を試合のようにとらえ、学ぶ機会とし、100%を求めるのさ。そこから初めてフットボールコンセプトを伝えるところになる。二人から指導してもらって、僕はとても幸運だと感じているよ。自分のサッカーを成熟させる上でね。

 二人のフットボールの捉え方は、確かに違う。シメオネは、各ラインを一つにし、選手を密集させ、フィジカル面で優れたタイプを積極的に用いる。相手としては、その堅陣を破るのは相当に骨が折れるだろう。グアルディオラは同じ守るでも、それはボールを握ることにある。とにかく、相手に攻めさせない、攻め続ける。コンセプトの違いだ」

 一方で、ロドリはこんな話もしている。

「自分はミッドフィルダーとして、自分のサッカーでチームに貢献する。それだけさ。プレーに参加して、奥行きを与えながら、ボールを呼び込み、センターバックの問題を解決し、中盤とリンクさせる。それはアトレティコでも、シティでも、何ら変わっていない。試合をコントロールし、パスを増やし、できるだけ敵陣でプレーするように」

 戦術の中で、選手は果たすべき役割がある。もっとも、選手が与えられた戦術を運用し、彼らがプレーによって戦術の枠を広げた時、本当にチームは革新するのだ。

文●小宮良之

【著者プロフィール】
こみや・よしゆき/1972年、横浜市生まれ。大学在学中にスペインのサラマンカ大に留学。2001年にバルセロナへ渡りジャーナリストに。選手のみならず、サッカーに全てを注ぐ男の生き様を数多く描写する。『選ばれし者への挑戦状 誇り高きフットボール奇論』、『FUTBOL TEATRO ラ・リーガ劇場』(いずれも東邦出版)など多数の書籍を出版。2018年3月には『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューを果たした。