いまのクルマは据え切り前提で作られていると言ってよい

 クルマを停車させたままハンドルを切る、いわゆる「据え切り」。この据え切りは、ステアリング系への負荷が大きく、タイヤにもダメージを与えるので、タブー視するする声が多く聞かれる。とくに中高年のドライバーは、パワーステアリングがない時代のクルマを知っていて、パワステなしで据え切りをするのには、非常に大きな力が必要だったことを覚えているので、据え切りの負担の重さが身に沁みている。その経験から、「据え切りはクルマによくない」と考えるのは自然なことだろう。

 また、油圧式のパワステが普及したあとも、据え切りを多用したり、ハンドルを目一杯切った状態を数秒間キープすると、ポンプに大きな負荷がかかり、フルードにキャビテーションが生じて一時的にパワステが効かなくなったり、パワステフルードがリークするといった問題もあった。

 では電動パワステが主流になった最近のクルマの場合どうなのか。

 じつをいうと、近年、クルマのボディサイズはどんどん大型化してきている。それに合わせ、最小回転半径も大きくなってきているのが現状だ。最小回転半径は、一般的に5m以下だと小まわりがきくといわれているが、今のクルマは5.3mが普通。日産ジュークやホンダ・ヴェゼル、ホンダ・シビック、トヨタ・カローラスポーツ、スバル・インプレッサ、マツダMAZDA3,マツダCX-3あたりの最小回転半径が5.3m。トヨタ86やトヨタ・プリウスPHVやだと5.4mで、日産V37スカイラインやスバルのWRX STI、トヨタ・アルファードやトヨタ・ヴェルファイアだと5.6mもある。

 クルマは大きくなっても、道路の幅は変わらないし、駐車場が狭いクルマも多いので、今のクルマはある程度据え切り前提で作られているといってもいい。

自動車メーカーは据え切りの耐久テストを行っている!

 メーカーでは、6万回以上の据え切りテストを行っていて、トラブルがないことを確認して出荷しているほど。単純計算で、1日16回の据え切りを10年間毎日続けても問題ない耐久性があるわけで、1日数回程度の据え切りでは、メカニカル的な支障は無視していいレベルといっていいだろう。

 もちろん電動パワステだって、大きな負荷はかかるし、消費電力も増えるが、フェールセーフ機構もあるので、過度のストレスがかかれば、パワステのアシストが一時的に働かなくなるようにして、故障を防ぐ仕組みもある。

 取扱説明書にも「据え切り禁止」という注意書きを見たこともないので、タブー視する必要はないはずだ。

 タイヤの摩耗に関しては、もちろん多少の影響はある。停止状態でハンドルを切るということは、接地面の1点だけ地面にこすられることになるし、前輪にはキャスター角がついているので、ハンドルを切るとタイヤは内側に傾く(外輪がネガティブキャンバー、内輪がポジティブキャンバーになる)。こうするとタイヤの角だけで荷重を支えることになるので、タイヤには辛い。結果として偏摩耗につながることがあるが、スキール音が出るようなアンダーステアなどに比べれば、はるかに影響は少なく、定期的にローテーションを行えばフォローできる範囲といえる。

 だからといって、もちろん据え切りを積極的に勧めることはできないが、タブー視するほどのものでもない。

 食べ物でいえば、カップラーメンは身体に悪い、ポテトチップスは身体に悪い、甘いものは、お酒は……といったレベルで、クルマを大事にしたい気持ちがある人は、極力据え切りを避けたほうがいいだろう。

 ハンドルを切るときは、AT車のクリープ現象ほどの微低速でもいいので、できるだけクルマを前進(後進)させながらハンドルを回した方が、クルマとタイヤに優しい運転になるということを覚えておこう。