目立った功績がないバイデン次期大統領だが、閣僚も「やたら地味目」になりそうだ。だがそれはかえっていいことかもしれない(写真:AP/アフロ)

アメリカ大統領選挙が『11月第1月曜日の次の火曜日』に行われた年は、次期大統領は感謝祭(同月第4木曜日)直前から閣僚人事に動き出す」――。

「知る人ぞ知るこの法則」は、今回も健在であった。たとえ新型コロナウイルスで人々が苦労している年であっても、さらに現職大統領が負けを認めず政権移行が遅滞している場合であっても。

バイデン次期政権の閣僚の顔ぶれは?


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感謝祭を3日後に控えた11月23日、ジョー・バイデン前副大統領の政権移行チームは、次の外交・安全保障閣僚候補を発表した。

○ 国務長官:アンソニー・ブリンケン(58)元国務副長官
○ 国土安全保障長官:アレサンドロ・マヨルカス(60)元国土安全保障省副長官
○ 国連大使:リンダ・トーマスグリーンフィールド(68)元国務次官補
○ 気候変動担当大統領特使:ジョン・ケリー(77)元国務長官、元民主党大統領候補
○ 国家情報長官:アブリル・ヘインズ(51)元CIA副長官
○ 国家安全保障担当補佐官:ジェイク・サリバン(43)元副大統領補佐官

ケリー元国務長官を除くと、地味目で実務型の人選ということになる。逆に言えば、上院における承認手続きで揉めそうな候補者も見当たらない。仮に「スーザン・ライス国務長官」みたいに派手目の名前が入っていると、「そいつは許さーん!」と共和党陣営がにわかに活気づいてくるところであった。

興味深いのは、事前にさまざまな名前が飛び交っていた上院議員が1人も入っていないことである。今回の選挙結果により、上院議員は「共和党50議席、民主党48議席」まで確定した。残り2人は年明け1月5日のジョージア州決選投票で決まることになった。つまり上院は僅差の議席数となる。民主党としては、1議席たりとも無駄にはできないのである。

もしアメリカで、ある上院議員が閣僚に転じた場合はどうなるだろうか。

その空席は選挙区の州知事が指名することになっている。例えばカマラ・ハリス上院議員が次期副大統領となって生じる空席は、カリフォルニア州のギャビン・ニューサム州知事(民主党)が決めるから問題がない。

しかしエリザベス・ウォーレン上院議員(マサチューセッツ州)やバーニー・サンダース上院議員(バーモント州)の場合、州知事はいずれも共和党だ。彼ら左派議員を閣僚に起用すると、それだけで上院の貴重な1議席が失われてしまう。このことは民主党内左派の苛立ちのネタになるとともに、最近のアメリカ株の買い安心材料のひとつとなっている。

女性初の国防長官は「当確」のはずだったのに・・・

バイデン人事の脆弱性は、外交・安保スタッフの中に国防長官が含まれていないことにも表れている。アメリカの主要閣僚の中でも、国防総省と財務省はまだ女性長官が誕生していない。そこで次期国防長官は、ペンタゴン生え抜きのミシェル・フローノイ元国防次官であろう、というのが従来からの「読み筋」であった。仮に4年前にヒラリー・クリントン氏が当選していれば、その時点で女性初の国防長官は「当確」、と言われていた人物である。

その名前がリストから漏れているのは、党内左派が反対しているから、と伝えられている。フローノイ氏は左派から見れば「タカ派」に映るし、さらに防衛産業にも近過ぎると言うのである。

もっともバイデンさんは調整型の政治家である。こんなことでめげる人ではない。あれだけ長いこと上院議員を務めていながら、「バイデン法案」と呼ばれるものは1本もない。誰からも愛される一方で、人間関係を活かして裏方に回って汗をかくタイプなのだ。

日本でいえば、渡部恒三衆議院議員のような「国対族」の政治家と言えようか。渡部氏も含めかつての竹下派七奉行の中で橋本龍太郎氏、小渕恵三氏(いずれも故人)が何をやったかは皆が覚えていよう。ところが「平成の黄門さま」ことコーゾー先生の業績はと問われると、皆が一様に首をかしげる。それはそうだろう。ご本人が「命も要らず、名も要らず」というタイプでないと、そもそも国対族は務まらないのである。

そんなバイデンさんであるから、こういう機微な人事は苦手ではないはずだ。むしろ「前門の共和党、後門の民主党左派」と板挟みになっている方が、力を出しやすいタイプと言えるかもしれない。

何しろ次期政権は、ねじれ議会を相手にしなければならない。上院で過半数に足りないとなると、民主党の予算や法案は一切通らない。大型増税もインフラ投資もグリーン・ニューディールも所詮は「絵に描いた餅」である。だからこそ、バイデンさんのキャリアと人脈が意味を持つ。とりあえず共和党のミッチ・マコーネル院内総務とは、年も同じ(78歳)だし上院での長い親交がある。

極端な話、民主党が議会選挙でも大勝ちして「トリプル・ブルー」になっていた場合、バイデンさんは党内の突き上げをくらって、どうにも身動きが取れなくなっていたかもしれない。それよりは今の状況のほうがよっぽどやりやすい。アナログ世代の高齢者を侮るなかれ。今の民主党にとっては、バイデンさんこそが頼りなのである。

いよいよ11月30日以降は経済閣僚も発表になる。目玉はジャネット・イエレン財務長官ということになるだろう。学者出身で金融政策ではハト派のイエレンさんは、党内左派に受けがいい。FRB(米連邦準備制度理事会)議長として議会承認を受けているので、上院もスムーズに通るだろう。ちょっと心配なのは、あまりにも「いい人」過ぎて、議会工作やG20の差配ができるのかということ。バイデン政権ではこんな風に、引き続き針の穴を通すような人事が続くことだろう。

もっとも株式市場はこの状況を好感し、遠慮なく盛大に上げている。バイデン政権は意外とビジネス・フレンドリーなようだし、増税は議会が止めてくれそうだし、何よりトランプ政権の不透明性が消えたことがありがたい。「トランプさんのツイートをチェックする」、という毎朝の習慣が不要になって、ホッとしている市場関係者は少なくないだろう。

そのトランプさんは「敗北を認めない」と言いつつも、政権移行手続きは容認し始めた。これも感謝祭がひとつの節目となるだろう。すでにクリスマス商戦も始まっている。来年に向けて、アメリカ社会の雰囲気は確実に変化していくはずだ。

結局、トランプさんから離れられない・・・

少し想像力をたくましくして、「前大統領となったトランプさん」が何をするのかを考えてみよう。多くの訴訟案件を抱えているし、意外と借金も多いと聞く。しかもコロナ下の不動産業は難問山積だ。少なくともホテルやゴルフ場経営にとっては逆風であろう。

だったら、このまま政界に居続けるほうが理にかなっている。今回の選挙では1億5000万票以上が投じられ、バイデンさんとの差は600万票程度だった。前回の2016年選挙に比べても、1000万票程度上積みしている。その結果、議会選挙では共和党が予想外の善戦をした。上院の議席は今のところわずかに1議席減、逆に下院では10議席以上増える見込みである。

危ういところを救われた議員さんたちは、「トランプさん、ありがとう」であろう。特に下院は2年後にすぐ次の選挙がやってくる。彼らは「次もよろしくお願いします」と頼ってくるはずだ。かくしてトランプ前大統領の影響力は残る。

いっそのこと「トランプ・チャンネル」を開業し、バイデン政権や民主党の悪口を言い続けるのはどうだろう。ニーズはありそうだし、お金にもなりそうだ。安倍晋三前首相をゲストに招いてゴルフ対談、なんて企画はどうだろう。これは呼ばれた安倍さんが悩みそうだ。

そのうえで、次の2024年選挙にトランプ御大が「出る」と言い出したら、共和党内からは対抗馬が出にくいだろう。マイク・ペンス副大統領やマイク・ポンペオ国務長官なども、自分が出たいとは言えないのではないか。

いやはや、本当にそうなりそうで、だんだん怖くなってきた。結論として、トランプ劇場は終わりそうにない。結局ツイッターのフォローは、今しばらく続けたほうがいいのではないだろうか(本編はここで終了です。次ページは競馬好きの筆者が週末のレース予想をするコーナーです。あらかじめご了承ください)。

ここから先は競馬コーナーである。週末は「歴史に残るジャパンカップ」(G1、11月29日東京競馬場12R、距離2400メートル)。何しろ「G1レース8勝」の現役最強馬アーモンドアイに、「無敗の3冠3歳牡馬」コントレイルと「無敗の3冠3歳牝馬」デアリングタクトが衝突する。筆者としても、こんな日に3週間に1度の「当番」が回ってきたことを無上の光栄とせねばなるまい。

ジャパンカップは見納めになるアーモンドアイの単勝を

東京芝2400メートルという舞台を考えると、やはり狙いはアーモンドアイということになる。

この条件で彼女が負けるということ自体が考えにくいし、「牝馬の引退レースは強い」の法則がある。

ジェンティルドンナ(2014年)やリスグラシュー(2019年)も、「有終の美」を飾っているではないか。これがレースの見納めとなるアーモンドアイ(2枠2番)の単勝を買って、日曜日の午後3時40分を待つのが競馬ファンとして正しい姿であろう。コントレイル(4枠6番)、デアリングタクト(3枠5番)の2頭にとっても、初の敗戦相手がアーモンドアイであれば「もって瞑すべし」というものだ。

上記の3歳馬2頭の比較でいえば、斥量に恵まれる牝馬のデアリングタクトがやや有利と見る。ゆえに「アーモンドアイ→デアリングタクト→コントレイル」という3連単も少しだけ買っておこう。歴史的なレースにつき、買い目はなるべく絞りたいものである。