自動運転の「レベル」を整理してみよう

 むかし読んだSF小説やSF漫画では、21世紀には自動運転のクルマや飛行機が行き交う世界が描かれていたように思うが、実際に21世紀を迎え、それも20年も経過したいま、クルマの世界がどうなっているのかというと、じつは20世紀とほぼ変わっていないのが現状だ。

 では、自動運転はまったく進化していないのかといえば、そうでもない。歩みはゆっくりとはいえ、流れは確実に自動運転に向かっている。しかしここで知っておきたいのは、ひとことで自動運転といっても、さまざまなレベルがあるということだ。

【画像】自動運転の未来に向けて着々と開発中!(9枚)

 そこで、昨今の新車情報を読み解く上でも知っておきたい、自動運転のレベルについて整理しておこう。

日産「スカイライン」のプロパイロット2.0は、一定の条件を満たせば、ステアリングホイールから手を離すことも可能

 まず、国土交通省による自動運転のレベル分けについて説明しよう。ここでは、6段階のレベルが設定されている。

●レベル0
 運転者がつねにすべての主制御系統(加速、操舵、制動)の操作をおこなう。
(前方衝突警告などの、主制御系統を操作しない運転支援システムも含む)

●レベル1
・運転支援
システムが前後・左右いずれかの車両制御を実施するもの。
(衝突被害軽減ブレーキや前走車について走るACC、車線からはみ出さないLKASなど)

●レベル2
・特定条件下での自動運転機能(レベル1の組み合わせ)
(車線を維持しながら前走車について走る……LKAS+ACCなど)

・特定条件下での自動運転機能(高機能化)
(高速道路での自動運転モード機能……自動追い越し/分合流の自動化)

●レベル3
・条件付き自動運転
(システムがすべての運転タスクを実施するが、システムの介入要求などに対してドライバーが適切に対処することが必要)

●レベル4
・特定条件下における自動運転
(特定条件下においてシステムがすべての運転タスクを実施)

●レベル5
・完全自動運転
(つねにシステムがすべての運転タスクを実施)

 まずレベル0だが、これはつまり、クルマの操作をすべて、ドライバーが自らおこなうものとなる。現代のクルマには、接近車の存在を知らせるブラインドスポットインフォメーションが装備されているが、これはあくまでドライバーに知らせるというもので、操作に関してはすべての責任をドライバーが負うことになる。つまりレベル0は、これまでの、アナログ時代からのクルマの操作そのものということになる。

 次にレベル1。これは現代では一般的となった安全装備。歩行者を検知して自動的にブレーキを掛けるシステムや、前走車に追随して走行できるアダプティブ・クルーズ・コントロール(ACC)、車線を検知して自動でステアリング操作をおこなう車線維持支援システム(LKAS)などを装備しているクルマが、レベル1相当となる。

 レベル2になると、さらに支援システムが進化する。まず高速道路など、特定の条件を満たした環境で、車線を維持しながら前走車に追随して走行できるものや、遅いクルマがいた場合に追い越したり、高速道路での分流や合流を自動でおこなうといった機能を持つものもこれにあたる。すでにこのレベル2を装備したクルマは、各メーカーから販売されている。

完全自動運転になると、クルマは所有するものではなくなる!?

 レベル3はレベル1やレベル2から、大きく進化をしたものだ。これまでのレベルでは、運転の主体となっているのはドライバー自身で、クルマが装備しているシステムはその補助をおこなうという位置付けなのだが、レベル3以上では、操作の主体はシステムとなる。ただしレベル3は、そのなかではもっとも下に位置付けられている。あくまでもシステムが運転操作をおこなってはいるが、その限度を超えた場合にはドライバーが操作を引き継いで、適切に対処をする必要があるというものだ。

●レベル3、レベル4の抱える問題

ボルボはレベル3の自動運転車を開発していたが、それをスキップし、2022年にレベル4を満たすクルマを発売するとアナウンスした

 さて、ここに大きな問題がある。それはなんらかのアクシデントや、あってはならない事故が起きた場合の責任の所在である。これこそが、自動運転の進化を阻んできた原因のひとつでもある。

 このことを端的にいえば、法整備をどうするのかということにつながる。まず、レベル3は、高速道路などにおいて、60km/h以下で走行している渋滞時などで作動する車線維持機能に限定した自動運転システムであるということが、自動車基準調和世界フォーラム(国連WP29)での国際基準となった。

 そして、このレベル3作動時において発生した事故に関しては、明らかなクルマ側の欠陥がなければドライバーの責任となる。つまり、安全運転の義務は依然としてドライバーにある、ということが定められている。これまでは、この責任問題が足かせとなって開発スピードにブレーキがかかっていた面もあったが、この部分がクリアとなることで、これまで以上に自動車メーカーの開発スピードが速まることが予想されている。

 ホンダが2020年11月11日に、「レジェンド」でレベル3自動運転の型式指定をおこなったという発表がなされたが、現在の欧州メーカーの対応はどの様になっているのだろうか。

 現在、レベル3の自動運転車を販売しているのはアウディである。2017年に発売した「A8」には、レベル3のシステムが搭載されている。しかしながら、この機能はいまのところ宝の持ち腐れ状態である。それは各国の自動運転に対する法整備が完全ではないからだ。

 日本では2020年春、これに関する改正道路運送車両法が施行されたため、現在ではレベル3の自動運転車が公道を走行することが可能となった。ではアウディもA8のレベル3機能を解禁すればいいのではと思いたいところだが、ドイツ本国ではレベル3の走行が可能なものの、地続きであるEUでの法整備がいまだなされていないため、レベル2に機能を抑えた状態が続いているのが現状だ。

 BMWは次世代の電気自動車である「iNEXT」で、2021年にはレベル3を搭載すると発表しているが、EUでの法整備いかんによっては見送られる可能性すらある。

 その動きを見て、自動運転車開発の方針を転換したのがボルボだ。ボルボも当然、レベル3の自動運転車を開発していたが、それをスキップし、2022年にレベル4、つまり一定条件化の高速道路において、完全な自動運転が可能なクルマを発売するとアナウンスした。あくまで完全自動運転のレベル5を目指すときの、ひとつの段階に過ぎないレベル3に注力せず、先に進む、ということである。

 では、そのレベル4の自動運転車は、いつごろ一般的になるのだろうか。現在の予測では、2025年が目処になるのではないかともいわれている。これは、自車のまわりの状況を認識するために必要な、LiDAR(ライダー:Light Detection and Ranging/Lasar Imaging Detection and Rangingの略)による画像検出と測距システムの進化速度からの予測である。

 自動運転は、自車のまわりの状況を把握し、歩行者や他のクルマと接触しないようにクルマを制御する必要がある。人の場合は、目や耳を使って状況を確認し、手足で操作をおこなっているわけだが、自動運転ではカメラ画像の解析やレーダー波による状況把握、そしてレーダーよりも短い波長を使うライダーを活用することで、より精密な状況把握をおこなう必要がある。

 このライダー日進月歩で進化しており、ライダーの進化がレベル4、そしてその先にある完全自動運転のレベル5にとって、不可欠なのである。

●完全自動運転となった未来はどうなる?

 では、レベル5の自動運転が実用化されたとき、社会はどのように変わるのだろうか。あくまでも予測だが、次のようなことが考えられる。

 自動運転車が実用化される時代には、よほど運転が好きな人だけがクルマを購入し、そうでない人がカーシェアを利用することが予想される。スマホで呼び出せば自動でクルマが迎えにきて、目的地をインプットすれば自動でそこまで連れていってくれる。カーシェアなら駐車場を用意する必要はなく、洗車する必要もなく、メンテナンスする必要もない。

 また、輸送という面でも大きな変化が現れるだろう。バスなど公共交通機関は、定時運行が当たり前となり、バスよりもはるかに小さいクルマが、公共交通機関として運行されるかもしれない。物品輸送の面でも、よりきめ細やかな配送が可能となり、逆に長距離輸送では現在よりも大型の車両による運搬がおこなわれるようになるかもしれない。

 こうした完全自動運転の時代は、いつごろ実現化するのだろうか。それには、安全が完全に担保されるという必要がある。

 現在よりも数段階以上レベルの高い、周辺状況把握能力をクルマが持ち、自動運転と人による運転が混在するなかでも事故を起こさないという実績を積み重ねていくことで、はじめて完全自動運転への移行が進んでいくことになるだろう。

 ライダーに代表されるセンサー類の進化や、AIを利用した解析能力の進化、必要ならば道路上に設置したセンサーの情報を集中管理し、そのデータを各車両にフィードバックすることでの安全性の確保、といったことも必要となるかもしれない。

 トヨタが2020年初頭に発表したコネクテッド・シティ・プロジェクト『Woven City(ウーブン・シティ)』は、そんな自動運転社会の実現に向けた、壮大な実験計画のひとつであるとも考えられる。

 この先、各自動車メーカーは、自動運転車の開発を加速させていくはず。その先にどんな未来が待っているのか、非常に楽しみではある。