ダービージョッキー
大西直宏が読む「3連単のヒモ穴」

 日本中の競馬ファンが待ち望んでいるGIジャパンC(11月29日/東京・芝2400m)の発走が間近に迫ってきました。

 始まりは、史上初となる無敗での牝馬三冠を達成したデアリングタクト(牝3歳)の出走表明でした。続いて、GI菊花賞(1着。10月25日/京都・芝3000m)後の状態を慎重に見極めていた無敗の三冠馬コントレイル(牡3歳)が、陣営からのゴーサインが出て参戦を発表。そして、GI天皇賞・秋(11月1日/東京・芝2000m)で史上最多の芝GI8勝目を手にしたアーモンドアイ(牝5歳)が、引退レースとしてジャパンCに向かうことを明らかにし、ジャパンCへの注目度は最高潮に達しました。

 この秋のGIシリーズでは、これら3頭が立て続けに史上初の快挙を達成し、その時点で競馬界にとっては歴史的な1年となりましたが、まさかこの3頭の直接対決が実現するとは......本当に感慨深いものがあります。

 三冠馬3頭による対決という形にもなりますが、これも史上初の出来事のようです。そもそも、現役の三冠馬が3頭いる、という状況自体が滅多にないことですから、今年の秋は本当に奇跡的な状況だと思います。

 さて、肝心のレースですが、もちろんデアリングタクト、コントレイル、アーモンドアイの3頭が中心になってほしい、と思っています。

 この3頭については、その実績や強さなど、今さら説明する必要はないでしょう。3頭とも本当にすばらしい馬で、東京・芝2400mという日本最高峰の舞台で勝敗を決するというのがまた、楽しみでなりません。

 ともあれ、今回はひとつの視点、3頭の消耗度という点から、それぞれの有利不利を考察してみたいといます。

 まずは、アーモンドアイですが、これまでもGI安田記念(東京・芝1600m)やGI有馬記念(中山・芝2500m)で勝てていないように、シーズン2戦目では苦戦してきた傾向があります。

 今春も、GIヴィクトリアマイル(1着。5月17日/東京・芝1600m)から中2週でGI安田記念(6月7日)に臨みましたが、本調子とは言えない走りで、何とか2着に入るのが精一杯でした。その中間は初めての在厩調整だったことが影響したのか、いつもの弾けるような走りが見られなかったんですよね。

 もともとアーモンドアイは、一戦ごとに完全燃焼するタイプなので、休み明けのフレッシュな状態のほうがよく、レース後は反動が出るので、体調を戻すのに時間がかかると言われていました。それは、こうした戦績からも明らかでしょう。

 そして今回は、天皇賞・秋から中3週。レース後、すぐに天栄に放牧へ出て、ギリギリまでそちらに滞在していたようですね。在厩調整でうまくいかなかった安田記念の反省を生かしてのことだと思いますが、それで、どこまでの態勢に仕上がるのか、気になるところです。

 次にコントレイルですが、体調面においてはアーモンドアイ以上に、懸念材料があります。

 菊花賞では、コントレイルにとって初めてとも言える、ゴールの瞬間まで気が抜けない大激戦を経験しました。3000mという距離が本質的に長かったことに加え、アリストテレスの大健闘によって、最後まで目いっぱいの、非常にタフな競馬を強いられました。

 これまでの競馬が楽な勝ち方ばかりだっただけに、心身ともに相当な疲れがあったことは、容易に推測できます。

 昔から、菊花賞に出走した3歳馬は、ジャパンCに出てくるとおおよそ苦戦しています。その反面、菊花賞から有馬記念に向かった3歳馬は比較的好勝負を演じています。そうした傾向を踏まえれば、やはり3000mの菊花賞を走った疲れを癒して立て直すには、ジャパンCまでの間隔では詰まりすぎている、ということなのでしょう。

 さらに、コントレイルはGII神戸新聞杯(9月27日/中京・芝2200m)から始動しているので、ジャパンCがこの秋3戦目。2歳秋と3歳春は余裕のあるローテーションで走ってきただけに、レース過多による疲労の蓄積も気になるところです。

 その点、デアリングタクトは、体調面に関しては3頭の中で最もいい状態にあるのではないでしょうか。

 ローテーション的にもゆとりがあって、秋華賞がGIオークス(5月24日/東京・芝2400m)からの直行。今回はそこから中5週で、秋2戦目ですからね。中5週というのは、GI桜花賞(4月12日/阪神・芝1600m)→オークスと同じ間隔ですから、調整もしやすいと思います。

 3頭の中で、ほとんど迷わずジャパンC出走を決めたのは、デアリングタクトだけ。トライアルを使わず秋華賞に臨んだ時点で、三冠を達成すればジャパンCへ、というプランは関係者の間で決まっていたのでしょう。秋華賞後の放牧からの帰厩も一番早く、中間の調整は最も順調に見えます。

 また、菊花賞からジャパンCというローテにおいては、あまり結果が出ていないという話を先に触れましたが、対照的に秋華賞からジャパンCに向かった3歳牝馬は好結果を残しています。

 それは、やはりジャパンCまでの間隔が1週長いという点と、秋華賞が2000m戦であるため、菊花賞と比べて、レース後の疲労も少なくて済むからでしょう。

 こうして3頭の消耗度を見てきましたが、今回は特別な3頭による対決なので、過去の傾向やローテーションによる状態の差は関係ないのかもしれません。私としても、せっかくの直接対決なので、アーモンドアイやコントレイルが本来のパフォーマンスを発揮できずに負けてしまうシーンは望んでいません。

 とはいえ、こういう究極の対決となると、最後に勝敗を分けるのは、ちょっとした仕上がりの差、1週間多く体調を整えられた分の差、といったことよる場合が往々にしてあります。どの馬が勝つにしても、歴史とファンの記憶に残るような名勝負を演じてもらいたい――その気持ちは強いのですが、仕上がりという観点から、ここではデアリングタクトが有利ではないか、と結論づけたいと思います。


「3強」に割って入る存在として期待されるカレンブーケドール 最後に「ヒモ穴馬」についてですが、今回は3頭をまとめて負かすのは厳しいと見ています。それでも、間に割って入る、一角崩しを狙える馬なら、1頭気になる存在がいます。

 国枝栄厩舎のカレンブーケドール(牝4歳)です。

 同厩舎からはアーモンドアイとの2頭出しで、その絶対女王に隠れて注目されにくい立場にあります。しかし、昨年の牝馬三冠レースでは、オークスと秋華賞で2着と奮闘。その後も、牡馬相手のジャパンCで2着と好走し、今年に入ってからもGII京都記念(2月16日/京都・芝2200m)、GIIオールカマー(9月27日/中山・芝2200m)と、連続2着となっています。

 勝利は得られていないものの、その成績は立派。個人的にも、かなりの地力を秘めている馬だと思っています。

 鞍上は、津村明秀騎手。ずっと2着続きゆえ、そう見えるのかもしれませんが、ここまではいい馬に乗せてもらっているからか、「うまく乗ろう」としすぎているような印象を受けます。

 何というか、脚を余したりして、一発を狙う競馬で大敗するリスクを負うのを恐れているような気がするんですよね。確かに下手な競馬をすると、すぐに乗り替わってもおかしくない立場なので、その気持ちもわかるんですが......。

 その点、今回はソツなく乗るだけでは、簡単に2着も取れないような相手関係です。ここならば「うまく乗ろう」とか「大崩れしないように立ち回ろう」といったことを考えず、気楽な立場で大駆けを狙っていけるのではないでしょうか。

 もちろん、これはあくまでも個人的な希望で、実際のところ、津村騎手がどう考えているかはわかりませんし、厩舎からどういった指示が出ているかもわかりません。ともあれ、歴史的な3強対決が実現するなか、"脇役"という立場にある津村騎手とカレンブーケドールには、新たな姿を見せるチャンスの場ではないかと思っています。

 オールカマーを使って体調も上向いていますし、もしかすると、仮にアーモンドアイがダメだったとしても、国枝厩舎には"こっちがいた!"というシーンがあるかもしれません。