悩み多きビジネスパーソン。それぞれの悩みに効くビジネス書を、「書評執筆本数日本一」に認定された、作家・書評家の印南敦史さんに選書していただきます。今回は、「価値観が自分と違う人とうまく付き合えない」と悩むに贈るビジネス書です。

■今回のお悩み

「人間関係は、いい付き合いのできる人とは、ストレスなく仕事ができますが、価値観がズレている人とは、うまくいきません。明らかにこちらが考えていることが正しいのに、向こうは向こうで自分が正しいと思いこんでいると、どうしようもありません。なので、悩んでいます」(51歳男性/営業関連)

気が合わない人相手に疲弊していませんか?


「いいつきあいのできる人」とは、つまり気の合う人ですね。たしかにそういう人が相手であれば、人間関係もうまくいきそうです。

一方、「価値観がズレている人」とはうまくいかないとのこと。それはそうでしょうが……たいへん申し訳ないのですけれど、ここから先のご意見には大きな違和感を覚えました。

「明らかにこちらが考えていることが正しいのに、向こうは向こうで自分が正しいと思いこんでいると、どうしようもありません」とありますが、なぜ「明らかにこちらが考えていることが正しい」と断言できるのでしょうか?

ご自分の考えていることを「明らかに正しい」としか考えられないとしたら、それは相手の立場で考えることができないということです。だとしたら、うまくいかなくて当然。

ましてや向こうだって同じように「自分が正しい」と考えているでしょうから、"うまくいくはずがない"のです。

もしかしたら、ご相談者さんの考えは本当に正しいのかもしれません。しかし同じように、相手の考え方に“正しい部分”が多少なりともある可能性だってあります。

つまり、「自分は正しいと信じているけれど、相手もそう感じている。その理由はなんなのだろう? なぜ、自分が正しいと思っているのだろう? 納得できる部分もあるのではないか?」と、広い視野で考えてみるべきなのです。

それができないのであれば、なにも解決できないと思います。単なる自分本位であり、フェアではないのですから。

そのような観点に基づき、3冊の本からヒントを抜き出してみることにしましょう。

○積極的に「間違い」を認める

『すぐ「決めつける」バカ、まず「受けとめる」知的な人』(安達裕哉 著、日本実業出版社)とは過激なタイトルですが、著者自身も「仕事で出会う『バカな人たち』」を憎んでいた時期があったのだそうです。

『すぐ「決めつける」バカ、まず「受けとめる」知的な人』(安達裕哉 著、日本実業出版社)


それがやっと解決を見たのは、養老孟司の『バカの壁』を読んでからです。『バカの壁』には、いわば次のような趣旨のことが書いてありました。

「バカ」というのは「与えられた情報に対する姿勢」の問題である。

自分が知りたくないことに対しては、自主的に情報を遮断してしまう。これが「バカの壁」なのだと。

驚きました。

これが示しているのは、「バカは私のほうであった」という事実です。

つまり、「相手が何を考えているのかわかろうとせずに、相手を『バカ』と決めつけ遮断していた」のです。(「はじめに」より)

「バカ」は人の属性ではなく、考え方の属性であるということ。バカな人がいるのではなく、バカな考え方や振る舞い方があるだけだというわけです。

そのような考え方を軸として、本書では著者自身が体験した「バカな振る舞い」に関するエピソードが集められているのです。

たとえば著者は、「間違い」について次のように記しています。

1 人は、基本的に間違いを認めない。事実の解釈を変えるほうが得意である。

2 間違いを指摘すると、「私は嫌われている」「この人は失礼だ」と解釈されてしまう可能性もある。(99ページより)

これら2つが会社組織やチーム内で発生することは、なんとしてでも避けるべき。特に2つ目は致命的ですが、今回のご相談は、まさにこうした状況があることを示しているのではないでしょうか?

著者はかつて、コンサルタントとしてさまざまな会社に出入りし、「間違いを認めない組織」をたくさん見てきたそうです。そこでは、地位が高い人も、ベテランも新人も、等しく間違いを認めず、指摘をすれば怒り出したのだとか。しかしその場合、プライドが守られたとしても、事態は変わらないわけです。

一方、「積極的に間違いを認める組織」で重視されていたのは、真の意味での「知的能力」、すなわち「実効性」と「勇気」を重んじることだったといいます。

そして当然ながら、前者は徐々に衰退し、後者は発展したそう。そんなところからもわかるとおり、「メンツ」や「プライド」などはどうでもいいのです。

「ちょっとイラッとする。ちょっと悔しい。ちょっと腹が立つ。ちょっと傷ついた」

こんな塵芥のように小さな感情であっても、それが解消しなければ少しずつ上積みされていき、しまいには固い岩のようになっていくのだと知れるでしょう。

なかなか解消しないで引きずる、なかなか忘れられないというのは、そういうことです。(「もっと毎日、心地よく過ごしたい! はじめに」より)

○「自分中心」でコミュニケーションする

『「しつこい怒り」が消えてなくなる本』(石原加受子 著、すばる舎)の著者は、こう主張しています。では、どうしたら自分のなかの苦しい感情を手放すことができるのか? 本書では、そのための方法やヒントを紹介しているのです。

『「しつこい怒り」が消えてなくなる本』(石原加受子 著、すばる舎)


注目したいのは、"言い方"には、他者中心の言い方と、自分中心の言い方があるという指摘です。自分中心とは、「自分が楽になる。自分が満足する」言い方を目指すもの。たとえば、後輩が先輩に仕事でわからないところを聞いてきたとしましょう。

先輩「この前教えたばかりでしょう。もう忘れちゃったの? なに聞いてたのよ。そら、貸して。ここは。こうよっ!! わかったあ!!(もうつきあいきれないわあ)」

後輩「……。(はあ〜っ。いっつも、怒ってばっかりいるんだからあ。もう、うんざりっ。あんな奴、いつか、必ず……)」(154ページより)

こんな会話が展開されれば、お互いが不愉快になり、しつこい怒りを育てることになって当然。では、「自分中心」の会話はどうなるでしょう?

先輩「あっ、ここね? そうかあ……。いま、私、これを先にやってしまいたいから、その後でいい? 終わったら声をかけるね」

後輩「わかりました。じゃあ、待っています。すみません、この前も教えていただいたのに、ありがとうございます」(154〜155ページより)

前者の「他者中心」の会話では、お互いに相手のことを見ているため、頭も心も相手のことで占められています。しかも先輩は「相手に教えなければならない」という反応をし、後輩は「何度も聞くのはまずい」という自己否定や罪悪感を抱いています。

後輩は先輩を恐れているため、曖昧な態度で接することになり、それがいっそう先輩を苛立たせるという「関係性」になっているわけです。

一方、「自分中心」の会話では、先輩は「これを先にやってしまいたい」という自分の気持ちを基準にし、自分の気持ちを大事にしています。そして後輩に協力したいという善意の気持ちも抱いています。自分の気持ちを優先していることからくる"ゆとり"が、「教えなければならない」ではなく「教えてあげたい」という気持ちにつながっているのです。

後輩もわからないところを率直に聞いており、卑屈な気持ちにはなっていません。しかも「すみません。ありがとうございます」ということばで、「悪いなあ」という気持ちと感謝の気持ちを表しています。

こうした「自分中心」の自分表現が、円滑なコミュニケーションを実現するということです。「自分中心」になって、

・自分の気持ち、感情に気づく

・自分の「〜したい。したくない」といった欲求に気づく

・自分の「好き嫌い。快不快」と言った感情を基準にする

・相手よりも、自分の「意志」を優先する

・自分の気持ちを基準にして「断る。引き受ける」を故ことから認める(160ページより)

これが、蓄積してきた「しつこい怒り」を解消する方法であり、"新たな怒りの種"を生産しない方法だという考え方です。

○「他人への期待」を徐々に減らす

さて最後に、『他人のことで、もう一生悩まない! 望む人間関係の引き寄せ方』(奥平亜美衣 著、大和書房)をご紹介しましょう。著者がここで訴えているのは、自分次第で、幸せな人間関係を手にすることができるということ。

『他人のことで、もう一生悩まない! 望む人間関係の引き寄せ方』(奥平亜美衣 著、大和書房)


著者はここで、人間関係でこちらが不快に感じるとき、問題が起こるときには、常に自分が相手に対してなんらかの期待を持っていて、しかし、その期待と違う言動を相手がとった場合だと指摘しています。

自分が相手に対して、こうして欲しい、とか、こうあるべきだ、という思いを「勝手に」持っていて、それと、相手の言動がずれたときに、あなたが不快に感じるのです。

あなたが不快に感じたりイライラしたりする原因は、相手の言動にあるのではなくて、あなたが相手に対して勝手に持っていた期待と、現実のずれにあるということです。(40ページより)

しかし、そこにずれがあるのは当然。なぜならこちらが「勝手に」期待しているだけで、それは相手にまったく関係のないことなのだから。

だからこそ、円滑な人間関係をのぞみ、不快に感じる人間関係を望まないなら、「他人への期待」を徐々に減らしていく必要があると著者はいうのです。

まさしく、そのとおりではないでしょうか?

印南敦史 作家、書評家。1962年東京生まれ。音楽ライター、音楽雑誌編集長を経て独立。現在は書評家として月間50本以上の書評を執筆。ベストセラー『遅読家のための読書術』(ダイヤモンド社)を筆頭に、『読んでも読んでも忘れてしまう人のための読書術』(星海社新書)、『書評の仕事』(ワニブックスPLUS新書)、『読書に学んだライフハック――「仕事」「生活」「心」人生の質を高める25の習慣』(サンガ)ほか著書多数。12月14日発売の最新刊は『それはきっと必要ない: 年間500本書評を書く人の「捨てる」技術』(誠文堂新光社)。6月8日「書評執筆本数日本一」に認定。 この著者の記事一覧はこちら