250ハイウエイスターSアーバンクロム(2WD)。ボディカラーはディープクリムゾン(写真:日産自動車

2020年10月12日、日産自動車の上級ミニバン「エルグランド」がマイナーチェンジを果たした。改良されたのは外観や安全装備、特別仕様車やオーテック仕様車の追加などだ。


東洋経済オンライン「自動車最前線」は、自動車にまつわるホットなニュースをタイムリーに配信! 記事一覧はこちら

外観は、ラジエターグリルを強調した意匠に変わり、競合のトヨタ自動車「アルファード/ヴェルファイア」のように押し出しをさらに強めた印象だ。

また、5ナンバー格で人気の高いセレナに通じる顔つきになり、日産のミニバンとして統一感が増したようにも思う。

安全装備充実、室内も高級に

安全装備では、すべての方向から運転を支援する360°セーフティアシストを全車に標準装備。


後退時に車両の接近を知らせる「RCTA(後退時車両検知警報)」(写真:日産自動車)

例えば、前を走る2台先のクルマの動向を把握し、急減速で回避動作が必要な際に警報で運転者に注意を促す「前方衝突予測警報」、隣車線の後方から接近するクルマとの接触を予防するためにハンドル操作を支援する「後側方衝突防止支援」「後側方車両検知警報」、後退する際に他車の接近を知らせる「後退時車両検知警報」を標準装備。

ほかにも標識検知機能に進入禁止標識、最高車速標識、一時停止標識を追加している。これらの安全装備により、セーフティサポートカーS対象になったこともうれしいポイントだ。


(写真左から)標識検知機能(一時停止標識検知)と追加された標識検知機能(最高速度標識検知)(写真:日産自動車)

室内は、ダッシュボード中央に10インチの大型ディスプレーを設け、プレミアムシートは連続したキルティングパターンに変更され、高級かつモダンな趣となった。

特別仕様のアーバンクロームシリーズは、漆黒のフロントグリルとフォグランプフィニッシャーで引き締まった顔つきになる。オーテック仕様は、カスタムカーづくりで培われた技術を適用し、高級かつスポーティーさを強め、創業地である神奈川県の湘南・茅ケ崎を思わせる青い外装色を採用。室内各部にも青のステッチを施し、特別感のある1台に仕上がっている。さらにエグゼクティブ仕様のVIPや福祉車両もマイナーチェンジを受けている。


ダッシュボード中央には10インチ大型ディスプレーを配置(写真:日産自動車)

現行のエルグランドは、2010年のフルモデルチェンジから10年と販売期間も長いため、時代に合わせて安全性向上や新たな価値を加えるマイナーチェンジとなっている。販売台数においては、競合のアルファード/ヴェルファイアに比べ、一般社団法人日本自動車販売協会連合会の乗用車ブランド通称名別順位において50位までに顔を出さず、苦戦が続いている状況だ。その打開策としては少し弱い印象も受ける。

初代エルグランドは、1997年に誕生した。これに対してトヨタのアルファードは2002年の誕生であり、上級ミニバンでエルグランドは先行しての登場だった。1994年にミニバンという価値を日本に導入したホンダでさえ、「オデッセイ」より上級の「ラグレイト」を投入したのは1999年だ。上級ミニバンで先行したエルグランドは、たちどころに人気となる。月販1万台を超える販売を記録したといわれる。

エルグランドの機構的な特徴は、ラグレイトやアルファードが前輪駆動(FWD)のミニバンであるのに対し、後輪駆動(RWD)であり、「技術の日産」が上級ミニバンにも走行性能を求めた様子がうかがえる。

前輪駆動化で出遅れてしまった

FWDは、ミニ・クーパーに代表されるように、もともとは小型車の空間利用効率化が目的で、4ドアセダンやクーペなど含め、走行性能にこだわる車種は長年にわたりRWDを主流としてきた。

もちろん、今日では上級セダンでもFWDを用いる例があるが、やはりRWDのクルマを運転すると躍動感を覚えたり、どこか落ち着きを感じたりするものだ。後輪は、クルマの走行安定性を保持する役目があり、そこに駆動力がかかるRWDは、クルマを安定して前進させるうえで理にかなった方式と言える。

2代目のエルグランドもRWDを継承し、現在の3代目にモデルチェンジする際にFWDへ駆動方式を変えた。理由は、アルファードが急追し、なおかつ追い越していったからだ。

背景にあるのは、アルファードがミニバンの本質的価値である室内の快適性を高め、なおかつ2代目へのモデルチェンジでは、ミニバンの上級車種として高みを求めるのではなく、分野を超えた高級車を目指して開発され、とくに2列目の座席配置や空間にストレッチリムジンを思わせる広さや優雅さをもたらすことで一気にブランド力を高めたためである。

これまで大柄な4ドア高級セダンに乗ってきたような人々が天井の高い、より快適で優雅な室内空間を味わえるアルファードへ乗り換えるようになった。ここでエルグランドは一気に差をつけられたと言える。


現行モデルにあたる3代目から駆動方式をFRW(前輪駆動)に変更(写真:日産自動車)

技術の日産としてのこだわりから後輪駆動を選択したエルグランド。走行性へのこだわりはホンダも同様だったように感じる。一世を風靡したオデッセイが3代目から車高を下げ、低重心で走りのよさを全面に打ち出した。新しいその発想に販売台数は伸びた。ところが以後のモデルチェンジで低迷し始めた。車内空間というミニバンの本質的価値が損なわれたからである。目先の珍しさは1世代で十分だった。

エルグランドも3代目からFWDとすることで、2列目以降の空間の快適さをさらに高めた。そのうえでFDWになっても操縦安定性を追求し、非常にレベルの高い上級ミニバンに仕上げたのは技術の日産らしい。しかし、すでに上級ミニバンといえば、アルファード/ヴェルファイアという強い印象が消費者に浸透していたのである。

ハイブリッド車がないという弱点も

すでに上級ミニバンといえばアルファード/ベルファイアというユーザー意識が出来上がっていた。販売台数の統計で50位にも入らないエルグランドは、この先どのように世代を重ねればいいのだろう。ヒントは、5ナンバー格ミニバン(グレードにより3ナンバー車もある)のセレナにあるように思う。


エルグランド復活の鍵はe-POWERを搭載したミニバン「セレナ」(写真:日産自動車)

日産は、電気自動車(EV)リーフの電気駆動系を利用した、シリーズ式ハイブリッドのe-POWER(イー・パワー)を2016年にコンパクトカーのノートに搭載した。

それまで小型のハイブリッド車を持たなかった(1999年にティーノで限定100台をネット販売したことはあるが)日産車に乗り続けてきた愛好家にとって待望の一台であり、翌2017年から2019年まで、ノートはe-POWER搭載の勢いを得て3年連続でコンパクトカー売り上げナンバー1を記録した。続いてセレナにもe-POWER搭載車が追加され、これも2018〜2019年に2年連続でミニバン販売台数のナンバー1となっている。

しかし、エルグランドにはハイブリッド車がない。アルファード/ヴェルファイア好調の理由の1つにハイブリッド車があるのは間違いなく、この点でもエルグランドは厳しい状況にある。ハイブリッドは、環境適合性だけでなく、走行中の静粛性にも効果的で、上級ミニバンを求めるユーザーにとって非常に魅力的なものだ。

また、ハイブリッド車のモーター駆動は、必ずしもエンジンのように排気量の大小、気筒数の多少によって車格が決まるものではなく、1つのモーターで車格の大小に適応できる順応性を持つ。象徴的なのが軽自動車EVのi-MiEVのモーターを活用し、SUV(スポーツ多目的車)のアウトランダーのPHEV(プラグインハイブリッド車)を実現した三菱自動車だ。

アウトランダーPHEVもシリーズ式ハイブリッド方式を採用し、モーター駆動で走行する。したがってi-MiEVより車格が上のリーフを持つ日産自動車なら、そのモーターやバッテリーなどを活用し、e-POWERをエルグランドにも適応できるのではないかと想像できる。

ハイブリッド化に加え、スカイラインで実用化したプロパイロット2.0を搭載し、自動車専用道路上でのハンズフリー走行も可能にすれば、アルファード/ヴェルファイアにない次世代技術を備えた上級ミニバンになる。ユーザーが上級ミニバンに求める本質的価値を高めることが可能だ。


スカイラインに搭載されたプロパイロット2.0は上級ミニバンの付加価値になる(写真:日産自動車)

ノートやセレナが販売を伸ばしたように

現行エルグランドが誕生したのは2010年であり、モーター駆動を採り入れたシリーズハイブリッド機構を搭載できるプラットフォームであるかどうか、それは想像の域でしかない。

しかし、ノートにしてもセレナにしても、e-POWERとプロパイロットによって、大きく販売を伸ばしクラスナンバー1を獲得したことは事実だ。エルグランドも同様の装備で、さらにスカイラインで実現した一歩先のプロパイロット2.0を採り入れれば、逆転ののろしを上げることができると期待する。

さらに次期型では、PHEVやEVの道筋も踏まえ商品企画がなされれば、もっと先へ進んだ上級ミニバン像を消費者に示すことができるだろう。トヨタは、まだEV導入には消極的でもある。

日産には、そうした魅力ある次世代車を生み出す技術も知識も経験があるはずだ。それをエルグランドに活かさなければ、もったいないではないか。そこに上級ミニバンで独り勝ちのトヨタを阻止するヒントがあるように思う。