■コンビニ本社のバイヤーが、監修を依頼する店を決定

このところコンビニで、有名ラーメン店が監修した「チルド麺」の展開が活発だ。チルド麺とは、器入りの冷蔵状態で販売され、そのまま具やスープを合わせる、あるいはレンジで温めて食べる麺のこと。

現在、セブン-イレブンでは「札幌すみれ」「中華蕎麦とみ田」「一風堂」など、そしてローソンでは「坂内食堂」「博多一幸舎」「麺屋彩未」が監修したチルド麺を販売している。それぞれのチェーンの本社広報によれば、セブン-イレブンは2007〜2008年ごろから、ローソンは2006年ごろからこうした企画商品を全国規模で販売し始めたという。

ローソンの「坂内食堂監修 喜多方ラーメン」。(画像=ローソン公式サイトより)

ではコンビニと有名ラーメン店とのコラボレーションは、どのような経緯で実現し、商品化に至るのだろうか。「ラーメンデータバンク」の創業者で現会長の大崎裕史氏が解説する。

「まずコンビニ本社のバイヤーが、監修を依頼する店を決定します。店選びに当たっては本社側が独自にピックアップする場合と、業界に精通したラーメン評論家などからアドバイスを仰ぐ場合がありますね」

■限られた原価のなかで「再現できる味か」が重要

白羽の矢が立つのは、高い評価を得ていてネームバリューがあることはもちろん、さらにいくつかの条件をクリアした店だ。

「瞬間的な人気ではなく、安定してにぎわっている店であることは大事です。コラボ商品がコンビニに並んだ頃、監修した店がなくなっているようでは話になりませんから。そして提供しているラーメンが、すでにコンビニ側にラインアップされている商品との違いがわかりやすい、特徴的な味であるかどうか。さらにはチルド麺として商品化した際、オリジナルに近く再現できる味なのかどうかも重要です」(大崎氏)

いざ店が決まると、バイヤーが対象店の主人と何度も話し合いを行う。

「インスタントカップ麺でのコラボの場合もそうですが、チルド麺も最初からおおよその販売価格が決まっているので、材料にかけられる原価には限界があります。だから『商品化された際、お店の味そのものというわけにはいきませんがよろしいですか』と最初の段階で店主に伝え、承諾してもらった上で面談を進めます」(大崎氏)

ただ中には、それをよしとしない店主もいる。

「こだわりが強い主人だと、いつまでたっても完成品にOKが出なかったりします。そうなると開発経費がかさむし、販売スケジュールも狂ってしまう。バイヤーは経験が豊富ですから、店主へのオファーの初期段階で一緒に組める相手かどうかを見極めます。ですからお互いに折り合えず、結局物別れに終わるケースもあるそうです」(大崎氏)

■コストさえ気にしなければ完全に同じスープができあがる

一方、交渉がまとまった場合は契約を結んだ上で、コンビニ側が商品開発に取りかかる。

「店にレシピを公開してもらい、さらにスープを社に持ち帰って分析します。現在のコンビニの技術力をもってすれば、コストさえ気にしなければ完全に同じスープができあがるんです。しかしかけられる原価には限りがあるので、店の味を極力残せるように材料を絞り込んでいき、商品にする着地点を決めます。もちろんその過程で店主には自店の名を冠するに値するかどうか、何度も味見をしてもらい、最終的なOKを取り付けるんです」(大崎氏)

特に夏季限定の冷やし麺などで、店では出していないコンビニ専用のオリジナルメニューを「○○監修」として商品化することもあるが、店主が元になるレシピを考案し、完成品のチェックを行う流れは同じだ。

セブン-イレブンの「一風堂監修 博多とんこつラーメン」。(画像=セブン-イレブン公式サイトより)

■「セブンイレブンのコラボ麺」は段違いに売れている

さて、こうしたプロセスを経てできあがった有名店監修チルド麺の味を、〈自称・日本一ラーメンを食べた男〉の舌はどう評価しているのか? いやそもそも、わざわざコンビニで買い求めることなどあるのか?

「新作が出るといろいろなメディアで紹介されるので、『あそこの店が監修するとどんな味になるのかな』なんて興味からけっこう食べていますよ。昔はコンビニのチルドラーメンにおいしいものはあまりなかったけれど、近年のものは本当にクオリティーが高くてびっくりします。もちろん、店で実際に出しているものと同じレベルとは言いませんが、コンビニ商品としてはかなりよくできていると思いますね」(大崎氏)

中でも抜きんでているのは、あのコンビニチェーンのチルド麺なのだとか。コンビニ業界に詳しいジャーナリストのA氏が語る。

「ラーメン評論家や流通業界関係者から高く評価されているのが、セブン-イレブンの『札幌すみれ』『中華蕎麦とみ田』『一風堂』監修のチルド麺。有名店監修といえど、ああいったチルド麺の味を作るのはコンビニの側なんですが、セブンの味の再現力やチューニング力はずぬけているんです。ラーメンに限らずスイーツなども含めて、あの商品開発力はライバルチェーンの追随を許さないセブンならではの社風でしょうね。だから同じように有名店が監修したラーメンでも、セブンの商品は段違いに売れているんです」

■500円のチルド麺なら、1個売れるごとに2円のマージン

また、監修を依頼する店選びにも抜かりがない。

「ちゃんといいブランドを確保していて、しかもその関係が長く続いているんです。『すみれ』や『一風堂』とのコラボは、インスタントカップ麺を含めればもう20年ぐらい続いているはず。店との間に強い信頼関係があるので、セブン-イレブンはブランドの再利用もうまいんです。チルド麺では今年の夏、『とみ田』と組んでコンビニオリジナルの冷やしまぜ麺を出したし、カップ麺ですが『一風堂』とのコラボで店では出していないまぜそばを商品化したり、『蒙古タンメン中本』とは冷凍食品のカレー味汁なし麺を新開発したりしています」(A氏)

となると少々下世話な話ながら気になるのが、こうした監修商品で店側にどれほどのマージンが入るのかということ。

「250円程度のインスタントカップ麺だと、1個売れるごとに監修した店に1円のマージンが入るのが相場と言われています。チルド麺の場合は販売価格が500円前後と2倍しますから、マージンの額も倍程度といったところではないでしょうか」(A氏)

■開発協力の手間を考えれば、まったく割に合わないが…

昨今、チルド麺はもちろんカップ麺でも100万個売れる商品はほとんどないという。とすれば、監修する店にとってはさほどうまみのあるビジネスではないように思えるのだが……。

「開発協力の手間を考えれば、監修商品が20万個や30万個売れたぐらいでは全く割に合いません。だから店側としては、宣伝と割り切って協力している面が強いんです。店の名を冠した商品が全国のコンビニに並んで人の目に触れるということは、実店舗を訪れる客の数の比ではないので、ものすごい宣伝効果があります。その店がない土地の人にも知ってもらえますから、『今度あの街に行くことがあったら、コンビニともコラボしていた○○のお店で食べてみよう』という流れを作れるんですよ。コンビニ側が店にオファーを出す際も、そういったメリットを説明しながら口説いていると聞きました」(A氏)

すでにおなじみになっているところだけでなく、今後は新たな有名店が監修したチルドラーメンの登場も待たれるところだが、前出の大崎氏が過去一番〈うまい!〉と感じたのはどの店とのコラボ商品だったのかを、締めくくりとして尋ねてみたい。

「調味料の進化も手伝って、このところコンビニのチルドラーメンは以前にも増して日進月歩でクオリティーが上がっているんです。だから現在出ている商品が、史上一番うまい商品。そして今後出てくるものは、もっとうまくなっているでしょう。どんどんおいしいものを出していかないと、お客さんが追いかけてくれませんからね」

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河崎 三行(かわさき・さんぎょう)
ライター
高松市生まれ。フリーランスライターとして一般誌、ノンフィクション誌、経済誌、スポーツ誌、自動車誌などで執筆。『チュックダン!』(双葉社)で、第13回ミズノスポーツライター賞優秀賞受賞。このほか、著書に『蹴る女 なでしこジャパンのリアル』(講談社)がある。
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(ライター 河崎 三行)