袴田久美子(41歳)●会社名:Ruber(個人事業)/開業年:2019年/従業員数:7人/資本金:360万円/売り上げ:月商約140万円/今後の目標:店舗拡大

■最低限の売り上げは初月から確保できる

「会社員時代との最大の違いは、自分で考えて物事を決められること。ビジネス書で読んだ“理論”を実際に自分で実践できる楽しさもありますね」

もっとも多いお客さんは愛知県。次が静岡市、3番目に岐阜と三重が多いことがわかりました。これも事業承継後に調査をして初めてわかったことです。

そう語るのは、2019年9月、事業承継をして静岡県浜松市の浜名湖に面する手作りアクセサリーショップ「手作り体験工房ルーベラ」のオーナーになった袴田さん(41歳)だ。袴田さんは静岡県出身だが、大学進学とともに上京。高校教員を経て、PR業界に転職。19年、“脱OL”した。

「最初はM&Aの案件サイトを漁ってみたのですが、私がいまの案件を見つけたのは静岡県運営の事業引継ぎ支援センターでした。自治体の事業引継ぎ支援センターでは、Uターンをしたい方や地元で事業承継したい方を歓迎してくれているところが多い。いくつかの企業を吟味した中で、300万円の予算範囲内であり、自分が会社員時代に培った経験が活かせて、かつまだまだ売り上げを伸ばせそうと思った案件がここでした」

袴田さんがこの工房を地元在住の50代オーナーから買った価格は約300万円。その内訳はほとんどが在庫代だ。オーナーは本業があり、そちらに注力するために事業売却を考えていたという。袴田さんは買収費用を自己資金で支払い、事業運営資金は政策金融公庫から借り入れをしている。そんな袴田さんが事業承継に興味を持ったのは意外なきっかけだった。

■勉強したことって、実践したくなる

「実は、大前研一さんが学長を務めるビジネス・ブレークスルー大学で働いていたことがあって。その頃に、さまざまな経営戦略や財務諸表の読み方を勉強しました。勉強したことって、実践したくなるじゃないですか(笑)。それもあって、ビジネスオーナーになりたいと思うようになりました」

前のオーナーから事業を受け継ぎ、すぐに事業承継のメリットに気づいたという。

「起業と違い、お客さんがもともといるのはメリットでした。前オーナー時の売り上げは毎月横ばいでしたが、コネもビジネスモデルもない私でも、初月から最低限の売り上げは確保できたのです。さらに調べてみると、オンライン販売やSNSアカウント運用、顧客データも取っていなかった。そこにテコ入れしたことで、コロナ禍での休業はあったものの、順調に売り上げは増えています」

現在の月商は約140万円で、月々の借入返済、テナント料、人件費、仕入れ費などを引けば手元に残る額はわずかだというが、今後事業が順調に推移すれば、新たな店舗展開も見えてくるという。

「オーナー変更で元からいるスタッフとのコミュニケーション問題に悩まされる人もいるようですが、私はスタッフにインセンティブ制度を設けるなどして働きやすい環境を整えました。経営理論で学んだことを活かせる“実習”という意味でも、事業承継の道を選んで本当によかったです」

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鈴木 俊之(すずき・としゆき)
編集者・ライター
1985年生まれ。12年法政大学卒業、出版社入社。月刊誌編集部を経て15年独立。専門分野は金融、起業、IT、不動産、自動車、婚活、美容など。
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(編集者・ライター 鈴木 俊之 撮影=鈴木俊之)