バルセロナのあるカタルーニャ州では、10月14日から飲食店に対して15日間の休業を義務化している(ロイター/Albert Gea)

新型コロナウイルスの感染者数が再び拡大しているスペインは10月25日、2度目となる緊急事態を宣言した。これにより、スペインでは原則、午後11時から翌朝6時までの外出は禁止されることになる。これに先駆けること約10日前、スペイン随一の観光地、バルセロナを擁するカタルーニャ州ではレストランなど飲食業界に対して15日間の営業停止を発令。レストランなどから悲鳴が上がっている。

カタルーニャ州だけで1日6000人感染

発令から1週間が経過した今もカタルーニャ州の感染状況は収束しておらず、逆に拡大の一途をたどっている。カタルーニャのデジタル紙のひとつ『クロニカ・グロバル』でも報じているように、24日における24時間の同州での感染者は6000人と、パンデミックの最初の時点からの累計感染者数は22万5901人に達した(ちなみに、スペイン全体の新規感染者数は1日約1万7000人)。感染者が急増している背景にはPCR検査を1日に3万人を対象に実施していることも影響している。

さらに同紙によると、入院患者は1743人、集中治療を受けている患者は325人に上る。10万人当たりの感染者数も平均して713人と、今後も感染拡大の可能性が高いことを示している(世界保健機関=WHOは、10万人につき120人以上の感染者がいる場合は感染の危険性が高いとされている)。現在のカタルーニャでの感染確率も1.5%とされており、100人の感染者がいれば150人が新たに感染する可能性が高いということでこの点でも感染拡大の危険性が依然高い。

こうした状況下にあるものの、カタルーニャ州政府は経済の柱になっている飲食業者と宿泊業者などを対象にした観光業界での2週間の営業停止という決定を下すことに当初ためらいがあった。何しろ、観光業は同州のGDPの12%を担い、また雇用面においても14%を占めているからだ。

しかも、地元デジタル紙『エル・ナシオナル』(10月21日付)が示しているように、現在までのカタルーニャにおける観光業の落ち込みは74.8%という悲惨な状況にある。それを承知で2週間の営業停止を発令させることはさらにこの落ち込みを加速化させてしまうことになる。

ホテルの場合は、カタルーニャ州で9割がこの発令以前から閉店しているが、中にはレストランとバルだけは営業していたホテルもある。それも今回営業を停止せねばならなくなる。しかし、このまま手をこまねいて、何の対策も講じない場合は感染がさらに拡大するのは必至。ということが理由で州政府は今回の決定を下したのである。

15日付の『クロニカ・グロバル』によると、カタルーニャ州には飲食業界に従事している店が4万4100店あり、そのうち3万店がもろにこの影響を受けるとされている。何しろ2週間、売り上げがゼロという状態に耐えるには相当の犠牲を払わねばならない。カタルーニャ連盟は、2週間の休業は総額9億ユーロ(1080億円)の売上損失につながると指摘している。また、5割の業者が今年末まで事業を続けられるかわからないとしているという。

休業手当をもらっていても心配

しかも、この業界に従事している関係者は20万7000人いるが、現在その3分の2が休業補償を受けて休職している。現在およそ7万人余りがほそぼそとこの業界で継続して働いているという。ところが、今回の完全営業停止でこの7万人も休業補償を受けねばならなくなる、とクロニカ・グロバル紙は指摘している。

休業補償というのはスペインの場合、手取りの7割が政府から支給されて最低限の生活は保障されることになっている。もっとも、休業補償を受けている、あるいは受けることになる人が気になるのは、はたしてその後職場に復帰できるのか、ということだ。店が潰れてしまった場合、休業補償は受け取れず、失業保険に切り替えないといけなくなる。

もっとも、休業補償についても、3月から支給されるようになってから、現在までもらっていない人がかなりいるというのも問題となっている。行政上のシステムに問題があるようだが、それが今も一向に解決されないままなのだ。

再びの休業要請に飲食店からは悲鳴が上がる。500人の従業員を抱えるレストラン「トゥラガルス」グループの創業者の1人、トマス・タルエーリャ氏はカタルーニャ代表紙『バングアルディア』の取材に対して、「従業員の中には(今後どうなるのか)あまりにも不安で泣きながら電話して来た者もいる」と語る。

「夏のシーズンは悪かったが、これから頭を持ち上げようとしていたところだった。州政府の取った手段は間違っている。なぜなら私たちは、感染から守るためのすべての義務を果たしたし、感染させたこともない」

冷蔵庫は食材で埋まっており、仕入れ先が商品の支払いを求めてくるとし、「なぜ私たちが(感染拡大の)責任を負わねばならないのか、それを説明できる者は誰もない。公共の交通手段は(封鎖の)対象になっていない。(それよりも感染の可能性が低い)路上にテーブルを出す場合はなぜ営業してはいけないのだ?」と州政府の取った対策に不満をあらわにしている。

さらに同氏は、「パンデミックの間、小規模の業者は存続するために負債を背負った。それなのにいま、商売ができなくなっている。この営業停止の背後には、収入がなくなる人や。その家族のドラマがある。こうした人たちのことをもっと考えなければいけない」と語っている。

また、バル・レストランのオーナー連盟に籍を置くアルベルト・バッロス氏は、「バルやレストランに(感染の)問題があるとは思わない、むしろ家庭などで仲間が集まったところに問題がある」とデジタル紙『20ミヌートス』に語っている。公共の乗り物やパーティーのほうがバルよりも感染させる可能性は高いと指摘して、「(私の店は)テイクアウトをやっていないので、閉めることにした」としながら、「州政府は店の家賃の50%を負担してほしい」と嘆いている。

15日は耐えられるが、それ以上はわからない

レストラン「シセリン」のオーナー、ジョナタン氏は、経済専門デジタル紙『リブレメルカード』の取材に対して、税金の支払いを再度延期してもらわねばならないと明かし、「今回の営業停止で収入の半分を失うことになる(中略)15日間は耐えることはできるが、それ以上停止が続くとどうなるかわからない」と答えている。

カタルーニャレストラン連盟書記長ホアキン・ボアダサス氏も、「(封鎖が始まった)3月14日からまともに営業できないでいる。最初は閉めることにさせられた。その後は時間制限と集客数の規制。そして今また閉めなければならなくなった。従業員が休業補償を受けられるようにしないといけないし、家賃と税金は払い続けねばならないが、損害分を取り返すことはできない」と話す。

今回、休業要請をするにあたってカタルーニャ州政府はまず4000万ユーロ(約48億円)を救援金として用意し、資金繰りで問題のある業者には1万2000ユーロ(約144万円)以上の担保補償をする用意があるとしている。しかし、この救援金はあまりにも少額だと指摘されている。このような事態になって、独立派の政党が担う州政府も独立運動で騒ぐような事態ではなくなっている。