航空会社の「顔」ともいえるCA(客室乗務員)が厳しい状況に立たされている。副業を公認する企業も現われはじめたが、翼をもがれた彼女たちの表情は憂鬱だ。
Go Toトラベル事業の拡大で、各航空会社の国内線需要が「回復傾向」に転じつつあると報じられた。しかし、今も減便は続き、国際線は壊滅的な状態が長期化。航空業界は未曽有の不況に直面している。
全日本空輸(ANA)では、4月からCA約6400人の一時帰休を開始したが、それに伴い彼女たちの懐事情は深刻さを増しているという。20代CAが明かす。
「月の乗務は2〜3回程度しかなく、実質“週休4日”のような状態が続いています。以前は乗務手当込みで30万円以上あった手取りが、いまでは半分以下になりました。月10万円の家賃の負担も重いくらいで、貯金を取り崩しながら生活しています。これを機に退職したり、2年間の休職に入る同僚もいます」
子育て世代の経済的打撃はさらに深刻だ。30代中堅CAが嘆息する。
「夏のボーナスは3分の2カット、冬はゼロが決定しました。住宅ローンのボーナス払いをどうするかで頭が痛い。100万円までの社内融資に飛びつきましたが、一時しのぎにしかなりません」
そんな折に報道されたのがANAの副業(兼業)範囲拡大の方針だ。これまでも家庭教師など社員が「個人事業主」として副業を行なうことは認められていたが、今回の方針が実現すれば、勤務時間外にパートやアルバイトとして他社とも雇用契約が結べるようになる。
働き方改革の影響で近年は副業を認める企業が増えつつあるが、別企業と雇用契約を結ぶことを許す例は稀だ。今回のANAの方針は、それほど深刻な状況であるということを示している。
もっとも、給与水準の低い外資系航空会社や格安航空会社(LCC)では以前から副業を認めているケースがあった。余暇を使ってスーパーやファミレスでアルバイトに励むCAの姿は珍しくない。
日本でも、豪カンタス航空系LCCの「ジェットスター・ジャパン」が4月からCAだけでなく全社員の副業を認めた。保育士の資格を持つCAが、月10日ほど保育園で働いているケースもあるという。
業界大手の日本航空(JAL)も例外ではない。
「兼業を行なう場合は本業の遂行に支障をきたさないこと等を前提条件に判断しており、これまでにサービス付き高齢者向け住宅や保健所で兼業を行なった事例があります。賃金は兼業先から支払われます」(広報部)
今後はANAでも副業の門戸が開かれるわけだが、現場からは苦悩の声も聞こえてくる。前出の若手CAがいう。
「会社から事前の打診はなく、副業解禁はネットニュースで知りました。ただ、副業するには事前申請のうえ管理職3人の承認を得る必要があるなどハードルが高い。何より、翌月のシフトは前月26日までわからないし、交代要員としてのスタンバイ日も少なくないから他社で働くのは相当難しいです」(ANA広報部は「運用上の煩雑さなどの課題は、日々、改善を行なっています」と回答)
とはいえ、給与だけで足りないなら働きに出るしかない。彼女たちはどんな副業を模索しているのか。
「学生時代にアルバイトしていたファストフード店かコンビニなら経験が生かせますが、シフトのことを考えると難しい。自分の都合に合わせて働けるウーバーイーツで働くのが現実的かもしれません。CAは体力もありますし(笑い)。とにかく月2万円でも3万円でもいいので、なんとかして稼ぎたい」(前出・20代CA)
※週刊ポスト2020年11月6・13日号