クルマがぶつからないことを追求するアイサイトの開発トップ・柴田英司氏(左)。同時に運転する楽しさにも強いこだわりを持つ。自動車ジャーナリストの小沢コージ(右)

新世代アイサイトが超話題。ということで、自動車ジャーナリストの小沢コージがが群馬県にあるスバルの研究所に突撃。開発トップに格安ハンズオフの秘密や自動運転について聞いた!

■コスパ最強のハンズオフ登場

今から10年前、「ぶつからないクルマ?」のCMとともにヒットした先進安全機能がスバルのアイサイトだった。

走行中、前方障害物をステレオカメラが発見してクルマが自動で完全停止する。そんなCMに誰もがビックリ。その衝撃もありレガシィに搭載されるやいなやアッという間に装着率は8割に到達。

その後、ディーラーには「アイサイトください!」という指名客が殺到。現在はインプレッサ、フォレスター、XVにも装着されておりアイサイト装着の累計は300万台を突破。スバルのブランド価値を高めてきたのは紛れもなくアイサイトなのである。

【写真】スバルの新技術「アイサイトX」のハンズオフ

ところが最近そのイメージが薄まりつつある。なぜなら昨夏、ドイツのBMWが時速60キロ以下の高速道路の渋滞時のみではあるが、ニッポン初となるハンズオフを達成。


ニッポンにおいてBMWが最初に認可を勝ち取ったハンズオフ。昨夏から続々と対応モデルを発売

昨年9月に日産がマイチェン版スカイラインに搭載したプロパイロット2.0もスゴかった。こちらは高速道路の制限速度内全車速対応で、ドライバーが前方を注視し、クルマが車線内を自動追従していれば完全にステアリングから両手を放せてしまうのだ。まさに完全自動運転一歩手前の技術である。


日産は昨年9月の大改良でスカイラインに手放し運転を実現するプロパイロット2.0を搭載。大きな話題に


プロパイロット2.0搭載のスカイラインの価格は557万5900〜644万4900円。けっこうなお値段です
マジな話、オザワは「もはやアイサイトはこの衝撃に太刀打ちできないかも?」とひそかに思っていたが、今年10月正式発表予定の新型レヴォーグに搭載される新世代アイサイトXをテストコースで試して驚いた。

時速50キロ以下の高速道路の渋滞時のみハンズオフが可能だが、それだけじゃない。カーブ直前に道の曲率に合わせてスピードを自動調整するカーブ前速度制御や料金所前速度制御、さらには既存のどのクルマよりもうまい自動レーンチェンジまで実現してしまった。

価格も衝撃的だった。アイサイトXは縦型大型ナビと合わせてプラス35万円で搭載可能。この手のナビの価格は25万円程度が相場だから、実質10万円でアイサイトXが買える計算になる!

ハンズオフができるBMWもスカイラインも価格は550万円以上とけっこうなお値段でなかなか手が出せない。ところがスバルは300万円前後でハンズオフを実現したのだ。コスパ最強にも程がある。


スバルの新技術「アイサイトX」のハンズオフ。ハンズオフの状態でよそ見をすると警報が。それを無視しているとシステムが異常と判断。ハザードを点灯したりしながら最終的に直線区間で自動停止する

いったいどうすればこんな価格が実現できるのか? 新世代アイサイトの責任者であるスバル先進安全設計部担当部長兼自動運転プロダクトゼネラルマネージャー・柴田英司氏を直撃した。

■他社と違う自動運転

──いきなりですが、なぜアイサイトXはこんなに安い価格でハンズオフを実現できたんスか?

柴田 まず世の中には自動運転の大きな流れがありますが、われわれスバルの考えは少し違います。ご存じのとおりスバルの主力車であるレヴォーグやインプレッサは300万円前後のクルマです。

──スバルはいわゆる大衆車を取り扱うメーカーですね。

柴田 300万円台のクルマに対して最高の先進安全をどう詰め込むか。予算の範囲内でどこまで機能を向上させられるか。スバルは300万円前後のお皿のなかでどういう素材、どういう調味料を使うか。そればかり考えています。それがアイサイトXの本質です。もちろん世間の議論はウオッチさせていただいていますが。

──要するに他社の自動運転開発とスバルとではスタートラインが全然違うと?

柴田 他社さんの自動運転技術は、誰もやったことのない領域を値段の高い部品をたくさんつけてでもやらなければいけないはず。一方、スバルは「制約のある予算のなかでどこまでやれるか?」というチャレンジが命題なのです。

──世界的な自動運転の流れとスバルでは別の競争というか、もはや違うビジネス?

柴田 他社は、「ウチとアイサイトは全然違うモノ」と思うかもしれません。

──「もうすぐ完全自動運転ができる」と言い切る北米のテスラ。さらにホンダやメルセデスも自動運転レベル3を発表しそうですが、それについて柴田さんの感想は?

柴田 スバルのアイサイトXとは違うジャンルの話だと思っています。アイサイトXは"お客さまがうまく使っていただくツールの進化の究極"を狙っています。しかし、自動運転レベル3というのはお客さまの運転をシステムが完全に代行するわけです。

──スバルは常に「ドライバーに運転を楽しんでもらいたい」と話していますね?

柴田 はい。今回、スバルはハンズオフというハンドルから手を放せる領域に足を踏み入れましたが、レベル3はさらにアイズオフという運転中に目を離してもいい領域に入る。そうなるとドライバーありきか? そうでないか? その考え方はまったく違うように感じます。

■アイサイトXのキモは断捨離!

──話を最初に戻します。アイサイトXのハンズオフは圧巻の技術です。自動レーンチェンジもコーナー速度制御もマジでハンパない。繰り返しになりますが、なぜこの技術を300万円前後で実現できた?

柴田 やはりステレオカメラの存在が大きい。アイサイトは最初から独自開発のステレオカメラの技術を使っていますが、今回はハードウエアもソフトウエアもすべて再設計しています。カメラのサイズは変わりませんが、映像をとらえる半導体素子やデータを処理するチップはすべて一新し、最新版にしています。

──確かにスバル独自のステレオカメラはアイサイトの売りです。他社がミリ波レーダーとか単眼カメラを使うのと大きく違う。ただ、今回は性能を追いかけるのにステレオカメラだけじゃ足りなくなり新たにふたつの前側方レーダーを取り入れました。ステレオカメラのアドバンテージは減ってきたのでは?

柴田 単純に部品を増やすと、そのまま価格に反映されてしまう。この手の先進技術というのは性能を上げながら部品をいかに増やさないかがポイントになる。それはアイサイトの歴史ともいえます。


新型レヴォーグ。8月20日より先行予約が開始されている。正式発表は10月15日。発売開始は11月予定

室内の前ガラス上部に備わる「アイサイトX」のフロントステレオカメラ

インテリアで目を引くのが11.6インチの縦型モニター。マジでド迫力

──となると今回は価格にどう折り合いをつけた?

柴田 ステレオカメラは前方を立体視するという一番大きな特長の実現に使用していますが、そのほかにデータ処理センターの役目も負わせているんです。

──もう少し言うと?

柴田 要するにこのステレオカメラユニットの中にしか脳ミソは入っていません。ほかのセンサーの情報もすべてステレオカメラに入っています。その結果、アイサイトの中で情報をすべて処理することができてしまう。だから追加部品は一切必要ない。

──えっ? この運転席の前のカメラユニット内だけでほかのミリ波レーダーとかの情報も処理していると?

柴田 そのとおり。他社さんは別の高性能なセンターECUに各種デバイス、カメラ、センサー、超音波センサーなどの情報を集約していると思いますが、スバルはステレオカメラのチップに360度レーダーのデータやアイサイトX用の地図ロケーターのデータも入れて処理しています。

そこまで考えて最新チップも選定しました。しかも、最新チップを収める箱は昔から変わらずカメラ用筐体(きょうたい)のみ。さらに今回はアイサイト本体のコストを落として、その余力で部品を追加しているんです。

──だから10年前と同じ、実質約10万円という価格内に収めることができたと?

柴田 スバルのベースにあるのはお客さまのニーズです。予算の都合もあるので機能をひとつひとつお客さまの立場に立って精査し、これは入れられない技術、これは入れられる技術と選別するんです。

──ということは、スバルのアイサイトXのスゴさの秘密をひと言で言うと、取捨選択?

柴田 正確にはいかに捨てられるかだと思っています。まぁ、断捨離ですよ(笑)。

取材・文・撮影/小沢コージ 撮影/本田雄士 写真協力/スバル BMWジャパン