兵庫県神戸市西区にある「業務スーパー 押部谷(おしべだに)店」の店舗外観(写真:神戸物産)

新型コロナウイルスの感染拡大を受けた外出や出張の自粛、通勤の見直しで、これまで手堅いといわれた鉄道会社のような業種も打撃を受けている。

一方、在宅勤務の恩恵を受けたのが、主に近隣の顧客を相手にするスーパーだ。日本チェーンストア協会が発表した2020年8月の「チェーンストア販売統計」(会員企業)は前年同月比3.3%増(既存店ベース)となった。食品関係が好調で、衣料品は苦戦した。

こんなご時世に、新店舗を続々オープンさせる小売りブランドもある。

「業務スーパー」だ。看板に「一般のお客様大歓迎」と掲げており、個人客も多い。

今年4〜5月は前年比30%超の増加

日本中が外出自粛となった今年4月と5月の売上高は、運営会社の単体実績では対前年比30%超の増加。この時期は「買いだめ」や「調理の手軽さ」でレトルトカレーやスパゲッティがよく売れたという。

9月には「業務スーパー 篠栗店」(福岡県)、「同 函南店」(静岡県)、「同 鉾田店」(茨城県)など9店が新規オープン、10月も「同 鶴川店」(東京)がオープンするなど、新規開業が続く。国内総店舗数は北海道から沖縄県まで875店(2020年9月末)となった。

FC本部を運営するのは神戸物産(本社・兵庫県稲美町)だ。2019年10月期の連結売上高は約2996億円、経常利益は同192億円で過去最高の業績。今期も最高を更新する勢いだ。

後述するが、同社は「製販一体」や「六次産業」(一次+二次+三次産業)を掲げ、川上から川下まで多様な事業を行う。その集大成であり、主力事業が「業務スーパー」なのだ。

今回は「業務スーパー」人気の秘密と、積極的に新店進出ができる強みを探ってみた。

まず「業務スーパーの強み」を3つの視点で整理してみよう。別の意見もあるだろうが、筆者は次のように考える。

(1)「安さ」と「品質」のバランス
(2) 店内演出よりも「品揃え」
(3)「掘り出し物」を見つけるワクワク感

総じて価格は安く、商品には自社PB(プライベートブランド)である「国内グループ工場」製造もあれば「輸入品」もある。一方、NB(ナショナルブランド)は、筆者が比較した限りでは近隣のスーパーと価格差はなく、特に缶ビールは割高な品もあった。

(1)の人気商品を神戸物産に聞いた。

「国内製造では、460円(税別、以下同)で販売している『徳用ウインナー』1kgが人気です。当社グループの養鶏場で育てた鶏を原料に使用しており、原料の生産から加工、販売までグループで一貫して行う代表的な商品です。骨回りの肉まで余すことなく使用することで、品質を担保しながら価格を下げられています」

経営企画部IR・広報課長の花房篤史さんはこう説明し、続ける。

「1本で約1.8斤ある『天然酵母食パン』も人気です。高単価な食パンと比べても遜色のない品質で、価格は228円なので非常に人気の商品です。もともと岐阜のパン工場で製造しており、人気のため埼玉にも工場を増設しました。それでも供給が足りなくなり、岐阜に建てた新工場で9月から生産も始めています」

神戸物産は製造・卸・小売りを自社グループで手掛けるが、これらはその象徴例だ。


「特用ウインナー」は平日昼下がりでも商品が減っていた(筆者撮影)

「目的買い」のお客、「未知を楽しむ」お客

国内製造の人気品を買うのは個人客が多いが、業者が支持するのが次の輸入品だ。

「2kgの『鶏もも肉(ブラジル産)』は、648円(2020年9月末)なので、100gあたり約32円。この圧倒的な安さが人気で、個人客も買われますが、業者の方の引き合いが強い。1kgで195円の『フライドポテト(シューストリングカット)』もそうです。何種類かあるポテトのうち、いちばん細いカットのこの商品が最も売れます」(同)

筆者も店にはよく足を運んで買う。担当編集の1人と一緒に視察・購入経験もある。業者と思われるお客が目的買いで来店し、手早く品物を入れるといった光景も目にしてきた。

(2)と(3)は店によって異なり、季節感のあるPOPなどの演出がない店もある。そうした店は店内も倉庫のようで素っ気ないが、花房さんはこう説明する。

「もともと商品を売れ筋に絞り込んでおり、季節性の品はあまり多く取り扱いません。店内装飾などの手間を極力減らして、商品価格を抑えるのも当社事業の特徴です」

消費者の感想は分かれ、「買い物をする楽しさが少ない」と来店頻度を減らす女性もいれば、「意外な商品が見つかるので面白い」と話す男性もいた。

「自宅の近くに2店舗ありますが、魚介類が充実している店、そうでない店、それぞれを目的によって使い分けます。価格は両店ともに安いので重宝しています」(同じ男性)

ちなみに全店での平均客単価は推定1200〜1300円と聞く。


「新鮮おやさい」を掲げ、野菜・果物に力を入れる店もある(筆者撮影)

いろんな意味で業務スーパーらしい商品が「紙パックに入ったデザートシリーズ」だ。

「杏仁豆腐」「チョコババロア」「マンゴープリン」(視察時は275円+税。以下同)や「ふるゆる巨峰ゼリー」(同195円)「オレンジゼリー」(同178円)などがあり、1リットルの牛乳やジュースと同じ紙パックに入っている。

「発売当初は『水ようかん』と『杏仁豆腐』の2品だけでした。これまでにない商品で、『本当に売れるのか』と不安視する声は社内からも多かったです。

ただ、当社にはチャレンジ精神もあります。発売してみたところ、見た目のインパクトや価格・味などが支持され、SNSで爆発的に拡散されていきました」(花房さん)

これらも自社グループ企業による国内製造。「業務スーパーらしい」と記したのは、「7〜8人分」と表示されるように、1食当たりでは安価なこと。何よりも、こうしたスイーツ系を紙パックに入れてしまうところだ。これなら商品陳列も飲料の棚に置ける。

こうした新商品を企画する場合、通常は少し凝った容器に入れたがる(開発側)。一方で、発売後は大量生産となる製造現場(生産側)は、生産ラインでの「安定製造」を求める。長年商品開発の現場を取材して、そうした議論も見てきたが、すでに実績のある紙パックなら生産が安定するのだ。容器開発のコストも抑えられ、商品価格も安くできる。


紙パックのデザート類(筆者撮影)

「出店したい」オーナーは多い

900店近くに増えた店舗は、大半がFC(フランチャイズチェーン)店で、直営店は2店だけ。地場食品スーパーも多く、「業務スーパー」看板の下に屋号を掲げる店もある。

コロナ禍でも新規出店が続くのは、「出店したいオーナーが多いから」だ。

魅力の1つはロイヤルティ(権利使用料)の低さで、「仕入れの1%」となる。新商品などは本部推奨もあるが、神戸物産の取扱商品の中から、何を仕入れるかは各店の裁量だ。メーカー機能も持つ同社(グループ企業)は商品の取り扱いも幅広い。

「当社から『業務スーパー』店舗への商品出荷実績は全国平均で、7月が対前年比114.3%、8月が113.3%。2019年2月からずっと2ケタ増となっています」(花房さん)

前述したように常連客が多く、集客力の高さと客層も安定している。東京都内の住宅街にある店舗には、低価格訴求のスーパーには異質な高級外車で訪れるお客も目立つ。さまざまな業態を手がけるオーナーにとっても、業務スーパーは魅力的なブランドなのだろう。

「どんどん変化する消費者」への対応

「消費者はどんどん変化する」と言われる。「不易流行」(時代とともに変わる・変わらない)における「流行」の視点だが、この1年でも消費者の意識はかなり変わった。

例えば昨年の秋は、まだタピオカブームが残り、業務スーパーでもタピオカ関連商品が大きく伸びた。今年のコロナ巣ごもり期は同社に限らず、当初は冷凍食品の買いだめが起きたが、安定供給されることがわかり落ち着いた──といった話を各取材で聞いてきた。

「買い出し」時期が一段落すると、別の意味での「買い物の楽しさ」を求めるお客が増える。近年、神戸物産は「馳走菜」(ちそうな)という惣菜ブランドにも注力する。

「日常の食卓代行」をコンセプトに掲げ、例えば「ジャンボチキンカツ」は岡山県のグループ養鶏場で育てた鶏が原材料だ。これ以外に弁当や丼ものを揃え、ポテトサラダやおはぎもある。独自店舗と併設店舗があるが、まだ東京都区内にはない。

「惣菜市場は拡大しており、『馳走菜』は積極的に加盟店様に勧めています。業務スーパーの商品開発では、これまでよりもカテゴリーも価格帯も幅を広げて、広い客層の需要に応えられるように努めます。一方、東京23区内は店舗面積が十分に確保できない店が多く、坪当たりの売り上げを上げるために什器の開発などに力を入れています」(花房さん)

成長が続く「業務スーパー」の課題は、「商品の欠品」と「顧客対応」だろう。前述の「天然酵母食パン」も以前は、早々と品切れになっていた。また、店舗従業員が少なくクレームも発生。そこで神戸物産内にCS推進部をつくり、加盟店への運営教育にも力を入れている。

ただし、あまり本部が口を出しすぎると、現場は反発する。現在は総じてうまくいっているが、店舗数が増えれば増えるほど、求心力と遠心力のバランス運営が求められる。

課題は残るが、コロナ禍の成長ブランドとしても興味深く、消費者視点でも見続けたい。


「馳走菜」の弁当・丼類は298円という安さだ(写真:神戸物産)


「馳走菜」のフライバイキング売り場(写真:神戸物産)