1日24時間をどう使えば質の高い仕事ができるのか。弁護士の谷原誠氏は「作家の村上春樹さんのルーティンが参考になります。規律を守り、集中すべきときに集中し、適度な息抜きをして翌日に備える習慣が成果をあげ続ける秘密です」という――。

※本稿は、谷原誠『時間を増やす思考法』(フォレスト出版)の一部を再編集したものです。

写真=The New York Times/Redux/アフロ

■最高のパフォーマンスを生み出すスケジューリングとは?

1日をどう使うかは、悩ましい問題です。

ビジネスパーソンは、スケジューリングにより1日の時間の使い方を管理していますが、その使い方が職業によって異なることは言うまでもありません。

会社員は、通常、始業時間と就業時間が決まっており、決まった時間、指示を受けながら仕事をしなければなりません。一方、フリーランスの方は、納期までに成果物を完成できればいつ仕事をするかは自由です。

私は弁護士事務所の代表をしていますが、基本的には仕事の時間は自分で決めます。始業時間と就業時間は、はっきりとは決まっていません。毎日の仕事を自分でスケジューリングして決めていくことができます。

しかし、そこで気づくことがあります。時間が比較的自由になるといっても、どの時間帯に何をするかは、ベストな形がだいたい決まってくるということです。

では、「自由業」の人たちの時間の使い方は、どうでしょうか。気になるところです。

典型的な自由業として多くの人が思いつくのが専業の作家ではないでしょうか。そこで紹介するのが、日本を代表する小説家、村上春樹氏の1日の使い方です。

村上氏の主な仕事はもちろん小説を書くことです。原稿を書くという行為については、いつでもどこでもできるもので、時間と場所の制約はありません。

昔の小説家のイメージといえば、書きたいときに書き、気持ちが乗らなければ書かない。そして、締め切り寸前には編集者から矢の催促。温泉旅館やホテルで缶詰めになって、灰皿をタバコの吸い殻でいっぱいにしながら夜遅くまで書きまくるといったところでしょうか。

しかし、村上氏の仕事はそれとは正反対です。

■村上春樹は朝4時に起き、原稿用紙10枚の執筆をして、運動をする

村上氏は、長編小説を書いているときは、毎日朝4時に起きて即、パソコンの前に座り、原稿を書きはじめ、4〜5時間、ひたすら執筆します。

この原稿の量は、かならず原稿用紙10枚程度と決めていて、短くても長くてもいけません。筆が進まなくても書き切り、逆にもっと書けそうでもピタッとやめるそうです。

その後、走るか泳ぐか、必ず1時間程度運動をします。昼すぎからは自由な時間として本を読んだり、音楽を聴いたり、レコードを買いに行ったり、料理をしたりします。そして夜9時頃には寝て、翌日の仕事に備えます。長編小説を書いている時期は、このような生活を、だいたい小説の第一稿が書きあがる半年間くらいの間、休みもとらず毎日判で押したように繰り返すそうです。

そのような執筆スタイルを貫いている理由を聞かれた際、このように答えています。

「書くためには、守るべき自分自身の規律を作り、しっかりと確立させる必要があるんです」

(写真=The New York Times/Redux/アフロ)

長編小説の執筆は長丁場です。1冊、2冊で力尽きる作家も多い中、村上氏は、1979年のデビュー以来ずっと活躍しつづけ、ベストセラーを次々と生み出し、今や新作の発表を世界中のファンが待ち望む作家になりました。長く仕事を続け、成果を上げるためには、行き当たりばったりの仕事の仕方では身体も精神も持たないということを、本人がよくわかっていたのです。

そして、実は、規則正しい執筆スタイルを持つ有名作家は村上春樹氏だけではありませんでした。

たとえば、ヴィクトル・ユーゴーの1日は、夜明けとともに起き、入れたてのコーヒーと生卵2つを飲み、部屋にこもって11時まで執筆したあと、冷たい水で体を洗います。12時に家族や来客と一緒にランチを食べ、昼食後は2時間の散歩か、浜辺で運動をし、床屋(毎日通う)へ行き、帰宅したらまた執筆をするか、手紙の返事を書きます。その後、家族や友人と夕食を食べ、カード遊びなどをする、というものでした。

チャールズ・ディケンズの1日は、7時起床、8時朝食、9時から14時まで執筆、その間に会話などはせず黙々と昼食を食べます。執筆は1日2000語を書くと決めていました。14時から17時まで散歩、18時に夕食、家族とすごし、0時に寝る、というものでした。

フランツ・カフカの1日は、8時から14時半頃まで保険局員として事務所に勤務し、勤務後は15時半まで昼食をとり、そのあと19時半まで寝ます。19時半から10分間運動し、1時間散歩をし、家族で夕食をとり、22時半頃から深夜1時か3時頃まで執筆、また軽く運動して寝る、というものでした。

スティーブン・キングの1日は、朝8時から11時半か13時半頃まで執筆、1日2000語を書くと決めています。そのあとは、昼寝をしたり、手紙を書いたり、読書をしたり、家族とすごしたり、テレビでレッドソックスの試合を見たりしてすごす、というものです。

いかがでしょうか。

共通することは、みな、最高のパフォーマンスを発揮できるよう、集中すべきときに集中し、適度な息抜きをして翌日の仕事に備えるという、自分でベストと思える時間管理を確立しているということです。

■自分でコントロールできる時間を増やすには?

この方法は、何も自由業の人だけに当てはまるわけではありません。就業時間が決まっている会社員であっても同じです。現に、先ほど例に挙げたカフカは、専業作家ではなく、保険局員として勤務しながら残りの時間で執筆をしていました。

写真=iStock.com/Graphyrider
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Graphyrider

会社員の場合、確かに始業時間などは決まっていますが、1日の中でその時間に何をするかをつぶさに見てみると、自由に使い方を決めている時間が必ずあります。まずは起床時間を何時にするかは、たとえ同じ会社に勤めている人であってもそれぞれ異なるでしょう。ぎりぎりまで寝ていて、あわてて起きて朝食もそこそこに電車に飛び乗る人もいれば、早く起きて瞑想をしたり、エクササイズをしたり、読書をしたり、体にいい朝食を食べたりと自分にとって意味のあることを習慣にしている人もいます。

デスクワークでは、1人でパソコンで作業をしている時間は、どのタスクを行なうか、自分で管理しているはずです。また、短時間の休憩は、自由にとることも多いでしょう。外回りの営業マンであれば、内勤の人よりも自分でコントロールできる時間は増えます。

同様の仕事を長くこなしているうちに、最も仕事がはかどり、質が上がる最適な時間の使い方が見えてきます。メールチェックなどのルーティンの仕事は、どの時間帯に行なうのが最も効率的なのか。頭を使い、集中すべき仕事はいつ行なうと質が高くなるのか。電話対応や来客、会議など、自分ではコントロールできない仕事が入りやすい時間も考慮しながら決めていきます。

一定時間ごとに強制的に休憩をとるということも、長時間仕事をする際には有効です。外部の人とアポイントメントをとる時間も、自分で決められるのであれば、ほかの仕事が最もうまくいく時間を、迷わず設定することができるようになります。

谷原誠『時間を増やす思考法』(フォレスト出版)

そして、仕事が終わったあと、寝るまでの時間をどのようにすごすのかも自分で決めることができます。家族との団らんの時間をいかに確保するか、勉強や読書の時間をいかに確保するか、いつ息抜きをするかなどです。

1日のスケジュールを決める前に見極めておかなければならないのが、自分が「朝型」なのか、「夜型」なのか、という点です。先ほどの作家たちは、「朝型」が多かったのですが、「夜のほうが集中力が高まる」という人もいるでしょう。

夜早く寝て朝早く起きて仕事や勉強などをする期間と、夜に仕事や勉強などをする期間をそれぞれ設けてみて、自分にはどちらが向いているかを慎重に見極めるのです。そして、それがわかったら、「朝型」の人は朝を中心に、「夜型」の人は夜を中心にスケジュールを組んでいくことになります。

スケジュールは、机上で単純に時間を割り振ってもうまくいきません。どのようなスケジュールにすれば、精神、肉体ともベストな状態で日々を送れるのか、何度も試行錯誤を繰り返しながら、最適解を導き出す必要があります。

目の前の状況やそのときの感情に流されて、受動的な、怠惰な時間をすごすのではなく、明確な目的を持って、能動的に時間コントロールするという意識を持つことが大切です。そうすれば、時間を自分のものとして、長期的に成果をもたらす武器にできるはずです。

「時間を自分の味方につけるには、ある程度自分の意志で時間をコントロールできるようにならなくてはならない」――村上春樹『職業としての小説家』新潮文庫

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谷原 誠(たにはら・まこと)
弁護士法人みらい総合法律事務所・代表者社員弁護士
税理士。交通事故訴訟などを扱う。『「いい質問」が人を動かす』(文響社)など、著書多数。
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(弁護士法人みらい総合法律事務所・代表者社員弁護士 谷原 誠)