240台超の高級車、すし詰め状態

text:Kumiko Kato(加藤久美子)

先日AUTOCAR JAPANが伝えた、S社による詐欺まがいの行為に関する報道が増えてきた。

その行為とは
1、投資者に実車両販売価格の2〜3倍でローンを組ませて、
2、投資者名義(車検証上の使用者名義)でクルマを購入&登録
3、個人間カーシェア専門車という形でS社が運用する
というもの。

通称「昭和カートン」と呼ばれる埼玉県川口市内にある駐車場。カーシェア車両が多数置いてあるとされる。    加藤博人

車両は手元になく、投資者がその車両を使うことはもちろんできない。

投資者には契約時に車両代金の1割が振り込まれる。毎月のローン代+保険代はS社から振り込まれて、1か月1万円程度の報酬を受け取る。7年後ローン完済時にはS社がその車を100万円で買い取り投資者に入金するという約束だった。

しかし、10月8〜9日にS社の会長K氏が実名で投資者にメッセージを送り、事業停止を発表した。

投資者の多くは多額の負債を抱えることになり、ローンの名義貸しや車庫飛ばしが違法であることも知らなかった。

数多くの情報提供があり、それらの情報をもとにカーシェア車両が多数置いてあるとされる埼玉県内の駐車場に向かった。

すでにSNSなどでその駐車場の写真も投稿されていたが、一部を写した写真が多く、全体像がつかみにくかった。

通称「昭和カートン」と呼ばれるその駐車場は実際に埼玉県川口市内にあった。うわさ通りかなりの台数が停まっている。見たところ外観が大きく損傷したクルマは見当たらない。

その場所には本当に多数の高級車が置いてあった。

ドイツ車やレクサスが多いが、ジャガーXJ、フォード・エクスプローラーやジープ・ラングラーの姿も。

レクサス以外の国産車ではトヨタ・アルファードやヴェルファイヤなども。

昭和カートンにあるのは約240台で、この周辺にもいくつか車両置き場所があり、合計するとこのエリアだけで300台以上が停まっている。

クルマたちは、いつからここに停まっているのか。近所の住民は「この半年で急に増え始めた」と教えてくれた。

川口市内の駐車場にはS社の事業停止が発表されてから、クルマを探しに来た人が急増している。

事業停止が発表されたその日、パトカーに乗った警察官と共に自分のクルマを探しに来た人も数名いたという。

20代や主婦 詳しくない人が狙われた

S社による詐欺まがいの行為で被害を訴えているのは20代の若者や30〜40代主婦などあまりクルマのことを知らない人が多いように思える。

なぜか。

最初に情報提供してくれたAさんとS社、カーシェア利用者の関係。    AUTOCAR JAPAN編集部

簡単な話、クルマが好きというわけではなく、投資目的の人が多数だからだ。

クルマや家を購入したこともないから「ローン枠」も十分にある。中には1人で2台、3台と契約している人もいる。

一方、別の楽しみを見出していた人もいる。1人で3台契約しているJさんは、「S社の投資メンバーになると高級車が半額で(1日5000〜6000円)シェアできるんです。わたしとしては月ごとの配当よりも、大きな魅力でした」という。

なお、このサービスが始まった当初(2018年)は、購入したクルマと一緒に写真に納まったという投資者も多い。

S社のカーシェア予約サイトに掲載するためだ。現在もS社のサイトは閲覧可能。

(さすがに予約は受け付けていないが)そこには、「ジャガーXJ H・S会社員」や「BMW 420iクーペMスポーツ Y・N会社員」など顔出しアリの人、顔部分が見えない人、クルマだけの写真などいろいろなパターンで紹介されている。

しかし今年に入ってから契約した人の多くは、「クルマは全く見ていない」「車検証のコピーなどもない」という。

もちろん、実車と写真を撮った人も含め、車検証の使用者名義人でありながら、合いかぎなども渡されていない。

車名と年式だけは、手元に送られてきた保険証券で確認できるものの、そのクルマが不動車なのかどうかもわからず走行距離も知らされず契約しているのだ。

事故やトラブル時の保険にも不思議が

もう1つ、契約内容で不思議なのはシェア車両の自動車保険である。

一般的に、個人間カーシェアでは借りる側が、「1DAY保険」(三井住友海上)などの「1日自動車保険」に加入する。独自の1日自動車保険への加入を義務付けているカーシェア会社もある。

借りた側が事故を起こせば、もちろんその1日自動車保険で補償される。車両オーナーの保険を使って修理することなど通常はありえない。

しかし、S社は投資者が自分の名義で保険契約をしており、筆者が聞いた20名の投資者たち全員が2年または3年契約の自動車保険だった。

6等級(新規)スタート&車両保険500万円ともなれば保険料だけで毎月2〜3万円、3年間で80〜90万円と非常に高額になる。(保険料もローン料金と同様にS社が投資者の口座に入金し、毎月、保険料として投資者の口座から引き落とされる)

さらに、カーシェア車両でありながら、年齢条件がついている(35歳以上)のも不思議だ。

とはいえ、クルマの所有経験がない投資者は自動車保険の仕組みもよくわかっていないようで、
「普通個人間カーシェアでは、借りた側が1日保険などに入るんですよ」と伝えると驚いていた。

なお、S社の事業停止が発表されてから、少しでも負担を減らそうと高額(1か月2〜3万円)な保険を解約し、ネット型の安い保険に乗り換える人が急増。

急に解約が増えたこともあって、保険会社が調査に入っているとの情報もある。

中には車両の返却が始まっている人も

S社が事業停止を発表して10日が経過した。運営側から投資者のところには一方的なお詫びメールしか届いていないようだが、実は複数の関係者や被害者有志によってシェア車両の返却が各地で始まっている。

大阪に住むNさんは、自身が契約したレクサスLSを探し出し、取り戻すことに成功した。

「大阪市内にも多くの被害者がいて、皆さん、各地の駐車場に停めてあるクルマを探し回っていました」

「その際に、大阪市内のコインパーキングに停められていることがわかりました」

「カギはS社の元アルバイト(現在は解雇されている)の男性と関係者を通じて受け取りました。約1週間、そこに停めてあったようです」

「1週間分の駐車代金を支払ってクルマを出し、自宅まで乗って帰ってきました。急に高級車を自宅に置くとなると、近所の目が気になりますね(苦笑)」

ちなみに、クルマが返却されたからと言って、すぐに売却(名義変更)することはできない。

これらの車両は所有者がローン会社、使用者が投資者本人となっているため、ローンの返済が終わらない限りは売却も不可能となる。

もちろん、返済額を上回る価格で買い取ってくれる業者でもいれば万々歳だが、もともとがオーバーローン気味(実際の車両価値より大幅に高い価格でローンを組むこと)なのでそれも厳しいだろう。

投資者たちは、いま何をすべきなのか

まずは、デマや他人の言動に惑わされることなく、自分自身で正しい情報を入手して行動するということだ。

クルマの登録や自動車保険に関する正しい知識を持たない人どうしで間違った情報を共有していることも少なくない。

例えば、保険の解約1つとっても、「解約を申し出たけど所有者じゃないので、断られた人がいるらしい」「カーシェア車両の保険契約は違法だから、保険会社に知れたら更なる責務を負うことになるから解約しない」などなど。

推測で適当なことを言う人もいるので、恐れることなく、保険会社に相談すべし。

また、都内や埼玉県内の警察署には多数の被害者が詰めかけているようだが、詐欺事件として確定していない以上、被害届が受理されることは現状では難しい。

ひとまず、法テラスや国民生活センターなど無料で相談できる公的機関に相談することが現状ではベストな選択と言えるだろう。