コロナ禍でも元気な街がある。日本最大のコリアンタウン・新大久保だ。現地を訪れたコラムニストの辛酸なめ子さんは「主に10代の女子たちで街がにぎわっていました。一方、原宿・竹下通りは閑散として、元客引きと思われる黒人男性が『客引き注意』という看板を持ってうなだれて立っていたのが印象的でした」という。2つの街の明暗を分けたのは何だったのか――。
イラスト=辛酸なめ子

■コロナ禍でも韓流タウン・新大久保は女のコで大賑わい

今、東京・新大久保が原宿に代わって若者の街になっています。

中学生の娘さんがいる地方在住の知人も、娘さんに新大久保に連れて行ってとお願いされたとか……。不肖私が十代だった時は、新大久保という街の存在さえ知りませんでした。

埼玉在住だった私にとっての新大久保的な存在だったのは、原宿でした。中学生になってはじめて竹下通りを歩いた時は感慨深いものがありました。タレントショップや洋服屋、クレープ屋、アクセサリーショップの思い出が走馬灯のように浮かびます。

でも、今や流行の発信地といえば新大久保。ちょうど令和になった頃、盛り上がっていた新大久保に行って、韓流ショップに入り、試しに「ヨン様(※1)の写真はありますか?」と聞いたら全然なくて、店員さんにあしらわれ、敗北感を抱いて引き下がったことがありました(チャン・グンソク※2のポストイットメモ帳はその時はまだ売っていました)。

※1編註:2004年にNHKで放映され社会現象化した韓国ドラマ「冬のソナタ」で主演したペ・ヨンジュン
※2編註:2009年の主演ドラマ「美男<イケメン>ですね」で韓国や日本でセンセーションを巻き起こした俳優

それ以来、久しぶりに新大久保を訪れるのは緊張感がありましたが、調べたらなんと「イケメン通り」と呼ばれる通りがあると知ってテンションが上昇。かつてイケメン店員が宣伝のために立っていることから呼ばれるようになったそうですが……。現在はどうなっているのでしょう。

■お目当ては「イケメン」。女子グループのITZY、NiziUも人気

10月のとある日。コロナ禍でしかもあいにくの雨でしたが、意外と街は賑わっていました。多くは若い女性たちです。新大久保の駅の周りには韓流アイドルショップが並んでいて、顔写真をプリントしたアイテムが大々的に展開。うちわや缶バッヂ、クッション、キーホルダー、文房具、靴下までありました。プリントされた男性は全員、韓国の男性音楽グループBTS(防弾少年団)に見えてきますが、とにかくBTSの人気は圧巻です。

ガールズグループは、BTSに続いて米ビルボードの「HOT100」にランクインしたBLACKPINKやTWICE(トゥワイス)、ITZY(イッジ)など。NiziU(ニジュー)のグッズもありました。また、ヒョンビン、パク・セジョン、チャ・ウヌ、コン・ユ、イ・ジュンギ、イ・ジョンソクなど韓国の俳優のグッズも並んでいて、進化したイケメンぶりに圧倒されます。ヨン様やビョン様はいずこへ……。

日本のマルベル堂だったら昔のスターの写真も置いてくれていますが、韓流は新陳代謝が激しく、一昔前の人気俳優のグッズはほとんど見られません。お店のラインナップが、常にカルチャーの最先端の鮮度を保っていて、新大久保の街に勢いを与えているようです。

他に多く見られるのは韓流コスメショップで、パックは30枚1500円とかかなり安いです。韓国に旅行に来たような感覚で買物を楽しめます。マスクも安めの価格で売られていました。

■「GoTo新大久保」でチーズ系の新フード「UFOフォンデュ」堪能

韓国の食というとキンパ(韓国風海苔巻き)やキムチ、トッポギ、サムギョプサルなどが思い浮かびますが、新大久保ではここ数年流行しているハットグ(韓国式アメリカンドッグ)に加え、チーズ系のフードが人気のようです。

スマホを向けるとノリノリでポーズしてくれたフレンドリーなチーズボール店のスタッフ(写真=辛酸なめ子)

いくつかのお店で見られたのは「UFOフォンデュ」という、チキンを丸い鍋のふちに並べて真ん中のチーズに浸して食べる料理。こってり感が後を引き、また客を引き寄せそうです。さらに最近チーズボールという食べ物が流行っているそうで、陽気なトルコ人の屋台で買って食べてみました。とろけるチーズを小麦粉で包んで丸めて揚げた、というシンプルな食べ物で、想像以上でも以下でもない安心する味でした。新大久保はチーズ系の料理が多いので、チーズ好きで突然チーズが食べたくなった人のニーズも満たせます。

他の場所では食べられない、プチ旅行感が良いのかもしれません。世間ではGoToトラベルキャンペーンが人気ですが、わざわざ遠いところへ行かなくてもGoTo新大久保で十分楽しめるのでしょう。

あとは通りの奥に占いのお店もありました。韓流アイドルだけではない、様々な人に刺さる訴求力を持った街なのだと実感しました。

ちなみにイケメン通りには……アジア食材店の前にしゃがんでタバコを吸っているジャージ姿の男性店員くらいしか見かけませんでした。イケメンの姿は、今はなくて残念です。そのかわりに、大量のイケメン写真グッズが心を満たしてくれます。

■原宿竹下通りの日曜なのに自分の周辺半径3mは人がいない歩きやすさ

いっぽうで原宿の竹下通りは今どんな感じなのでしょう。ニュースでは、コロナの影響で竹下通りが空いている、という映像を見かけた記憶が。コロナ前の昨年に歩いた時は混み合っていて、読者モデルがファンの女子に声をかけられる場面なども目撃しました。

しかし久しぶりに日曜日の昼間にこの街を訪れたら……想像以上に空いています。自分の周辺半径3メートルは人がいないような体感。それでも大昔から存在するアクセサリーショップやクレープ店、ヴィジュアル系ショップ、パンク系ショップなどは健在でした。

写真=辛酸なめ子
空いている竹下通り。買物はしやすいです - 写真=辛酸なめ子

韓国のチーズ系フードとは違って、竹下通りではファンシーなフードが売られています。レインボーカラーのわたあめとか、雲をイメージしたスムージーなど。5年ほど前の「ゆめかわ」ブーム(※)の残り香を感じます。

※編註:「ゆめみたいにかわいい」という言葉の略語。女の子がイメージする、甘く幻想的でいて夢のような世界観を指す。

でも、当時のゆめかわ系のファッションの盛り上がりは、今は感じられず……洋服屋さんではトム&ジェリーのトレーナーなど複数の店舗で見かけましたが、どこで流行っているのか謎です。

■「客引きに注意」の看板を持ってうなだれて立つ竹下通りの黒人男性

ジャニーズ系のアイドルショップ(なぜか元ジャニーズの手越祐也のポスターが目立つところに掲示)の前を通ると「大橋いるよ。ヤバ」と推しアイドルを見つけて入店する10代女子など見かけましたが、店内は6〜7人のお客さんでわりと空いていました。

竹下通りは年齢層が低めで、小学生くらいの女子が親と一緒に歩いている姿をよく見かけます。空いているし、刺激も少なめだし、安心して繁華街デビューできるスポットなのかもしれません。客引きの黒人男性たちも手持ち無沙汰そうでした。別の黒人男性が「客引きに注意」という看板を持ってうなだれて立っていたのが印象的でした。街の景気の影響で転職したのでしょうか。

靴下のお店で買物しながら店員さんに「竹下通り、空いてますね」と声をかけると「コロナになって外出自粛明けからお客さんが戻ってきてなくて……」と、ちょっと寂しそうでした。脇に入った道のタピオカ店に行くと、空いていてお店の人のテンションが低く、声が小さくて聞き取れなかったです。原宿の人々に元気を出してほしいです。

新大久保と比較すると、食、ファッション、イケメンの3要素が、街を盛り上げるために重要なのでしょうか。でも、今のわびさびを感じさせる竹下通りも新鮮です。何よりも歩きやすく、カフェなどお店も空いていて穴場感が。これを機に健康グッズの店を増やして中高年層が集まりやすい街にイメチェンしても良いかもしれません。

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辛酸 なめ子(しんさん・なめこ)
漫画家/コラムニスト
武蔵野美術大学短期大学部デザイン学科卒。雑誌連載、執筆活動の合間を縫ってテレビ出演も。
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(漫画家/コラムニスト 辛酸 なめ子)