芋焼酎「黒霧島」「赤霧島」でおなじみの霧島酒造は宮崎県内で売り上げトップ(撮影:尾形文繁)

地域経済にとって、大企業はいうまでもなく大事な存在だ。その地域で多くの雇用を創出し、しばしば城下町を形成し、地場の中小企業を潤し、税金を収め、地域経済を動かすドライバーとなる。

しかし、全国の県庁所在地や名産品をそらんじられる人はいても、47都道府県の売上ナンバーワン企業を知っている人は少ない。そもそも、あまり伝えられていないように思われる。

そこで、『会社四季報 業界地図2021年版』(東洋経済新報社)編集部は、「全国47都道府県のトップ企業」を調査し、巻頭特集にランキングとして掲載した。

地域トップ企業で産業構造がくっきり


北は北海道から南は沖縄まで、有名企業はもちろん、全国的な知名度こそ低いが地元では誰もが知る各地の売上高トップ3と名門企業を総まくりしている。

ランキングは東京商工リサーチのデータや『会社四季報』、編集部の取材を基に作成した。順位は2018年度の単体売上高ベースで、一部2019年度の企業もある。ただし、自治体や農林水産業の組合、学校法人、病院はランキングから除いたほか、同一都道府県の同一グループ子会社も省いている。

今回は、その巻頭特集の中から、各都道府県で売上高ナンバーワンの企業を抜粋したランキングを3ページ目に掲載している。トップ企業の顔ぶれからは、各地域の産業構造も見えてくる。

まず目につくのは、ご当地の名産品や地元で歴史を持った事業を扱う企業が上位に名を連ねる地域だ。

地域の特徴が最も色濃く出ているのが宮崎である。九州と言えばお酒、特に焼酎が有名だが、宮崎の売上高1位は芋焼酎「黒霧島」「白霧島」「赤霧島」の霧島酒造だ。競争の激しい酒類業界の中でも同社は存在感を高めており、直近2019年度の売上高は625億円にのぼる。

ちなみに2位が「宮崎牛」を扱うミヤチク(売上高563億円)。宮崎は全国2位の黒毛和牛生産県でもある。3位はブロイラー(食用の若鶏)生産販売で国内首位の児湯食鳥(こゆしょくちょう、同555億円)だった。同県のブロイラー飼養羽数は、鹿児島と並んで日本トップクラスである。

長崎は、1857年に三菱重工業「長崎造船所」の前身の建設が始まって以来、造船業で栄えてきた。県内トップは造船業界で国内6位の大島造船所(1107億円)。造船の経営環境は中国・韓国勢との競争で厳しく、三菱重工業は、長崎造船所の「香焼(こうやぎ)工場」を大島造船所に売却しようと検討しているが、今後成長できるか、要注目だ。

住友電装、三谷商事…、高シェア企業も

北陸の富山は300年以上前に置き薬(配置薬)が生まれた場所として知られている。売上高の県内1位は北陸電力(5756億円)だが、3位はジェネリック医薬品(後発医薬品)で国内トップの日医工(1839億円)だ。エーザイの後発薬事業を買収し、武田薬品工業グループの同事業買収でも合意するなど、規模拡大が続く。

愛知はトヨタ自動車(12兆6344億円)、静岡はスズキ(1兆9402億円)、広島ではマツダ(2兆5843億円)、山梨ではファナック(4706億円)、長野はセイコーエプソン(7904億円)。いわずとしれた「地域の顔役」企業が、これらの県のトップに並んでいる。

隠れた高シェア企業もある。三重トップの住友電装(5589億円)は自動車部品のワイヤーハーネスの世界大手で、住友電気工業の子会社だ。福井で首位の三谷商事(3534億円)は生コンクリートの販売量で国内1位の企業だ。

ただ、産業の個性が際立つ都道府県ばかりではない。業界別にみると、47都道府県のNo.1企業が属するもっとも多い業種は小売り業だ。全体の3割に当たる13県が該当している。

そのうち7県はスーパーである。千葉県のイオンリテール(2兆1854億円)、福島のヨークベニマル(4453億円)、滋賀の平和堂(3748億円)、岐阜のバロー(2919億円)、和歌山県のオークワ(2614億円)、秋田県のイオン東北(1033億円)、山形県のヤマザワ(869億円)が並ぶ。

小売りが全体の3割、電力会社も目立つ

スーパー以外では、茨城のケーズホールディングス(5757億円)と群馬のヤマダ電機(1兆3965億円)といった家電量販店。新潟はホームセンター大手のコメリ(3353億円)、石川はドラッグストア中堅のクスリのアオキ(2509億円)が1位だ。

小売りの次に多かったのは都道県の電力会社・石油会社などエネルギー業界だ。東京のENEOS(10兆0170億円)は石油元売りの国内1位。北海道電力(7213億円)、東北電力(2兆0256億円)、四国電力(6541億円)、九州電力(1兆8672億円)の電力大手は、各地域の売り上げトップになっている。沖縄でもサンエー(1907億円)やイオン琉球(893億円)といった中堅スーパーを抑えて沖縄電力(1945億円)が1位となった。

各地で個性的な企業が栄えるのは、地方活性化という意味でも望ましいものであるに違いない。47都道府県のトップ企業からは、これまでと違った点で、地域の特徴や課題が見えてくる。


【2020年10月13日 17時30分追記】初出時、図表の埼玉県の全国生活協同組合連合が「スーパー」となっておりましたが、「共済」に修正し、本文も上記のように修正いたしました。