レクサス日本導入15周年でもメルセデス・ベンツを抜けない理由

 トヨタの上級ブランドとされるレクサスと輸入車の代表格であるメルセデス・ベンツですが、両ブランドにおける販売台数の差が広がっています。

 レクサスは、2020年1月から8月に1か月平均で約3825台を登録している一方、メルセデス・ベンツは同時期の1か月平均登録台数が4197台です(乗用車のみで商用車などを除く)。

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 レクサスの開業は2005年なので、2020年で15周年を迎えますが、依然として販売面ではメルセデス・ベンツを抜けません。

レクサスとメルセデス・ベンツに販売の差が生じた

 両ブランドに属する各車の売れ行きを見ると、レクサスとメルセデス・ベンツには明確な違いがあります。それはセダンの登録台数です。

 メルセデス・ベンツでは、セダンやワゴンも堅調に売れています。日本自動車輸入組合のデータによると、2019年(暦年)には、メルセデス・ベンツ「Cクラス」が1年間に1万7210台登録されました。Cクラスのライバル車となるレクサス「IS」は2050台なので、大幅な差があります。

 Cクラスには、セダン、ワゴン、クーペ、カブリオレがあり、ISに比べるとボディバリエーションが豊富なので、販売面でも有利です。それにしても、1万7210台と2050台では8倍以上の開きが生じているのです。

 また、メルセデス・ベンツ「Eクラス」は2019年に7285台を登録しましたが、2020年に生産を終えたレクサス「GS」は約1000台です。Eクラスにも複数のボディがありますが、登録台数にはそれ以上の格差が生じました。

 2017年に発売された設計が比較的新しい「LS」も、2019年の登録台数は3200台弱です。このようにレクサスのIS/GS/LSという後輪駆動のセダンは、1か月の平均登録台数が100台から300台に留まっています。

 もっとも多く売れているレクサスのセダンは、2018年に導入された前輪駆動の「ES」で、2019年には1万1000台少々を登録しました。それでもCクラスの1万7210台には達しません。

 なぜレクサスのセダンは売れないのでしょうか。レクサスの販売店スタッフは次のようにいいます。

「ISは以前までは堅調に売れましたが、発売が2013年なのでいまでは古さもあり、売れ行きが下がりました。また、GSはすでに販売終了しました。

 LSは現行型になってボディが大幅に拡大され、自宅の車庫に入らないお客さまもいます。そこでLSからESに乗り替える場合もありますが、安いクルマに格下げすることになってしまいます。

 そうなると、適度なボディサイズで上級グレードも豊富なメルセデス・ベンツに乗り替えるお客さまもおられます」

 ISは2013年の発売から7年以上を経過していますが、2020年に実施するのはフルモデルチェンジではなくマイナーチェンジです。そうなると今後も、3年から4年は現行モデルを売り続けるでしょう。

 対するライバル車のCクラスは、2014年に現行型を日本で発売しました。2021年には新型が登場する見込みです。そうなるとISはますます古さが目立ちます。

 以前に比べるとプラットフォームの解析能力などが高まり、マイナーチェンジでもボディの補強や足まわりの設定変更を効果的に施すと走行性能や乗り心地を相応に向上できます。

 それでもフルモデルチェンジとは、進化の度合いが異なり、マイナーチェンジで抜本的に新しくするのは難しいです。

 またレクサスのようなプレミアムブランドでは、フルモデルチェンジの実施に基づく先進的なイメージも大切です。マイナーチェンジでは、仮に同様の進化を遂げたとしても印象が異なります。

SUVとセダンで異なる顧客層とは?

 レクサスとメルセデス・ベンツでは、コンパクトで価格の割安な車種にも違いがあります。レクサスは5ドアハッチバックの「CT」を用意しますが、登場したのは2011年と古いです。

レクサス新型「IS」(2020年秋マイナーチェンジ)

 メルセデス・ベンツでライバルとなる「Aクラス」は、2018年に現行型を日本で発売。2019年の登録台数は、Aクラスが1万1197台で、CTは約900台にとどまります。

 レクサスやメルセデス・ベンツがコンパクトな車種に力を入れ過ぎると、ブランドの安売りになって悪影響が生じることも考えられますが、ユーザー層を広げるうえで5ドアハッチバックは大切な役割を担っています。

 一方レクサスでは、セダンやハッチバックが低迷する代わりにSUVは好調です。コンパクトな「UX」は、2019年に約1万5000台を登録しました。1か月平均で1200台を超えます。

 ミドルサイズSUVの「NX」は、登場が2014年と古いですが、2019年には1万3000台以上を登録しました。これも1か月に1000台以上です。「RX」も2019年には1万台弱を登録したので、昨今のレクサスはSUVが中心の売れ方です。

 SUVとセダンのユーザー層の違いについてもレクサスの販売店に尋ねました。

「今はSUVの人気が高く、レクサスでも、NX、UX、RXが好調に売れています。そしてSUVは比較的新規のお客さまが多く、セダンは長年にわたってレクサスを愛用されるお客さまが目立ちます」

 SUVは人気のカテゴリなので、新規顧客も多く、短期間で売れ行きを伸ばしやすいです。その代わり次のクルマに乗り替える時に、ブランドを変えることも少なくありません。

 魅力を感じる対象が、レクサスやメルセデス・ベンツというブランドよりも、NXや「GLC」といった車種になることが多いためです。

 それに比べると、セダンの顧客はブランドに愛着を持つことが多く、他社に乗り替えにくいです。このようなSUVとセダンの顧客動向の違いは、メルセデス・ベンツやBMWの販売店からも聞かれます。

 好調な売れ行きを保つには、ユーザー層を広げる割安な5ドアハッチバック、大量に販売しやすい人気カテゴリのSUV、ブランドに愛着を持つ顧客が長年にわたり乗り続けるセダンやワゴンが必要です。

 これらを偏りなく定期的にフルモデルチェンジしないと、新規顧客を取り込み、なおかつ乗り替え需要を守ることは難しいです。

 メルセデス・ベンツとレクサスの間には、ヤナセの取り扱いを含む歴史の違いもありますが、商品ラインナップのバランスとフルモデルチェンジの仕方が異なります。

 メルセデス・ベンツは、5ドアハッチバックのAクラス、「Bクラス」、セダンとワゴンのCクラス、Eクラス、上級セダンの「Sクラス」に加え、SUVまで豊富なラインナップをそろえ、「CLA」や「CLS」のような個性派も選べます。しかも設計の古い車種は少なく、積極的に新型車を投入しています。

 レクサスも新しい車種をそろえる必要があるでしょう。

 そしてレクサスはトヨタのブランドですから、国内市場の動向を熟知していることから、店舗の展開、顧客サービスなどで、メルセデス・ベンツとは違う強みを発揮することも可能でしょう。

 今後の「日本のレクサス」に期待したいです。