■若者の危機管理意識は、本当に低かったのか

この夏、シャボン玉遊びが若者たちの間でちょっとしたブームになった。シャボン玉遊びというと童心をくすぐられるが、遊び方は現代風だ。夜に公園に集まりシャボン玉を飛ばすと、レトロ加工アプリの「Dazz-フィルムカメラ」で撮影。フィルターの効果でシャボン玉が光って見えて、エモい画像ができあがる。それをSNSで友達とシェアして楽しむのだ。

遊び方はスマホ世代らしいものに進化しているが、それにしてもなぜいま若者がシャボン玉を飛ばすのか。

サイバーエージェント次世代生活研究所研究員の松野みどり氏は、ウィズコロナ時代の若者の遊びの傾向について、次のように解説する。

「いま若年層に流行(はや)っているのは、“0密遊び”です。緊急事態宣言の解除後は一応外出できるようになったものの、以前のように、カラオケや飲み会など密閉、密集、密接の3密で遊ぶのは難しい。そこで屋外で距離を取って楽しめる遊びに注目するようになりました。公園で集まってシャボン玉を飛ばすのも、0密遊びの1つです」

コロナの第2波でふたたび感染者が増えたとき、若者は戦犯扱いされた。若者がコロナで重篤化するケースは少ないが、それをいいことに外出して感染を広げ、高齢者など重篤化しやすい人たちの命を危険にさらしたというわけだ。しかし、若者の危機管理意識が低ければ、ソーシャルディスタンスに気を遣う0密遊びは生まれてこない。

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カメラアプリ「Dazz-フィルムカメラ」を使って撮影したシャボン玉の写真 - 写真=筆者提供

■「3密を気にする」は20代で36.6%

実際のところ、若者の意識はどうだったのか。サイバーエージェント次世代生活研究所が、コロナ前から意識が変わったことについてアンケート調査したところ、「外出を控える」の回答率は全体で44.3%だった。年代別に見ると、20代は39.7%、15〜19歳は45.2%で、20代は他の年代と比べて外出を控える意識が低かった。

同様に、「人混みを避ける・人が多いところには行かない」は全体で44.3%、20代で33.9%、15〜19歳で35.0%だった。「3密を気にする」は全体で49.0%、20代で36.6%、15〜19歳で40.5%。ストレートに比べると、若者は意識が低く、とくに20代にその傾向が顕著だ。しかし、松野氏の見方は厳しくない。

「男女別で見ると、若年男性の意識が低くて全体の数値を押し下げているものの、女性は意識的だとわかります。また、若年男性も意識の高さは人によって違います。ひとまとめにして戦犯扱いするのは乱暴。若年層にも人様の迷惑にならないように遊ぼうと考える人がいて、新しい遊びを生み出していると言えます」

■GPSの「宝探し」は運動不足解消にもなる

流行している0密遊びは、シャボン玉だけではない。コロナ以降よく見かけた遊びを他にも紹介してもらう。

「女の子のあいだでは“手形アート”が流行りました。手や足に絵具を塗って紙やトートバックに手形・足形をつけて、自分たちだけの思い出の品を作るのです。もともと室内だとスペースが狭くてやりにくいのですが、3密回避を意識して公園や海辺など屋外の開けた場所で作る子たちが多かったですね。本人たちが意識していたかどうかはわかりませんが、最後に手についた絵具を水で洗って落とすため、そこもコロナ対策にもつながっていました」

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開けた場所で手形・足形をつける「手形アート」 - 写真=筆者提供

コロナで人気が再燃した遊びもある。「ジオキャッシング」だ。

「世界規模の宝探しゲームで、無料アプリを起動して、誰かが隠したお宝を、GPS信号を頼りに見つけ出します。お宝はお金など高価なものではなく、仕掛けた人の私物が入っています。見つけた人は宝をもらうかわりに自分の私物を入れます。また、お宝には紙が入っていて、見つけた人が名前を書けるようになっています。そこに名前を書いてSNSにアップして、プレーヤー同士で楽しみます」
「2000年代からあったゲームですが、コロナ後にまた人気が高まっています。一人で探すプレーヤーもいますが、友達と一緒に宝探しの旅に出かけるのもおもしろい。歩き回らなくてはいけないので、自粛中の運動不足解消にもなって一石二鳥です」

■コロナで収入が減少した学生たち

シャボン玉、手形アート、私物を入れるジオキャッシング――。これらの遊びには、0密以外にも共通点がある。お金がほとんどかからないのだ。

「シャボン玉は100均で売っているし、手形アートに使う絵の具は学校の授業で使うからみんなもともと持っています。また、Dazz-フィルムカメラやジオキャッシングのアプリは無料で使えます。カラオケや飲み会と違って、本当にお金がかかりません」

若者が賢く遊ぶようになったと言えるが、背景にはコロナ禍がある。コロナ前後の収入の変化について調査したところ、『減少した』と回答した人が最も多かったのは15〜29歳で、41.7%に達した(図表2)。年収別では、『減少した』の回答が最多だったのは年収200〜400万円未満で、43.4%だった(図表3)。

「コロナ禍で派遣切りがあったりバイトのシフトに入れなくなり、学生を含めて社会的に弱い層が打撃を受けています。仕事がなくて時間はあるけど、経済的には余裕がない。それがお金のかからない0密遊びにつながったと考えられます」

■クルマ離れした若者が「車サプライズ」

お金のかからない0密遊びは他にもある。車のトランク部分にケーキや花、プレゼントなどを置いて友達の誕生日を祝う「車サプライズ」だ。

写真=筆者提供

「海外ドラマでよく見かけるように、若者の間ではサプライズパーティーの文化が根付いています。しかし、コロナ禍で部屋やお店に集まることが難しくなった。そこで車のトランクをバルーンやライトで飾り付け、友達を迎えに行ってお祝いするサプライズが、新たな定番のお祝い方法として定着し始めています」

若者のクルマ離れが長らく指摘されていることを考えると、車を使ったサプライズは意外に思える。コロナで若者の収入が減っているのだから、余計に車は縁遠くなるはずだ。

「若者のクルマ離れの傾向は、いまも全体としては続いています。ただ、コロナで公共交通機関の利用が躊躇われる状況になり、移動手段としての車が再注目されています。若者はなかなか自分で車を購入できないので、サプライズに使うのは、親の車や親の支援で買った車でしょう。コロナで家にいる時間が長くなり、家族の絆が深まったという調査結果もあります。親から車を借りやすくなったことも、車サプライズが流行った遠因かもれません」

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松野 みどり(まつの・みどり)
サイバーエージェント次世代研究所 研究員
1991年、大阪生まれ。総合電機メーカーのデザイン部でプロダクト・UIデザイナーを経験し、2016年サイバーエージェントに入社。同年6月よりインターネット広告事業本部にてクリエイティブプランナーを務め、女性商材やEコマース商材を中心に業界最大手企業様の獲得施策の課題解決施策を提案、実行。2019年5月より現職。
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(サイバーエージェント次世代研究所 研究員 松野 みどり 聞き手・構成=村上 敬)