初めての赤ちゃんだと特に、離乳食や食育に悩むことは多いもの。離乳食を始めるときは、いつからどんなものを食べさせたらいいか。進めていくと、全然食べてくれない、嫌いなものが多すぎる。もう少し大きくなっても、食事中のお行儀が悪い…など、食事にまつわる悩みは尽きないですよね。

【画像】予約がとれない伝説の家政婦が伝授!フレンチ流の食育

真面目にがんばりすぎるほどつらくなってしまうことも多いのが子どもの食育。そんなときにぜひ読んで欲しいのが、「予約がとれない伝説の家政婦」として注目されているタサン志麻さんの著書『ちょっとフレンチなおうち仕事』です。

老舗フレンチレストランなどに15年勤務し、2015年にフリーランスの家政婦として独立したタサン志麻さんは、料理を通してフランスのことを知り、料理だけでなくフランスの文化やフランス人の考え方などにも影響を受けたといいます。

現在、フランス人の夫と2人の息子と4人暮らしのタサンさんは、本書でフランス流の食育についても触れています。

そんなタサンさんに、誰もが悩む食育のコツや子ども用の離乳食におすすめのレシピなどをお伺いしました!

フランスでは離乳食から大人と同じものを取り分ける

――書籍の中で、フランス人は離乳食も大人のメニューを一部取り分けて食べさせることが多いと書いてありましたね。

タサン志麻さん(以下、志麻さん):子どもも、親と一緒のものを食べてるとうれしいと思うんです。自分だけ違うものを食べさせられているって、子どもはよく見てるので気づくんですよね。

フランスでは、じゃがいもや野菜をすりつぶしたピュレという付け合わせがあるので、それなら赤ちゃんにもあげることができます。

肉などのしっかりした味付けのメイン料理に合わせるので、ピュレ自体は味付けも控えめです。

一緒にテーブルにつくのは難しいときもあるけど、意識して同じタイミングで食べるように努力はしていますね。とにかく一緒のものを同じタイミングで食べて「おいしいね〜」と言いながら楽しく食事をすることを心がけています。

じゃがいものピュレのレシピ

■【材料(2人分)】

じゃがいも(メークイン)…2個バター(加塩)…10g(大さじ1弱)牛乳…100ml
※食塩不使用のバターを使用する場合は塩少々

■【作り方】

じゃがいもは皮をむいて4〜6等分に切る。鍋にたっぷりの水とともにいれ、火にかける。ふたはせず、箸などをさすとほろっと崩れる程度まで茹でる。ざるにあげてそのまましばらくおき、余熱で水分を飛ばす。ざるを鍋の上に乗せ、スプーンを使っていもをこす。バターを加えて混ぜ溶かし、牛乳を少しずつ加えて弱火で温めながら混ぜる。矢板肉や魚に添えて、付け合わせ兼ソースにする。

――楽しく食べるのがフランス流、と本書にもありましたね。

志麻さん:子どもって、楽しいって思わせてあげないと食に興味を持たないと思うんです。食べることは楽しい、っていう気持ちがあれば、子どもは勝手に食べます。

家ではおかずを残す子も、保育園では残さず食べて来たりするじゃないですか。友達と一緒に食べて楽しいって気持ちがあるからかな、と思うんです。だから、家でもなるべく食事は楽しい時間にしてあげたい。

離乳食もあまり分けずに親と子どもが同じものを食べるとか、「手伝いたい」って言われたら何かしら手伝ってもらうとか。

あとは食卓で会話をして楽しむこと。うちは食事の時間になると長男が自分でテレビを消して、調子のいい日は自分でお皿とお箸を出して自分で盛りつけたりします。次男は1歳ですけど、ご飯の時間だよって言うと走って寄ってきて自分でイスに座ろうとします。

すっごく栄養バランスが良くて三ッ星レストラン並みにおいしいものが食べられていても、食べる時間が楽しくなかったら健康によくないと思うんですよね(笑)。

料理自体はそんなにおいしくなかったとしても、楽しく食べられたら体の栄養にも、心の栄養にもなると思うので。

私は料理人なのでおいしいものも作りたいですけど、どちらかというと食べる時間のほうを楽しもうとしています。

子どもが食に興味を持つことで作ること、食卓を囲むことに意欲が

――確かに、あくせくと準備に追われて食事の時間を楽しめていない親は多いかもしれません。

志麻さん:私、フランス人のお母さんを見たときに衝撃を受けたんです。

私の母は料理が好きで、好きだから楽しそうに料理をしていたんですけど、食べるときに一番最後に席についてかきこむように食べて、さっさと洗い物をはじめるみたいな感じだったんですね。今思うと、お母さんて、楽しんで食事してたのかな?って。

フランスのお母さんは「食べること」がメインなんですよ。気楽に料理をして、食卓を一緒に囲んで会話をしながら楽しんで食べているという感じで。そこに衝撃を受けて、なんていい文化なんだろうと思ったんですよね。

料理が苦手な人は作るのも苦痛だろうけど、「食べることを楽しむ」っていう目的のためにみんな料理を作っている、という感じがいいなあと。

――すごく素敵ですね。そういうふうに食事の時間を楽しむ文化だと、子どもも自然と食に興味を持ちそうです。

志麻さん:うちは、私がこういう仕事をしていることもあって、子どもふたりとも食に興味がもともとあるのですが、ふだんから作る姿を見せていたり、長男も2歳のときから包丁を持たせて切らせたりとか、興味のあることはやらせてあげたりしていますね。

余裕があるときは、そうやって手伝ってもらうこともあります。

――2歳から包丁! すごいですね。

志麻さん:私も愛用している包丁がペティナイフなんですが、小さいので子どもでも持ちやすいんですよ。子ども用の包丁って、意外と大きくて怖くないですか?

ペティナイフくらいだったら、おままごとの包丁と同じサイズで刃渡りも短いので、持ちやすいし怪我もしにくいです。

ペティナイフを持たせて、一緒に手を添えて切ってあげるとわりとなんでも切れます。1から全部作って食べたら「おいしいね〜」につながるし、おいしくできるとうれしいし、また次につながっていく感じがします。

今ではハヤシライスを全部一から作ったりしています(笑)。

小さいころから自然に、楽しく料理をすることを教わっていれば、作ることを苦に思わないし、好きでいられる。誰からも矯正されていない状態で、遊びの一環で親が一緒にしてあげることで、変わると思います。

大皿から取り分けるスタイルで子どもも責任感が芽生える

――食卓では、鍋やフライパンごと、もしくは大皿でどんと出して取り分けるスタイルだそうですね。

志麻さん:日本は一汁三菜が基本ですよね。フランスは、鍋で煮込んだものをそのまま出して取り分けるっていうスタイルなんです。

我が家は日本とフランスの文化半分半分ですが、料理は和洋中問わず鍋のまま出します。盛りつけなくていいからすごく楽だし、子どもが親と同じものを取り分けるアクションが入るので、そこにみんな意識がいくし、会話も生まれます。

取り分けるのが楽しいし、どのくらい食べられるかも自分から言うようになるので、子どもにとってもいいように思います。

子どもも食べたくないときや食欲がないときが親と同じようにありますよね。自分で食べる量を決めて取り分けるので、それを残したら怒りますよ。でも、それで怒られても子どもも納得がいきますよね。親が量を決めて取り分けたものを残して怒られるのは、腑に落ちない(笑)。

洗い物が減るというのもうれしいですね。

――鍋ごとメイン料理をドンと出すということは、それだけで肉も野菜も入っている感じですか?

志麻さん:野菜がいっぱい入った煮込み料理ならそれ一品でも完結できるし、焼いた肉とかだったら茹でた野菜を付け合わせで出したり、スープやサラダを添えたり。

栄養バランスを考えることももちろん大切ですが、その季節のものを食べようとか、今日は牛肉を食べたから明日は魚にしようとか、そのくらいゆるいバランスで考えていていいと思うんです。

おいしい料理を作る努力より、いかに楽しい食卓にするかの努力を

――忙しい現代の親も、余裕をもって子どもと食事を楽しめるようになるといいですよね。

志麻さん:疲れて帰ってきて無理に作って、イライラしながら食べさせるのは悪循環。子どもに「早く食べなさい!」ってなるのはもったいないですよね。食べることは、どんな世代の人も等しく楽しめる時間だと思うので。楽しまないと損です。

私も仕事が忙しくて余裕がないときもあるので、そういうときはお惣菜を買ってきたりすることももちろんありますよ。

子どもを産むまでわからなかったけど、子どもってすごく手がかかるじゃないですか(笑)。結婚しても、2人だけのときなら作って出して食べて…と、時間通りにできていたけど、子どもがいると全然予定通りにはいかない。

それでも無理をせず、楽しく食べられるように毎日努力はしています。努力といっても、おいしいものを作ろう!ということではなく、楽しく食べよう!というほうの努力ですね(笑)。

私はレシピの本も出していますが、なるべく無理なく作れるようにイメージして本を作っています。すべてのお母さん、お父さんに、無理せず、楽しく食事してほしいなって思っています。

タサンさんのお話を伺っていると、食事という毎日必ずある家庭の営みを、もっと楽しまないと損だな、と思えてきます。

肩の力を抜いて、まずは親が食事の時間を楽しむことで、子どもにもリラックスした空気が伝わり、食卓を囲む楽しさを感じてもらえるのかもしれません。

今回ご紹介したタサンさんのフレンチ流の食育のコツを活かして、ぜひ子どもとの食事を楽しんでみてくださいね。

【取材協力】タサン志麻さん

大阪あべの・辻調理師専門学校、同グループ・フランス校を卒業後、ミシュランの三ッ星レストランでの研修を経て帰国。老舗フレンチレストランなどに15年勤務して2015年にフリーランスの家政婦として独立。
各家庭の家族構成や好みに応じた料理が評判を呼び、「予約がとれない伝説の家政婦」としてメディアから注目される。料理イベントやセミナーの講師、食品メーカーのレシピ開発など、多方面で活躍中。