戦闘能力を持った無人機が急速に広まるなか、その世界市場のシェアは中国、次いでトルコが大きく占めていると見られます。いち早く実用化していたはずのアメリカやイスラエルでないのには、「お国柄」ともいうべき理由がありました。

戦争はもはやUCAV(戦闘型無人機)が飛び交う時代に

 2020年9月27日(日)、黒海とカスピ海に挟まれたカフカス(コーカサス)地域の、旧ソ連構成国であったアルメニアとアゼルバイジャンが、大規模な戦闘状態に入りました。アゼルバイジャンはトルコから供与された攻撃能力を持つUAV(無人機)、通称「UCAV(戦闘型無人機)」であるバイラクタールTB2による、極めて正確な攻撃でアルメニア軍地対空ミサイル車両を撃破する映像を公開しました。


トルコ製のバイラクタールTB2 UCAV。アゼルバイジャン軍によって実戦投入されアルメニア軍を撃破する様子が報道された(画像:トルコ防衛産業省)。

 近年UCAVは、信じられないほどすさまじい勢いで普及しつつあります。わずか10年ほど前は、あまり実用的といえない例外的なものを除けば、アメリカ軍のMQ-1「プレデター」とその性能向上型MQ-9「リーパー」、やや小型で原型はイスラエル製のMQ-5「ハンター」しか無いといえる状態でしたが、いまやアルメニアとアゼルバイジャンのように、アメリカ軍以外の無人機による攻撃が行われたという報道を目にすることはそれほど珍しくなくなっています。

 これら世界中に拡散しつつあるUCAVは、どこの国が製造しているのでしょうか。ほとんどミサイルに近い自爆型無人機(カミカゼドローン)は、手作りのものを含めもはや把握することも困難ですが、「プレデター」のような兵装搭載能力を持ったUCAVはアメリカを筆頭にイスラエル、中国、トルコ、パキスタン、イラン、サウジアラビア、アラブ首長国連邦といった国々の機種が、実用化ないし輸出に成功しており、さらにやや遅れロシアなどそのほかの国がこれに追随していると見られます。

世界市場のシェア首位は中国 次いでトルコ…なぜ?

 UCAVのパイオニアは、やはりアメリカとイスラエルです。しかし両国のUCAVは、先進国においての採用例は豊富ですが実のところあまり普及しておらず、輸出市場シェアの1位は中国、それに次いでトルコであると推定されます。なぜ中国やトルコのUCAVが市場を制しているのでしょうか。

 まずアメリカとイスラエルですが、両国の国民、特にアメリカについては非常に人権意識が高く無差別なUCAV機の販売には慎重であるという点で、UCAVセールスにとっては足かせとなっています。いますぐにでもUCAVを導入したい国々とはつまり、内戦や戦争状態であるため、これらの国々に対しては安易に武器を売らない(売れない)のです。

 逆に安定した社会で人権意識の高い、アメリカと同じ価値観を共有する国に対しては積極的に販売するものの、日本をはじめとした先進諸国はこの種のUCAV導入の必要性を認めつつも、それこそ明日にでも必要とする国々のようには急いでいない状況にあります。


最も売れているUCAVのひとつ、中国の彩虹4型(CH-4)無人機。性能面ではほぼMQ-1「プレデター」に匹敵し、見た目も非常にそっくり(関 賢太郎撮影)。

 一方で内戦中の国であっても、お金さえ支払えばUCAVを購入できる相手が中国などです。そのため中東やアフリカの内戦国は、中国の翼竜I型、翼竜II型、彩虹3型、彩虹4型、彩虹シリーズやその亜種、そしてトルコ製のアンカS、バイラクタールTB2などアメリカやイスラエル以外のUCAVを購入し、そしてそれらは積極的に実戦投入され、その姿もよく目撃されています。

「UCAV=殺人ロボット」に対する議論は…?

 こうした事態に面白くないのがアメリカ、もっと具体的にはセールスマンとしての実績を誇示したいトランプ大統領です。このままUCAVの輸出を制限したままであれば、今後もますます中国を筆頭とする他国のUCAVが世界市場を席捲することは間違いなく、かといって人権の擁護者を自負するアメリカにとってUCAVをばら撒くことは、人道面での問題を少なくとも建前の上において解決し正当化されていなくては、できるものではありません。


UCAVの始祖鳥ともいえるアメリカ製MQ-1「プレデター」。世界初の地上攻撃を成功させ、敗北はしたものの戦闘機との空中戦も戦った(関 賢太郎撮影)。

 2020年現在のところ、UCAVのほぼすべての機種は「プレデター」の亜種といってよい、100馬力から数百馬力のエンジンを搭載した機体のみが実用化されています。また攻撃には必ず人間の指令が入り、AIによって自律的に攻撃目標を探知し攻撃まで行うような機種は確認されていません。よってUCAVといえども実際の攻撃の実態は有人攻撃機と何も変わりませんが、とはいえそれでも「殺人ロボット」に対する議論は尽きません。

 アメリカはすでにUCAVの販売を緩和する方向へと舵を切っていますが、ほとんど無条件に販売できる中国にどこまで対抗できるのか。注目が集まります。