KDDIは10月からUQモバイルをサブブランド化する(記者撮影)

KDDIが放つ勝負手は吉と出るか――。

携帯電話業界2位の同社は10月1日、傘下のUQコミュニケーションズが手がけるMVNO(仮想移動体通信事業者)のUQモバイルを吸収統合する。これでKDDIは、主力のauとUQモバイルの2事業を1社で運営することになる。

この形態は業界3位でライバルのソフトバンクと同じだ。同社はメインブランドのソフトバンクに加えて、格安スマホに位置づけられるワイモバイルをサブブランドとして持つ。このほかにも、子会社が手がけるMVNOのLINEモバイルも展開する。

KDDIがUQモバイルをサブブランド化する背景には、ソフトバンクの成功があるようだ。「ソフトバンクは非常にうまくやっている。うちはUQモバイルを運営するUQコミュニケーションズとは別会社なので、相互送客にどうしても限界があった」。auブランドの契約者数が伸び悩む中で、あるKDDI幹部は1年以上前からこうした思いを何度も口にしていた。

「デュアルショップ」での囲い込み

UQ統合後のKDDIの目指す方向性や今後の展開を予想するうえで、サブブランド戦略で先を行くソフトバンクの状況はヒントになりそうだ。同社がメインにするソフトバンクとサブのワイモバイルの連携を支えているのが、両ブランドを同時に扱う「デュアルショップ」だ。

かつてソフトバンクは、取り扱うブランド別にソフトバンクショップ、ワイモバイルショップと店舗を展開してきたが、2018年前半頃からデュアルショップの導入と拡大を本格的に進めた。当初は業界関係者内では、「カニバリズム(お互いの顧客の食い合い)にならないのか」という指摘もあったが、現時点ではそれは杞憂となっている。

ソフトバンクは月間のデータ上限が50ギガバイトの大容量プランは割安な料金設計にする一方、従量課金制の小容量プランは2ギガバイト以上使うと大容量プランと料金が同額になるようにしており、大半のユーザーを大容量プランに誘導している。

その一方で、サブブランドのワイモバイルでは中小容量で3種類のプランを用意し、いずれもソフトバンクでそのデータ量を使うより割安にしている。「大容量はソフトバンク、中小容量はワイモバイルへ」とすみ分けているわけだ。

こうしたメリハリも効き、デュアルショップでは“囲い込み”が機能している。ワイモバイルの利用者が容量に物足りなさを感じていれば、その場ですかさずソフトバンクの大容量プランに誘導することができる。逆に、ソフトバンクの大容量プランの加入者が、容量と通信料金を減らす方向で解約を検討している場合は、ワイモバイルに誘導すれば他社に逃さずに済む。

さらにソフトバンクはショップを運営する代理店への評価制度を、ソフトバンクの大容量プランを多く獲得するほどインセンティブ(同社が代理店に払う報奨金)が多くなるように設計している。このようにして現場がワイモバイルの利用者をソフトバンクに乗り換えさせたい動機をつくっていることもアップグレードの推進に大いに寄与しているようだ。現在、ソフトバンクを扱う2300店のうち、8割弱の1800店がデュアルショップになっている。

KDDIが抱えていた制約

他方、KDDIの状況を見るとauショップとUQモバイルのデュアルショップは「今のところはほとんどない」(KDDI広報)という。

UQコミュニケーションズに対するKDDIの出資比率は32%だが、IFRS(国際会計基準)の適用で実質的に支配していると判定し、UQコミュニケーションズはKDDIの連結子会社となっている。ただ、子会社とはいえ別会社であるUQコミュニケーションズが運営するMVNOであるため、「MVNOの中でUQモバイルだけを特別扱いすることは難しい」(KDDI関係者)という事情があった。

MVNOは、自前の通信設備を持たない事業者が、いわゆるキャリアとよばれるドコモ、KDDI、ソフトバンクから有償で回線を借り受け、携帯電話事業を営んでいる。公共の電波を使って事業を営むキャリアは政府から、MVNOを営む各社に対して、公平な扱いをする義務を課されている。

例えばキャリアがMVNOに請求する、回線のレンタル料にあたる「接続料」も、キャリアが勝手に決めることはできない。総務省の基準に従い、MVNOを営む各社すべてに対し同水準にしなければならない。デュアルショップも、KDDIがこれまで本格的に展開していないのは「やらなかった」のではなく、公平性の問題から「やれなかった」のだ。

だがKDDIがUQモバイルも運営するようになる10月からは状況が変わる。統合後はUQモバイルはMVNOではなくなるため、auとUQモバイルの連携の足かせになっていた、「UQモバイルも他のMVNOも公平に扱う」制約がすべて消えるからだ。

通信業界に詳しいMM総研の横田英明常務は、「KDDIは、これからはソフトバンクとワイモバイルのようにauとUQモバイルのデュアルショップを本格的にやってくるのではないか」と話す。

ソフトバンクの発表によると2020年6月末の携帯電話の契約数は、ワイモバイルだけでなくソフトバンクも前年比でプラスだ(具体的な数字は非公表)。この増加傾向は最近、継続している。一方でKDDIの2020年6月末のauの携帯電話の契約者数は同2%弱減っており、減少傾向が続いている。

「パークの中(同じキャリアが運営するサービス)に利用者を留めることが非常に大事だ。ソフトバンクはデュアルショップを使ってメインブランドのソフトバンクにサブブランドのワイモバイルからのアップグレードをうまく取り込めていることもあり、ソフトバンクの契約数も伸ばせているのだろう」(横田氏)

近年、通信業界の主戦場はポイントや決済などに移ってきており、3月から商用化された5Gも背景に、動画などどんなコンテンツを提供するかも差別化ポイントになってきている。メインブランドとサブブランドで、そうしたサービスやポイントをある程度共通化させたうえで、デュアルショップを使って利用者の状況に応じメインブランドとサブブランドで相互送客を行う。ソフトバンクと同じ手法をKDDIが取る可能性は高そうだ。

2019年10月の改正電気通信事業法で通信契約を条件とする携帯電話端末の大幅値引きが禁じられたため、業界内では流動性が大きく下がり、MNP(他社への乗り換え)が減っている。外からの新たな獲得が難しくなっている中で「リテンション(囲い込み)を強め、他社に流出させない戦略の重要性はより高まっている」(横田氏)。

サブブランドを持たないドコモ

一方、業界1位のNTTドコモが運営するブランドはドコモのみで、吉澤和弘社長は「今後もサブブランドを持つ考えはない」と明言する。

ドコモの親会社のNTTの筆頭株主は政府(名義上は財務大臣)で、ドコモは民間企業とはいえ政府に近い位置にいる。その政府は通信料金の水準を下げるためにMVNO各社の奮闘を期待している。ドコモがサブブランドを持てば政府が推す「MVNO潰し」になるため立場上やりづらい、という面が背景の1つにありそうだ。

またキャリア3社のうち、ドコモは圧倒的に多くMVNOに回線の提供をしており、その接続料は同社の重要な収益源になっている。サブブランドを持たずにMVNOと共存するポジションにも一定の旨味がある。

KDDIのUQモバイル統合で苦しくなりそうなのはMVNO各社だ。格安スマホのカテゴリーで強力な競合相手であるUQモバイルは今後、KDDIの豊富な資金力をバックにキャンペーンや宣伝を強化してくる可能性が高い。また、MVNO各社がより劣勢になれば、ドコモはMVNOを営む各社からの接続料収入が低下する恐れがある。

KDDIが統合後にどのような手を打ち、それが業界にどのような波紋を引き起こすのか。多くの業界関係者がその先行きを、固唾をのんで見守っている。