日本は超高齢社会を迎え、労働人口は目に見えて減少しており、年金財源の枯渇を防ぐべく、定年引き上げを実施する企業も増えています。そんな今だからこそ「貴重な人材をどのように扱うべきか」という課題を再考しなければ、企業は運営不能になってしまう可能性があります。本連載では、株式会社プレジデントワン代表取締役である松久久也氏の著書『確実に利益を上げる会社は人を資産とみなす』(幻冬舎MC)より一部を抜粋し、資産としての「人材」とどう向き合うべきか解説します。

企業経営は決算書にはじまり、決算書に終わる

決算期が近づきますと、経営者と税理士との話し合いの場が持たれます。1年の成果が決算書に表されます。企業が存続する限り1年ごとにその話し合いは繰り返されます。企業経営は決算書にはじまり、決算書に終わります。

決算整理を経て、1年の売上に関するさまざまな数値が確定されます。売掛金、貸倒引当金、減価償却、有価証券などの評価、特別利益、特別損失などの手続きを経て、当初想定していた予想利益が修正されます。想定利益が上下することで経営者の読みが修正され、経営者は落胆したり満足感にひたったりします。

企業の「通知表」ともいうべき決算書の扱いをめぐっては、その立場の違いから経営者と税理士の間で考え方のズレが生じることがあります。

経営者と税理士の間にズレが生じる理由とは?

決算書をめぐり次のような光景がよくあります。中小企業の経営者は明日を考え、税理士は過去を見つめながら話し合いをしているという姿です。この決定的な視点のズレをこれまで私はどれほど見てきたかわかりません。このズレが経営者に明日の展望を描かせることを困難にしています。

経営者は税理士が経営の内実を誰よりも知っていると思い込み、今後の展望について意見を求めようとします。しかし、税理士は税の専門家です。経営の舵取りについては専門外です。そこを問われても印象を述べるのが精一杯で、なかなか経営者の期待に応えられないのが正直なところなのです。

決算書を見つめながらも経営者の関心はすでに来期にあり、過去はもう終わったこととして捉えています。過去の決算書の分析から反省点を見つけ、来期に向けてどんな態度で臨むべきかと気持ちを切り替えているのです。

つまり決算作業にとりかかった時点で、経営者の心はすでに来期にあるのです。ところが決算書には過去の出来事が表記されているもので、そこに来期の収益予想につながるデータは存在しません。

全て結果であり、来期につながる要素が乏しく、定量的な把握ができないのです。ここに経営者と税理士の間にズレが生じる理由があります。

自分が「消耗品費」だという認識を持つ社員達…

ある会社の経理部でこんなやりとりがありました。本人たちに言わせれば、誰にでもできる簡単な作業を毎日繰り返しさせられているふたりの会話です。

「おれたち辛いよな。何の取り得もなくて」
「でもお前はまだいいよ、消耗品だから。おれなんか消耗品費だよな」

「おれたち辛いよな。」(画像はイメージです/PIXTA)

経理は地味な仕事ですが会社にとって重要な業務であることは間違いありません。一方は社長から頼りにされ、もう一方は存在感がうすい、そんなふたりの会話です。人は立派な財産、つまり、資産であるのにそうした扱いがなされていない企業は多いものです。この話を聞いて身につまされた人もいるのではないでしょうか。

自分が消耗品なのか、消耗品費なのか、経理は地味な業務であるだけにその認識の違いは作業効率に大きく影響するのではないでしょうか。

人を使い捨てのコマのように扱う会社の社員は「消耗品費」です。これに対してたとえ厳しい職場であっても人を資産として扱う会社の社員は「消耗品」となります。この微妙な違いで人の気持ちはまったく変わるものです。

社員に自信を持って仕事をしてもらうために

自らを消耗品費と言うのはいささか自虐的ですが、人を本当に大事にしない会社は、表向きには「企業は人なり」と唱えていたとしても、その実態は社員を消耗品費として扱っているのではないでしょうか。

自分が費用勘定に属する存在であると知れば、人は自信を持つことはできませんし、積極的に会社の未来をつくりにいくという気持ちにはなれないでしょう。費用勘定であることになれきってしまえば、成長することをやめてしまうかもしれません。

人生の大半を会社で過ごすという人は多いと思います。その会社での自分の立場が消耗品費であるというのでは、やりきれないに違いありません。人間の尊厳というものがまったく保てません。

企業は合理的な存在であり、感情の入る余地はないと考える経営者は多いものです。しかし、人生が会社生活一色であった時代が終わり、プライベートと会社生活のバランスをいかにうまくとるかというテーマが浮上してきた現在、資産としての人をしっかり見つめ直す必要があるでしょう。

そもそも企業社会は厳しいものです。生ぬるいことを言っていては生き残れません。だからといって、いつまでも人を費用勘定として扱ってもよいということにはなりません。人生の大半を会社で過ごす、潜在能力を無限に秘めた人材を費用として捉えず、その資産としての側面に光を当てることによって、新たな競争力を獲得できるのではないでしょうか。

※本記事は連載『確実に利益を上げる会社は人を資産とみなす』を再構成したものです。

松久 久也

株式会社プレジデントワン 代表取締役