高速通信の5Gと「自動運転」は密接な関係にある

 携帯電話で最近よく聞くようになった言葉が「5G」だ。

 これは、現在普及しているLTE-Advancedを第4世代目として、それに続く第5世代目の移動通信システムのことを指す。高速・大容量に加え、多接続、低遅延が実現されることを特徴とし、それは人が持つデバイスからIoTまで、幅広いニーズへ対応することが期待されている、次世代のネットワークなのだ。

ひと足飛びに自動運転まで行かなくても、5Gはドライバーが責任を負う「レベル2」でのハンズオフ走行でも多くのメリットをもたらす

【画像】次世代ネットワーク「5G」 クルマとどんな関係がある?(11枚)

 そもそも5Gの定義は、国連加盟国のほぼすべてが参加している「国際電気通信連合(ITU)」によって次の3つを満たすことが求められている。

 それは「高速大容量」「高信頼性低遅延」「同時多接続」で、それぞれにその基準となる目標値が設定されている。

 これは、たとえば4K動画や8K動画といった大容量のコンテンツを、ストレスなくやり取りすることを目的とする。高速大容量では20Gbps(4G比で20倍)となり、高信頼性低遅延では1ms(同1/10)、同時多接続では100万台(同10倍)を達成することで、初めて5Gと呼ぶことができるのだ。

2019年に開催されたMWC(モバイル・ワールド・コングレス)2019に、サムスンが出展した5G対応の「Galaxy S10 5G」。日本ではもっとも早く5G対応機として登場した

 これだけ高い能力を持つ5Gだけに、将来の自動運転を実現する意味でも、クルマと密接に関わり合いを持つ。

 自動運転車は、刻々と変化する周囲の状況をセンサーで捕捉し、そのデータを元にAIがアクセルやブレーキ、ハンドル操作を制御するが、それだけで安全な走行を完璧に担保することにはならない。

 道路状況は常に変化しているわけで、進行方向の道路状況がどうなっているか、常に先読みする必要がある。仮にイレギュラーな事態が発生しても瞬時に対処することも求められるわけで、そこに5Gは大きく関わってくるのだ。

 また、無人で走る自動運転車にシステムエラーが発生した際は、それをコントロールする管制室のオペレーターが遠隔で監視・操作することになる。

 その実現のためには、5Gの信頼性が高い低遅延は大きな役割を果たす。とくに制動距離については、警察庁がガイドラインを設けて厳しく規制しており、各社はこの準備にも余念がない。

 その準備は着実に進んでいる様子で、2019年2月に実施されたKDDIの実験では、30km/hでもガイドラインに沿って安全に停止できる結果を示すことができた。これは5Gならではの「高速性&低遅延性」が発揮されたからにほかならない。

全国21万基ある信号機を5Gのアンテナに活用する案も

 ただ、こうした自動運転車が数多く走るようになれば、通信トラフィックは激増する。米インテル社が試算したデータによれば、高レベルの自動運転車が取り扱うデータ量は、一日で4TBにもなるという。

 実際は駐車中のクルマも多いため、すべてのクルマがこのデータ量を一度に消費することにはならないが、自動運転が実現した状況下では、通信量が膨大になることは間違いなく、それだけ通信トラフィックにも負担が生じることは避けられない。

2019年2月に開催されたMWC(モバイル・ワールド・コングレス)2019は、日本より先行してサービスインした国もあり、会場はまさに5G一色に染まった

 自動運転では、さらに膨大な数の車両と同時接続できる環境も必要だ。

 現在の4G環境で映画などの動画コンテンツを見ていると、時折、動画がフリーズすることがある。これは通信トラフィック状のパケット詰まりが生じさせたものだが、動画ならそれは一時的なものとして捉えればいい。しかし、自動運転車にこの症状が出れば、それこそ安全な走行に重大な問題につながりかねない。

 こうした問題にも5Gは柔軟な対応ができる仕様となっており、その意味でも将来の自動運転の実現に5Gの普及は欠かせないといっても過言ではないのだ。

 一方で、5Gが普及するにあたり、解決すべき課題もある。

 5Gは、現在の4Gで使っている3.5GHzよりも高い周波数帯(3.7GHz帯/4.5GHz帯/28GHz帯)を使う。使用する帯域幅が広がることで、データが行き来する通り道を確保して高速・大容量を実現しているのだ。

 しかし、高周波帯を使えばそれだけ電波は直進性が強まり、電波の回り込みがしにくくなって、とくにビル陰には弱い。また、電波が遠くまで届きにくく、減衰しやすいという弱点もある。そこで通信各社は送受信の環境を改善するために、従来のアンテナ本数よりもはるかに素子数を増やすなどの対策を講じることで乗り切る考えだ。

 こうしたなかでスタートした5Gではあるが、これがクルマで活用されるようになるにはもうしばらく時間がかかる。

 というのも、現状ではサービスのスタート段階にあり、基本的には4Gとコアネットワークを共用しているに過ぎず、当然ながら5G本来の高速通信は実現できていない。

 しかも電波が遠くまで届きにくい以上、今までよりもはるかに多くのアンテナを整備する必要もある。つまり、その整備が進んでいない状況下では、移動体であるクルマにメリットが生まれるはずもないのだ。

三菱電機とNTTドコモは、ビルの壁面に超多素子アンテナシステムを使った5G実験で通信速度27Gbpsを2018年に成功させた(写真提供:三菱電機)

 そこで政府が進めようとしているアンテナ整備計画が、全国に21万基ある信号機の活用だ。

 信号機であればクルマにとっても電波を捕捉しやすい上に、これを上手くつないでいけば広範囲にわたってスムーズな情報伝達ができていく。

 とくにアンテナの設置場所が飽和状態になっている現状では、携帯電話会社にとっても良い話であることは間違いない。この計画は2020年代なかばごろを目標に整備を終える計画で、そのころにはクルマのコネクテッド化がいまよりも進んでいるものと予測される。

 完全な自動運転は無理だとしても、より高度なアシストによって安心安全かつ快適なドライブが日常となる日もそう遠くはないのだ。