多くのエリートを輩出している名門男子校。

卒業生と聞いてあなたはどんなイメージを持つだろうか。

実は、思春期を"男だらけ"の環境で過ごしてきた彼らは、女を見る目がないとも言われている。

高校時代の恋愛経験が、大人になってからも影響するのか、しないのか…。

▶前回:「元カノとのやりとりも全部把握してる…」可愛い顔して裏では…恐るべし“ネトスト女子”の正体




<今週の男子校男子>
名前:隆也(32)
学歴:開成高等学校→東大法学部
職業:財務省官僚
住所:池尻大橋
妻:奈々美・専業主婦(32)

僕が卒業した高校は“開成高等学校”だ。

父も開成出身のため、僕が開成を目指すことは必然だった。

開成での一番の思い出と言えば、中1から高3まで学校一丸となって開催する運動会だ。準備や練習に無我夢中で取り組んだ日々は、輝かしい青春の一コマとして心に刻み込まれている。

今でも卒業生で集まった時に運動会の話題は欠かせない。

同級生は400人もいるから多種多様だ。天才肌のヤツ、鉄道やアニメのコアなオタクもいれば、他校の女子と遊んでいる派手な奴もいた。

中高の多感な時期に、優秀で個性的な同級生たちと出会い切磋琢磨したことは大事な思い出だ。

学校のある西日暮里は、街の再開発が進み、なくなってしまった店も多い。ノスタルジックな昭和の雰囲気を少しでもいいから残しておいてほしいと思う。

僕は今財務省で働いている。進路を決めた理由は、高校時代に官僚として働く開成OBの講演を聞いたからだ。

―僕もスケールの大きい仕事がしてみたい。

そんな純粋な気持ちがきっかけで、東大へ進学し、難関試験を突破した。

精神的に辛い瞬間もある。

国会期間中に毎日タクシー帰りで連日体力の限界まで仕事をしている時。

あまり優秀ではないと思っていた高校や大学の同期が、民間企業で僕の倍以上稼いでいると知った時。

だが、自分が関わった仕事がニュースとなる瞬間の達成感は、何ものにも代え難い。

「国を支えている」この感覚は他の仕事では決して味わえないものだろう。


開成卒エリート・隆也の高校時代の苦い思い出とは


高校時代、僕は弁論部に所属している真面目な生徒だったが、開成生というステータスだけで女子が寄ってくるという経験をしたことがある。

「おい、今週の土曜日暇?」

休み時間に本を読んでいたら、隣の席の貴史に声をかけられた。

高校生イベントサークルに所属していた彼は、当時流行っていたギャル男風の髪型で校内でも目立っていた。

「女子校の子と合コンがあるんだけどさ、一緒に行く予定だった駒東の友達が来れなくなっちゃたから来てほしいんだけど」

僕は気怠げに「ああ、いいよ」と答えたが、他校の女子とも仲が良かった彼に遊びに誘われたことが、内心嬉しかった。  




こうして僕は貴史に連れられ、渋谷センター街のど真ん中にあるカラオケ店に足を踏み入れた。

先に到着していた女子2人は、妹が憧れているLIZ LISA風のフワフワした甘い服に身を包んでいた。

「貴史、久しぶり〜会いたかったよぉ!」

貴史は適当に2人をあしらいながらも、学校で見せる顔とは別の、獲物を見定めるような目つきをしていた。

女子達はアイドルソングを完璧な振り付けつきで歌っていた。貴史も上手いこと合いの手を入れている。

―なんだか手慣れてる感じだな。

僕は父親の影響でUKロックが好きで、流行りの歌はほとんど知らない。開成の同級生とのカラオケはみんな好きな曲を歌っていたから、いつものノリでUKのロックバンドの曲を入れた。

―うわぁ、やってしまった……

曲が始まった瞬間、女子たちの空気は一瞬で盛り下がり、携帯をポチポチ触り始めた。

僕は曲を途中で消したい気持ちになりながらも、何とか最後まで歌いきった。カラオケを出た後は、みんなで歩きながらクレープを食べて解散した。

「運動会来月でしょ?観に行くね〜」

そう言って2人は、手を振りながら帰っていった。そういえば女子達は一度も財布を開くことはなかった。

―何で、俺が金を払わないといけないんだ?

「今日どうだった?2人とも可愛いかっただろ?開成ってだけで可愛い女子が来てくれるんだよなぁ」

駅に向かう途中、嬉しそうな貴史をあしらいながら、生クリームが甘ったるいクレープを無理やり胃に押し込んだ。



あれから15年ほどが経ち、僕も大人になり、家庭を持つようになった。

「2人でご飯食べに行くの、久しぶりだね!」

妻の奈々美は、シャンパンを片手にはしゃいでいる。

なるべく2、3ヶ月に1度は、どちらかの実家に娘の恵を預けて夫婦でディナーを食べに行く。

『トキオプラージュ・ルナティック』で僕たちは、フレンチを楽しんでいた。


妻・奈々美が持っている秘密とは


テラス席で秋の風を浴びながら、虫の音を聴くなんて贅沢な瞬間だ。

「来年、恵が小学校に上がったら、塾に入れないといけないのかな」

「おいおい、俺なんて中学受験の準備を始めたのは小6になってからだぞ」

大学のインカレのゴルフサークルで同期だった奈々美とは、大学2年生の時に付き合いはじめた。5歳の子供の母とは思えないような、ほっそりしたスタイルやぴんと張った肌は出会った頃から変わらない。

東大の同級生からはトロフィーワイフだと揶揄されることもあるが、青春時代を一緒に過ごしてきた彼女とはたくさんの思い出がある。

「隆也は頭がいいから特別だよ。恵にはどこかの大学の附属校にでも入ってもらいたいけど、今どこも人気らしいよ」

「大学入試改革の影響だろ?そんなの何年かしたら落ち着くだろうから、ゆっくり考えればいいよ」

奈々美は「そうかなぁ…」と言って首をかしげた。たまに時事ネタ等で会話が噛み合わない時がある。

そんな場合は、僕が分かりやすく噛み砕いて説明している。

―もう少し物分りが良かったから、会話も弾むんだけどな。

それでも家事の一切を取り仕切ってくれることには頭が上がらない。

シワひとつない丁寧にアイロンされたワイシャツ、野菜たっぷりの食事、掃除の行き届いた家、僕が仕事に打ち込めるのも奈々美のおかげだ。特に忙しい僕の代わりに恵へ愛情をたっぷり注いでもらえるのは、奈々美が家にいてくれるからこそ出来ることだ。

僕たちは食事を終え、多摩川の河川敷を散歩することにした。

「少し歩いてから帰ろうか」

うんと笑顔で僕の手を握った奈々美の笑顔は、10代の頃のようにはつらつとしている。




奈々美の秘密


私は隆也と手を繋いで歩きながら、聞こえないように小さな溜息をついた。

―どうせ私のこと、頭が悪いって馬鹿にしているんでしょ。

小動物系の顔つきが男子受けするようで、私は高校時代、男子校の文化祭に行くたびにメアドをせがまれていた。

「私、開成の彼氏出来たの!」

高校2年生の時、そんなに可愛いくもないクラスメイトが自慢気に話しているのを聞いて、嫉妬心を抱いたことを覚えている。

その時、私は中堅男子校に通う高校生サークルの代表と付き合っていて、イケてる高校生の間では少し有名だった。

―どうせなら、開成生のほうがネームバリューあるじゃん。

そう思って、私は同級生に頼んで開成生を何人か紹介してもらった。

実はその時に行ったカラオケ合コンで、今の夫である隆也に会っていたけど、その時は冴えないメガネ君で全く眼中になかった。

―私みたいなのんびりタイプは、バリバリ働くよりも専業主婦の方が向いてるよね。

大学生になってからは、将来の夫探しのために東大のインカレサークルに入った。

「将来は官僚になって、日本をより良くするんだ」

サークルの同級生だった隆也の口癖は、当時からそれだった。

最初は3年生の先輩と付き合っていたが、彼の留年が決まってしまい別れた。元彼は明るくて話が面白い人だったからサークルの人気者で、地方の普通の高校から猛勉強して東大に入ったことが彼の自慢だった。

―やっぱり同じ東大生と言っても、出身高校で優秀かそうじゃないかが全然違う!

サークルの中を見渡した時、地道にリーダーシップを発揮している隆也の姿が目に入るようになった。

―国家公務員って安定してそうだし、隆也も案外悪くないかも。

恋愛と結婚は違う。責任感の強い彼になら安心して人生を任せれられると思った。

それから狙いを定めた隆也を落とすのは、本当に簡単だった。まるで恋愛のマニュアル本に書いてある通りみたいに。

プライドの高い彼を適度に褒めてあげて、話をしっかり聞く。付き合ってからは、好みの料理を振る舞って、彼の居場所になれるように努力した。

努力の末に私達は結婚して、子供にも恵まれた。でも結婚して気がついたことがある。

―結婚って、することがゴールじゃないくてしてからがスタートなんだね。

日々の生活で鬱憤は溜まる。結婚前は許せたプライドの高さも、今ではイライラの原因になる。

だから私はストレス発散のために、女子会と嘘をついて既婚者限定のお食事会に参加している。

娘がいるのにどうやって参加するかと言うと、隆也の帰りが遅い国会期間中の平日に実家に恵を預けている。恵は、欲しい物を何でも買ってくれる私の両親が大好きなようだ。

だから中々お食事会に参加できない時は、恵の方から「新百合ヶ丘のおばあちゃんとおじいちゃんに会いたい!」とせがまれてしまう位だ。

でも最近はオンライン開催だから、隆也の遅い夜に、恵を寝かしつけてから参加している。

別に今の平穏な幸せを壊す気なんてない。開成の同級生には弁護士が沢山いるから、もし浮気でもして隆也を敵に回したら、絶対に負けてしまうと分かってる。だから、いいなと思う人がいても深入りはしない。

―でも人生には、スパイスが必要なんだよね。

隆也は私のことを、もはや家政婦か恵のシッターのようにしか見ていないだろう。だけどお食事会では、対等な1人の女性として扱ってもらえる。

―女としての価値の確認みたいなもんなのかな?

私は、隣を歩く隆也の腕に絡みついた。彼は私の顔を見ると、満足そうに微笑んだ。

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最終回:栄光出身・マイペース男が恋するヘルシー美女の秘密