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2010年9月にメジャーデビューしてから10年、数々のアニメ作品の楽曲を歌ってきたnano.RIPEが、そのアニバーサリーイヤーに合わせて初のベストアルバム『月に棲む星のうた 〜nano.RIPE 10th Anniversary Best〜』をリリースした。きみコ作曲の楽曲からセレクトした“KIMIKO MELODY.”、ササキジュン作曲の曲より選ばれた“JUN MELODY.”という、作曲者別に分けた2枚のCDから成る本作。バンドと親交の深い声優、伊藤かな恵と愛美にそれぞれ書き下ろした新曲「イトシキヒビ」「スピカ」のセルフカバー版も収録し、ファンを含む様々な人々や作品との繋がりによって育まれた、彼らの歴史が詰め込まれた作品になっている。その歌たちに込めた想いについて、メンバーの二人に話を聞いた。

――今年でメジャーデビュー10周年を迎えましたが、この10年はバンドにとってどんな時間でしたか?

きみコ あっという間ではありましたけど、たぶん普通のバンドの10年間よりも、いろいろなことがあったかもしれないです。特にメンバーの脱退やバンドの体制が大きく変わることが何回かあったのが大きいですけど、そのときはしんどかったことも、今、客観的に振り返って「あれがあって良かったな」と思えたりもするので、まだ答えを出すには早いかもしれないですけど、いい10年だったなと思います。

ササキジュン 今、きみコの話を聞いてて、すごく似たことを話そうとしていたんですけど(苦笑)、バンド自体はもう22年やっているなかで、メジャーになってからの10年は本当にいろんなことがあって、あっという間だったなあと思っていて。何より、昔からバンドの形でやることがいちばんかっこいいと思っていたので、まさかきみコと二人になるとは思ってなかったですね。しかも二人になってから、もう3年以上経っていることにもビックリしていて。本当に時間が経つのは早いなと思います。

――実際、二人体制でのnano.RIPEというのは、いかがですか?

きみコ 元々曲を作るのは、この二人だったこともあって、サウンド面で大きな変化はないですけど、アレンジやレコーディングの仕方は大きく変わりましたね。でも、ライブは固定のサポートミュージシャンと一緒にバンド編成でやっているので、バンド感というのは引き続きありつつ、あたしとジュンの自由度がより高くなったというか。結成から考えると、メジャーデビューまでの間にもたくさんメンバーチェンジを経験してきたなかで、この二人だけは最初からずっと変わらずいるので、大きくは変わっていない気がします。

――きっと、お二人のうちのどちらか一方が欠けない限りは、nano.RIPEであり続けるんでしょうね。

きみコ ジュンが辞めるって言ったらどうしよう?と考えた時期もあったんですけど……。

ササキ 実は辞めるって言っていた時期もあったんですけど、「それはないでしょ!」って俺が冗談を言っているみたいな感じで受け止められて(笑)。

きみコ あれ!? そんなことあったっけ? 記憶にないな。

ササキ でも、辞めることは出来ないことをわかっていての発言というか、洗脳じゃないけど、どうせ逃げられないので……。

きみコ そんなに辞めたいの?(笑)。

ササキ 今思うと、そんな気持ちでやっていた時期もありましたね。けど、それはそれでなかなかできない経験だったし、今は音楽なしでは自分の人生は語れないところまで来てしまったというのがあって。今まで本当にnano.RIPEしかやってきていないので。

きみコ 初めて結成したバンドがそのまま。

――高校時代に結成したバンドが22年間も続いて、今もメジャーで活動しているなんて、稀有な例だと思います。そんな皆さんのメジャー10周年を記念した今回のベスト盤ですが、5周年のタイミングで発表したシングル集『シアワセのクツ 〜Single Collection〜』とは、全然違ったコンセプトの作品になりましたね。

きみコ シングル・コレクションの続きを出す案もあったんですけど、2019年の年末に“キミメロDAY”“ジュンメロDAY”に分けてやった2デイズライブ(“nano.RIPE TOUR 2019「せかいじゅのはな」東京公演”)が、みんなに喜んでもらえたし、自分たちも面白かったので、ベスト盤も作曲者別で曲を分けて2枚組にするとnano.RIPEらしくなるかなと思って。これが結構面白くて、もちろん両方ともnano.RIPEなんですけど、ディスクごとにカラーがちゃんと出るんですよね。普段はクレジットを気にしていない方も、ここまできっちり分けられていると気が付くところもあるかなと思うし、それもまた歴史ということで、DISC-1は“KIMIKO MELODY.”、DISC-2は“JUN MELODY.”という形で分けました。

――選曲に関しても、シングルやタイアップ曲に捉われないセレクトになっていますよね。

きみコ もちろんシングルやタイアップ曲も重要な位置を占めてくるんですけど、それ以外にもライブの定番曲だとか、10周年の中で分岐点となるような曲を詰め込んで、歴史が見える1枚にしたかったんです。その意味で、今回は単純にシングルを並べるのは違うなと思ったところからの選曲ですね。それこそ“JUN MELODY.”の13曲目に入っている「夜の太陽」(2017年)は、二人体制になって初めて作った曲だったり。それとこれは結構無意識ではあるんですけど、ぼくらはずっとライブをやり続けていることもあって、ライブで印象的な曲が多く入っている気がします。

――今回のベスト盤収録曲をセレクトするにあたり、作曲者別で楽曲を振り返る機会が多くあったと思いますが、改めてお互いのソングライターとしての個性について、どのように受け止めていますか?

ササキ 最近はきみコの書いた曲でも自分がアレンジすることが多いんですけど、きみコの曲のほうがコードが明るくて、単純なコード進行で成り立つなと思っていて。きみコが書くメロディは難しいコードが逆に乗せにくいんですよね、変にアレンジが複雑になりすぎてしまうというか。単純なコードやアレンジのほうが、メロディが伝わりやすい。アレンジに関係なく(耳に)入ってくるメロディだなと。そこは自分の書くメロディよりも強い印象があります。自分が書く曲は、かっこいいコードばかり使ってみたいという感じなので。

きみコ 作曲を始めたばかりの人みたいだよね(笑)。

――逆にきみコさんが感じるササキさんの曲の特徴は?

きみコ 大きく分けると、ジュンの曲のほうがマイナー調の暗い曲が多いんですけど、それは昔からではなくて、だんだんそういうふうになっていった気がするんです。それこそ「面影ワープ」(2011年/『花咲くいろは』OPテーマ)のときはそんなことはなかったし。だからもしかしたらジュンも「きみコがこういう曲を書くから俺はこっち」というのが無意識にあったのかなと思ったりして。あと、ジュンはあたしよりも好奇心旺盛で、いろんな音楽も聴くし、それをどんどん取り入れていきたいと思うタイプなので、そういうのがメロディを含む楽曲全体に表れていると思います。なのでディスク単位で聴くと、きっと“KIMIKO MELODY.”のほうが統一感があって、“JUN MELODY.”のほうは曲によって時期の変化がわかりやすく出ていると思います。

――そのお互いが思う印象がはっきりと表れている楽曲を、今回のベスト盤の収録曲から選ぶとしたら、どの曲だと思いますか?

きみコ そうだなあ、最近の転換点になった「アザレア」(2018年/『citrus』OPテーマ)は、この辺りからnano.RIPEも弦を入れたりするようになって、あたしには書けない曲だと思いますし、それとはまた対極にあるような「ヨルガオ」(2019年/NHK『みんなのうた』2019年8-9月)もそうかも。ジュンの書くバラードは「パトリシア」(2010年/※今回のベスト盤には未収録)や「ポラリス」(2018年)みたいに壮大なものが多いんですけど、「ヨルガオ」は世界観的にはあたしのメロディに近いような気がしつつ、歌ってみると、このメロはあたしの中にはなかったなと感じて。

――やはりお互いのメロディの傾向の違いを明確に感じることがあるんですね。

きみコ 特にレコーディングで感じることが多くて、ジュンが作曲した曲と自分が作曲した曲を歌うときでは、かかる時間が結構違うんですよ。自分は元々歌いながら作るので、作っている段階で歌いやすいメロになるんですけど、ジュンは最近はパソコンに向かって曲を作ることが多いので、たぶん“耳で聴いていいメロディ”を意識して作っていると思うんです。それをいざ歌うとなると、「なんだこのメロは?」って思うこともたまにあります。

――逆にジュンさんはいかがですか?

ササキ ほとんどの曲がきみコのメロディだなと思いますけど、なかでも「ハナノイロ」(2011年/『花咲くいろは』OPテーマ)がいちばんですね。この曲は初めてTVアニメのタイアップをいただいたこともあって、当時から「nano.RIPEと言えばこの曲」になることを意識して作っていたので、出来たときにメロディとしてすごく強いものが出てきたなと思いましたし、だからこそここまで愛される曲になったんだろうなと思っていて。自分の中では「ハナノイロ」を超える曲がまだ出来ていないと思うし、その点では、きみコのメロディがいちばん強く出ている曲だと思います。

――先ほども、きみコさんから指摘がありましたが、ササキさんは、きみコさんが書くメロディの強さとはまた違った部分を出すことを意識して、曲の書き方を変えたところがあるのでしょうか?

ササキ どうなんですかね?きみコの曲は自分的には突き抜けたメロディというか、外のすごく広いところで歌っているようなイメージの曲が多いんですけど、自分はそういう曲を作ることがなかなかできなくて。昔は鼻歌でメロディを作ることも多かったんですけど、最近は曲の作り方を変えて、打ち込みの時点で原型のメロをコードに合わせてどんどん変えていくのがクセになっているんです。それが元々自分のなかにあったものがストレートに出てきていない理由かもしれないし、きみコは作詞と作曲の両方ができる強みもあるので、そこは敵わないなと思います。

――ここからは各ディスクごとにお話を聞いていきます。まず“KIMIKO MELODY.”ですが、こちらは「ノクチルカ」(2009年)や「15秒」(2009年)など、インディーズ時代から歌っている楽曲が多く含まれていますね。

きみコ そうですね。メジャーデビューから10周年ではあるけど、初めてのベスト盤でもあるので、となると結成からの歴史でもある気がしていて。特に「ノクチルカ」はライブの定番曲でもあるし、ファンクラブの名前にもなっていて、欠かすことのできない曲だなと。それにあたしは「ノクチルカ」みたいなタイプの曲をそんなに書かないんですけど、でも実はあたしもこういう曲を書くんだよ、という意味も含めて入っていたほうがいいなと思って。「影踏み」(2013年/『劇場版 花咲くいろは HOME SWEET HOME』主題歌)も「夢路」(2010年/『花咲くいろは』イメージソング)もメジャーデビュー前からあった曲ですけど、個人的な思い入れもありますし、『花咲くいろは』のおかげですごく愛していただいている曲なので。

――個人的には配信シングルだった「アイシー」(2019年)が、今回でCD初収録になったのが嬉しかったです。

きみコ 今回「アイシー」と「うてな」(2018年/※今回のベスト盤には未収録)のどちらを入れるか迷って、ツイッターの投票でお客さんに収録曲を決めてもらったんです。それで「アイシー」が勝利したんですけど、その理由として「CDになっていなかったので」という方が多くて。時代はサブスクが主流になってきているので、みんなはあまりCDという形を気にしていないのかなと思っていたら、意外とCDになることが嬉しいと言ってもらえて。それがすごく嬉しかったです。

――「ダイヤモンドダスト」(2017年)もライブ会場限定CDにしか収録されていなかった曲なので、これで手軽に聴くことができるようになりました。

きみコ この曲はあたしもすごく気に入っているので、もっとたくさんの人に聴いてほしい気持ちだけで選びました。ファンクラブの方にも「意外だったけど嬉しい」と言っていただいて。その次に収録した「あとの花火」(2016年)もシングルのカップリング曲なので、この並びは意外だと思います。こういうバラードは最近あまり入れてないし、「もう書けないかも……?」という気持ちもあるので、ちゃんと残しておきたいなと思って。

――曲順も単純にリリース順で並べるのではなく、流れを意識したものになっているように感じましたが、どのように決めましたか?

きみコ 結構悩んだんですけど、「ハナノイロ」で始まって新曲の「イトシキヒビ」で終わることだけは最初に決めていて。あとはいつものアルバム作りと一緒で、ライブを意識しつつ並べました。ただ、少し特殊なのが、歌詞の内容で繋げていくと面白いかなと思って。「ヒーロー」(2017年)の歌詞に“上昇気流を捕まえて”雲の上まで行くという歌詞があるんですけど、そこからの「アポロ」(2015年)で月まで行って、その月から見下ろした地球が「月影とブランコ」(2011年/『花咲くいろは』挿入歌)、そして「細胞キオク」(2011年/『花咲くいろは』挿入歌)で眠る。で、朝になって、晴れた空のもとで「なないろびより」(2013年/『のんのんびより』OPテーマ)と「あおのらくがき」(2018年/『劇場版 のんのんびより ばけーしょん』OPテーマ)のゾーンがきて……という流れは考えました。それと「ノクチルカ」はファンクラブの名前にもなっていることもあって、ちょうど真ん中の9曲目に置いて、「(ファンの)みんながど真ん中にいますよ」というメッセージも込めています。

――既存曲を並べつつも、新しいストーリーが浮かぶような構成になっていると。その意味では終盤のエモーショナルな流れはグッとくるところがあって、特にラストの新曲の前に置かれているのが「夢路」というのは、まだ道半ばにあることを歌った歌詞を含めて、nano.RIPEとしてのスタンスを感じました。

きみコ そうですね。10周年のベストアルバムを出すけれど、別にこれでnano.RIPEが終わるわけではないですし、また新たな旅に出るという意味でここに持ってきました。それと、特に“KIMIKO MELODY.”は、『花咲くいろは』関連の曲がたくさん入っているので、「ハナノイロ」で始まって、『花咲くいろは』の最終回で使っていただいた「夢路」に繋がっていく流れにしたくて。

――そして“KIMIKO MELODY.”の最後に置かれた新曲「イトシキヒビ」は、『花咲くいろは』の主人公・松前緒花を演じた伊藤かな恵さんのために書き下ろした楽曲のセルフカバー。シンプルかつ軽快なバンドサウンドで、とてもnano.RIPEらしい曲ですが、どのようなイメージで書かれたのですか?

きみコ 『花咲くいろは』を抜きにしてあたしたちとかな恵ちゃんとの関係性は語れないし、きっとかな恵ちゃんの中でも『花咲くいろは』は大切な作品で、緒花ちゃんもかな恵ちゃんにとても影響を与えたキャラクターなんじゃないかなと思ったので、“あれから10年が経った、かな恵ちゃんと緒花ちゃんの今”というイメージで書きました。なのでサウンドやメロディも「ハナノイロ」をもう一度書くような気持ちで書き始めて、アレンジも「あの頃のnano.RIPEだ」ってみんなが思うような仕上がりにできればと思って作りました。「ハナノイロ」で始まって、その10年後をイメージしたで終わるのを思いついたときは、「これだ!」って思いましたね(笑)。



――歌詞の中に“そうやって積み重ねたふたり分の日々”というフレーズがありますが、これは伊藤さんと緒花ちゃんの二人がモチーフになっているんですね。

きみコ かな恵ちゃんから見た緒花ちゃん、というイメージで書いていて。ラスサビ前の“未来のあの子の後ろ姿”というのも、「未来のオハナちゃんはこうなっている!」ということではなくて、ぼんやりしているというか、後ろ姿ぐらいしか見えないぐらいがちょうどいいんじゃないかなと思って。たぶん『花咲くいろは』を観たいろんな人のイメージもあると思うので、かな恵ちゃんがチラッと緒花ちゃんの後ろ姿を見かけて、「私は私で今も頑張っているよ」っていう。二人にはそういう関係性があるんじゃないかなと思って書きました。

――しかもこの曲、歌詞の中に今までの『花咲くいろは』楽曲を彷彿させるフレーズが散りばめられていて。かつてあった「愛しき日々」みたいなものが、古びることなく自分の中にあって、それが今の原動力になっているという、すごく前向きな楽曲ですよね。

きみコ 例えばいろんな人が集まるイベントとかで「ハナノイロ」を歌うと「懐かしい」と言われることがあるんですけど、ぼくらはライブでずーっと歌っているので、懐かしくなる隙間がなくて。それはきっとかな恵ちゃんも同じで、緒花ちゃんは心の中にずっといて、『花咲くいろは』を今観たとしても懐かしむような感じではないのかなと思ったんです。なので1サビに“懐かしむほどに薄れない 愛し声は今も響く あたしの中”って書いて。愛しき日々はあたしの中にもかな恵ちゃんの中にもあり続けている。そういうことを伝えたいなと思いました。

――ササキさんはこの曲のアレンジを手がけるに際し、どのようなことを意識しましたか?

ササキ さっききみコが言ったように“「ハナノイロ」を今作ったとしたら?”というテーマがあったので、その意味ではすごく苦戦しました。この曲、最初にコーラスが入っているんですけど、それは自分が、かな恵ちゃんのコーラスを聴きたくて、どうしても入れたくなったんですよ。

きみコ そういう理由だったんだ(笑)。

ササキ なのでコーラス部分のラインもきみコに考えてもらって。アレンジが大体完成した後に、コーラスを乗せたんですけど、そのコーラスがなかったらアレンジが成立してなかったって自分では思いましたね。(きみコと伊藤かな恵によるデュエットバージョンの)MVを観たときも「あっ!かな恵ちゃんがコーラスしてる!」って感動して(笑)。

きみコ かな恵ちゃんのコーラスが聴きたいから入れ込んだって、すごく高貴な遊びだね(笑)。

ササキ いや、このコーラスが入ることで『花咲くいろは』を思い出す感覚が自分の中にはすごくあって。だからアウトロにも同じコーラスを入れたんですけど、すごく綺麗で。「かな恵ちゃんありがとう!」って思いました。

――もう一方の“JUN MELODY.”についてもお話をお聞かせください。こちらの曲順はどのように組み立てていかれたのですか?

ササキ 実は普段、アルバムの曲順もライブのセットリストも全部きみコに任せているので、自分で曲順を組み立てる作業をするのは今回がほぼ初めてだったんですよ。なので戸惑ったんですけど、きみコに手伝ってもらいながら、自分でもいい感じに並べることができたと思っていて。「アザレア」を1曲目に持ってきて、新曲の「スピカ」が最後になることは最初から決めていたので、最後の前の曲は「ステム」(2018年)にすることをきみコが提案してくれて、そこからだんだん真ん中に寄せていくような形で決めていきました。特に2曲目は「面影ワープ」(2011年/『花咲くいろは』OPテーマ)しかないなと思って。この曲はnano.RIPEにとって大事な曲で、自分が書いた曲としてもメジャーになって初めてシングルになった曲なので、思い入れが深いし、ライブでも必ずやっている曲なので。

――ライブで「面影ワープ」が歌われると、落ちサビで必ず大合唱になりますからね。あと、個人的には、“JUN MELODY.”のほうがアルバム曲が多いように感じました。

きみコ たしかにアルバムのリード曲が多いですね。「ポラリス」「夜の太陽」「ルミナリー」(2016年)の辺りはあたしがだいぶ組んだんですけど、ここは宇宙ゾーンとして並べました。

ササキ そういえばそんなこと言ってたね。選曲のときにすごく悩んだんですけど、自分が「いいな」とか「強いな」と思うのは、やっぱりライブでずっとやってきた曲が多くなるんですよね。その意味ではシングルの曲がどんどん入ってきたんですけど、最近は弦やシンセがたくさん入っている、いわゆるバンドサウンドではない曲が増えてきたので、その意味では順番を組み立てるのが難しかったなと思います。

――先ほど話題にあがった「ステム」は、元々6thアルバム『ピッパラの樹の下で』の最後に置かれていた曲でもありますが、この曲が“JUN MELODY.”のラストの一つ前にあることも、“KIMIKO MELODY.”の「夢路」と同様に強い意味を感じました。

きみコ そうですね。これも未来に向けてみたいな曲ではあるので、ここまで聴いてもらってからの“ぼくらの宣言”みたいな部分があって。メンバー脱退で二人になったときに、あたしが“最終章”と表現したこともあって、みんなも「二人でもう少しだけやって終わるのかな?」みたいに受け取った部分もあったと思うんですけど、そういう意味での“最終章”ではなくて。まだまだ未来に向けてのベスト盤だということは、こういうところからも伝わればと思っています。

――そして新曲の「スピカ」は、昨年末のライブにゲスト出演された声優の愛美さんのために書き下ろした曲のセルフカバーとなります。nano.RIPEと愛美さんの関係と言えば、『アイドルマスター ミリオンライブ!』で愛美さんが演じるジュリアの楽曲をお二人が手がけていますが、この曲はどのようなイメージで作られたのでしょうか?

きみコ 元々は年末のライブのためだけに書いた曲で、みんなあのライブに愛美ちゃんが出ることを知ったときに「もちろんジュリアの曲を歌うだろう」と思っていましたけど、愛美ちゃんにぼくらが書いた曲を歌ってもらえるということになったんです。でも、ジュリアがいないことには、あたしと愛美ちゃんとの関係もそもそも始まっていないし、ジュリアがあたしと愛美ちゃんを出会わせてくれて、その先のいろいろがあったので、nano.RIPEが愛美ちゃんに曲を書き下ろすのであれば、やっぱりジュリアを抜きにしては語れないと思って。なのでジュリアと愛美ちゃんの関係を、あたしにしか書けない切り口で書きました。



――そのきみコさんでしか書けない切り口というのは、例えばどんな部分を意識しましたか?

きみコ 愛美ちゃん本人にも「愛美ちゃんにとってのジュリアとは?」という話を聞いたりもしたんですけど……もちろんジュリアというのは、一人のキャラクターで、そこに愛美ちゃんが言葉や歌で魂を宿すものではあるんですけど、あたしはジュリアって本当に生きているぐらいの気持ちでいて。その二人の女の子を、この距離で見れる人間ってそんなにはいないと思うし、しかもそこにすごく大切な言葉を乗せさせていただいているので、愛美ちゃんの中にジュリアが宿っているのと同時に、あたしの中にもジュリアは宿っているような気持ちがあるんです。だから二人の愛しき日々みたいなものを描くよりは、自分の曲を書くような気持ちも入れたほうが、ジュリアと愛美ちゃんの関係性になっていくんじゃないかなと思って。もちろんそれは、ジュリアの曲の歌詞をたくさん書かせていただいた積み重ねがあってこそなんですけど。

――曲名の「スピカ」を含め星がモチーフになっているところが、一連のジュリアの楽曲との繋がりも感じられました。

きみコ これはやっぱりジュリアの頬っぺたの青い星が印象的ですし、愛美ちゃんがライブであの星をほっぺに書いているのもすごく好きで。あの青い星が愛美ちゃんとジュリアを一つにしている気がするので。

――作曲はササキさんが担当されていますが、曲を作るにあたってどんなことを意識しましたか?

ササキ 元々ジュリアの曲(「プラリネ」)を提供させてもらったときに、自分が得意な曲調で自由に作らせてもらったので、今回も自分が持っているいちばん得意なところで曲を作りました。そういう意味ではメロディもいつも以上にすんなりできたし、コード進行も完全に自分の手癖みたいな感じで、あえて変わったことはしないというのを逆にテーマにしていました。きみコが歌っていることを思い浮かべて作れば、愛美ちゃんと重なるような気がしたので、普段の曲作りとあまり変わることなく作ることができましたね。

――こちらは「イトシキヒビ」よりもハードめなギターサウンドが印象的で、愛美さんがギターを弾きながら歌う姿も想像できました。

ササキ たしかに愛美ちゃんにギターを弾いてもらいたいですね。

きみコ ね、次回にゲストに来てもらえるとしたら、そのときは、あのレスポールを掻き鳴らしてもらえたら。

――ちなみに、それら新曲の伊藤かな恵さん・愛美さんによるソロ歌唱バージョン、そしてきみコさんとのデュエットバージョンを収めたCDが、店舗購入特典として配布されるとか。きみコさんはお二人とのデュエット版を作ってみていかがでしたか?

きみコ そもそもソロの段階で「こんなにも違う曲になるんだ!」ということを、どちらの曲でも思ったんですけど、それをデュエットにしたときに、かな恵ちゃんとあたしの声の相性の良さをすごく感じて。対照的に「スピカ」は、あたしと愛美ちゃんはアプローチ方法が全然違うのに、デュエットになるとうまく融合する、それぞれの面白さがありました。それにかな恵ちゃんや愛美ちゃんの声と一緒に自分の声を聴くと、「わっ、変な声!」って思ったりして(笑)。「きみコの声は特徴があるから聴けばすぐわかる」ってよく言われるけど、自分ではずっと聴いていて慣れていたので、みんなが言っているのはこういうことなのか!って思いましたね。

――そういえばベスト盤のタイトルになっている『月に棲む星のうた 〜nano.RIPE 10th Anniversary Best〜』には、どんな意味を込めたのでしょうか。

きみコ ちょっと説明が長くなるんですけど(笑)。まず、月が誕生した経緯には諸説がありまして、そのうちの一つの説として、かつて月は普通の星として漂っていたら、地球にぶつかってしまって、お互い少し欠けてしまって、その月のいちばん大きく残った部分に、地球のかけらがバラバラと入り込んで、月としてあの位置に浮かぶようになった、という説があるんです。あたしはその説がすごく好きで、nano.RIPEが地球とした場合、宇宙にたくさんの星があるようにたくさんの人がいるなか、たまたま出会って、ぶつかって、それによってみんなの一部分がぼくらの中に入り込むし、ぼくらの一部分もみんなの中に入り込む――そういうnano.RIPEとみんなの関係性にすごく当てはまると思うんです。なので“月”が(ファンの)みんなだとして、このベスト盤は“月に棲む星のうた”ということで……これはきっと説明されないとわからないと思います(笑)。

――自分も意味をいろいろ考えたのですが、今説明を受けてようやく腑に落ちました(笑)。でも、そういう意味を別にしても、詩的な雰囲気がある素敵なフレーズだと思います。

きみコ 今までのアルバムタイトルも『スペースエコー』以外は全部“の”を入れていたし、タイトルに“の”が入っていると売れるというジンクスを聞いたりもするので(笑)。それに1stアルバムの『星の夜の脈の音の』は今振り返ってもいいタイトルだと思いますし、そういう雰囲気のタイトルの作品を10年後に出すのもいいかなと思って。

――nano.RIPEは生粋のライブバンドなので、本来は本作を引っ提げてツアーなど行いたいところだと思いますが、昨今の情勢的に難しい部分もあり……。このアルバム以降の活動について、どのようにお考えですか?

きみコ この間「MixUp!」(ランティス所属のアーティスト/クリエイターたちがリモート収録した作品を発信する企画)で2曲の新曲(「オーブ」「リリリバイバー」)を発表したし、今も作り続けていて、新曲は溜まっていて。nano.RIPEは今までと同じように、曲を作って、CDにして、それを持ってツアーに行って、そこでまたもらったものを曲にして、ということを出来る限りやっていきたいので、まずは世の中が早く元に戻ればと思いますね。でも、せっかくベスト盤を出すので、かな恵ちゃんと愛美ちゃん、特にかな恵ちゃんの曲はまだライブでお披露目していないので、ゲストに呼んで何かできればと思っています。

――それこそバンドのYouTube公式チャンネルでは、デビュー10周年企画としてこれまでの全楽曲をアコースティックアレンジで届ける“#全曲なのらいぷ”という、ステイホームな状況に即したアクティブな活動も行っていましたし。100曲以上を毎日1曲ずつアップしていくのには驚きましたが。

ササキ 俺もビックリしました(笑)。すごく大変だったので。

きみコ でも、nano.RIPEには、そういうマラソン的なことが合ってるのかなと思っていて。47都道府県ツアーもそうですし、nano.RIPEはやるとなったらとことんやるよね!っていう。だから今後も体力のある限り、そういうことはやっていきたいですね。

INTERVIEW&TEXT BY 北野 創(リスアニ!)

●リリース情報

nano.RIPE

『月に棲む星のうた 〜nano.RIPE 10th Anniversary Best〜』

9月23日発売



品番:LACA-9778〜9779

価格:¥3,600+税

<KIMIKO MELODY.>

1.ハナノイロ

2.ヒーロー

3.アポロ

4.月影とブランコ

5.細胞キオク

6.なないろびより

7.あおのらくがき

8.絵空事

9.ノクチルカ

10.15秒

11.もしもの話

12.ダイヤモンドダスト

13.あとの花火

14.アイシー

15.影踏み

16.夢路

17.イトシキヒビ

<JUN MELODY.>

1.アザレア

2.面影ワープ

3.タキオン

4.世界点

5.ヨルガオ

6.スターチャート

7.虚虚実実

8.ツマビクヒトリ

9.神様

10.リアルワールド

11.エンブレム

12.ポラリス

13.夜の太陽

14.ルミナリー

15.ハロー

16.ステム

17.スピカ

店舗購入特典CD

1.特典CD「イトシキヒビ/スピカ」〜Duet〜

M-1 イトシキヒビ(伊藤かな恵&きみコ Duet Version)

作詞・作曲:きみコ 歌:伊藤かな恵&きみコ

M-2 スピカ(愛美&きみコ Duet Version)

作詞:きみコ 作曲:佐々木淳 歌:愛美&きみコ

特典CD「イトシキヒビ/スピカ」〜Duet〜対象店舗

・アニメイト(アニメイト通販含む・秋葉原別館対象外)

・ゲーマーズ全店(オンラインショップ含む)

・タワーレコード(一部店舗を除く)

2.特典CD「イトシキヒビ/スピカ」〜Solo〜

M-1 イトシキヒビ(伊藤かな恵 Solo Version)

作詞・作曲:きみコ 歌:伊藤かな恵

M-2 スピカ(愛美 Solo Version)

作詞:きみコ 作曲:佐々木淳 歌:愛美

特典CD「イトシキヒビ/スピカ」〜Solo〜対象店舗

・Amazon.co.jp

・あみあみ

・上新電機ディスクピア(Joshin webショップ含む)

・セブンネットショッピング

・ソフマップ・アニメガ(一部店舗除く)

・TSUTAYA RECORDS(一部店舗除く)

・TSUTAYAオンライン(予約のみ)

・とらのあな(一部店舗除く)・通信販売

・ネオ・ウィング

・楽天ブックス

・WonderGOO/新星堂(一部店舗を除く)

※特典の有無についての詳細は店舗へご確認をお願いいたします。

※特典はなくなり次第終了となります。予めご了承ください。

関連リンク



nano.RIPEオフィシャルサイト