テレワークのコミュニケーションで相手が不快に感じている可能性がある?(写真:Mills/PIXTA)

新型コロナウイルスの流行を受けて、在宅勤務などテレワークが急激に普及しています。秋冬は、感染が再拡大する可能性が指摘されており、この流れはますます進んでいくことが考えられます。

テレワークは、企業によっては急に取り組まざるをえなくなったため、オンラインでのコミュニケーションの作法について、悩んでいる人も多いのではないでしょうか。

そこで、『超基本 テレワークマナーの教科書』を上梓したマナーコンサルタントの西出ひろ子さんに、快適にテレワークをするためのマナーを紹介してもらいます。

テレワーク時に重要な心がけ

テレワークは、お互いの様子がわからないため、不安や疑心に陥りやすい面があります。弊社では、2011年の震災を機に、テレワークを導入しました。当時、最も問題になったのが、上司と部下との信頼関係です。

上司は「部下がきちんと仕事をしているのか」と不安になり、部下は「上司に勤務態度を疑われているのでは」とストレスを抱えてしまう。

だからこそ、テレワークでは、「マナーあるコミュニケーション(マナーコミュニケーション)」を取ることが大切であるとお伝えし続けています。これは、コロナ禍におけるテレワーク時も同様です。

そもそも本来のマナーは「こういうときにはこうする」という決まりごとではありません。マナーとは、相手の立場に立ち、相手に対する思いやりの気持ちを、形で表現すること。周囲へ優しい心を向け、配慮する気持ちからなる言動を指します。マナーコミュニケーションを取ることで、お互いが安心して仕事でき、パフォーマンスがあがるのです。

リアルな対面で言葉を交わすときは、全身の動きや声の調子、表情などからも、相手の思いをうかがい知ることもできます。しかし、メールやSNSなど、無機質なテキストだけで言葉を交わすときは、相手の様子を察知するのはむずかしく、その言葉だけをとらえてしまいがちです。

例えば、あなたが送ったメッセージが言葉足らずだったり、意図していなくても表現が厳しめになってしまったりしたとき。文面を受け取った相手は「あなたが怒っているのではないか」「ケンカを売っているのではないか」と、不安や不快に思っているかもしれません。

しかし、相手がそう感じていると気づくことができず、わかったときには手遅れになりうるのが、テレワークなのです。

そこで、テレワークを導入したクライアントにアドバイスをした結果、成果が上がった“テレワークマナー”を3つご紹介しましょう。 

「重要な用件が伝われば十分」ではない

1つ目はメールのマナーです。ビジネスのメールは「重要な用件が伝われば十分」と考えている人もいるようです。しかし、テレワークで直接相手と会う機会が激減している中、必要最小限のやりとりだけをしていると、人間関係が希薄になってしまいます。

テレワーク中にメールを送るときは、業務の話だけでなく、世間話にもあえて触れてみましょう。顔を合わせる機会が少ないからこそ、「世間話」「ねぎらい」「気遣い」を文面に盛り込むのです。

次の4つのポイントを意識すると、メールの相手に親しみを感じてもらえて、リアルな対面時よりも理解しあえる人間関係になった、という声が多く寄せられています。

1. 相手のスケジュールを把握したうえで、配慮あるひと言を添える
 「午後からもご多用のスケジュールでいらっしゃいますので、
 お昼休みはどうぞごゆっくりお過ごしください」
2. 相手の作業を把握したうえで、配慮あるひと言を添える
 「Zoom会議のご準備、ありがとうございます」
3. 相手の作業への感謝とねぎらいを伝える
 「大変かと存じますが、引き続き、どうぞよろしくお願い申し上げます」
4. 相手のストレスや健康に対する配慮あるひと言を添える
 「どうぞお疲れの出ませぬよう、お気をつけてお過ごしくださいませ」

仕事に直接関係のないことかもしれませんが、いつも以上に「相手を思いやる気持ち」を表現することで、安心感や信頼関係が構築されていきます。

2つ目は、身だしなみのマナー。「相手が目の前にいるわけではないから、テレワーク中は服やメイクを手抜きしても大丈夫!」そのように考えている人も多いようですが、実際は正反対です。

例えば、オンラインミーティングは、普段、関係者が一堂に会する会議(リアル会議)よりも、髪の乱れや肌つやが目立ちます。常に画面に集中することになるため、必然的にあなたの顔(上半身)を見続けることになるからです。

「これくらい、わからないよね」と思うことでも、案外、相手が気づいていることが多いのです。知らないうちに、不快な思いをさせてしまっていることもあります。

テレワークといえども、仕事中であることに変わりはありません。普段からきちんとした身だしなみをしておけば、急なオンラインミーティングでも安心して対応できますし、相手が不快な思いをすることもなく、気持ちよく仕事ができます。

また、部屋着から仕事着に服装を替えることには、自分を律するという面から気持ちを引き締める効果もあります。正座をして背筋を伸ばすと、なぜか気持ちが引き締まる、という感覚と似ていますね。

在宅だとなかなか仕事モードにならない、という相談を受けることが多くあります。そういうときには、その状況にマッチする服装の色を選んだり、身だしなみ、姿勢などを整えたりすることで切り替えのスイッチとなるのでおすすめです。

テレワークならではの注意ポイント

3つ目のマナーは、テレワークに使用する機器の準備です。仕事がスムーズに進むだけでなく、仕事相手に迷惑をかけないことにもつながります。

とくにインターネット環境は必須です。無線LANを使っている人も多くいることでしょう。しかし、無線LANは電波が不安定になり途切れてしまうことがあります。大事なミーティング中に途切れてしまうと、会議が中断してしまいます。状況に応じて有線LANに切り替えておくと安心です。

また、パソコンやスマートフォンなど電子機器の「バッテリー残量」にも意識を向けること。外部との連絡を取る機会が多いため、いつも以上にバッテリー切れとなるタイミングが早くなります。

バッテリー切れだと、仕事に支障が出る危険性があります。テレワークの開始前に、ノートパソコンやスマホの充電残量を必ず確認しましょう。「ついうっかり!」の危機を免れるためには、可能な限り電源につないだ状態で作業をすると安心です。

オンラインミーティングで使う「カメラ」や「マイク」「スピーカー」の状況も、事前に確認しておきましょう。カメラに映ったときの自分の姿や画面の明るさ、背景のチェックなどもするとよいでしょう。

いずれも基本的なことですが、環境が整っているからこそ、スムーズに仕事が進みます。仕事相手に迷惑をかけない配慮が大切なのです。

テレワークのルール作りがトラブルを防ぐ

テレワークの環境も人それぞれ。慣れない環境で取り組んでいることから、迷いを生じることも少なくありません。このような中、私が提案しているのは、会社として、もしくは部署、チームとしてそれぞれのルールを作っておくこと。そうすることで、相談相手のいない自宅で一人、「こんなときどうするの」などと迷ったり、悩んだりする時間が減ります。

そして、いらぬトラブルが起こりにくくなります。テレワークに取り組む環境の違いについても、お互いが相手の立場や状況を、思いやりの気持ちで理解することで、その悩みのほとんどは解決できます。


迷いや不安、悩みがなくなることで、モチベーションもパフォーマンスも上がるのです。コロナ禍という状況は、世界中のみなさんが同じ。だからこそ、互いに気持ちよく仕事をするためにマナーある共通のルールを作ることはおすすめです。

ただし、相手を思いやるというマナーの“心”は、世界共通ですが、その表現の仕方である“型、形やルール”は状況や相手に応じて異なります。マナーはTPPPO(Time=時、Place=場所、Person=人・相手、Position=立場、Occasion=場合)に応じて、そのスタイルは変わっていいものなのですから。

今回紹介した3つのマナーも、みなさんが対面した状況に合わせて、心地よく仕事ができるようにアレンジして活用いただければ本望です。

テレワークに限らずビジネスの人間関係において、互いの信頼を築き、それを収益へとつないでいくためには、相手の立場にたって思いやる、心からのマナーコミュニケーションが必須です。