実車が来てしまったら基本的に“返品”は不可

 消費者保護の観点から、契約後一定期間内であれば無条件で契約解除ができる、“クーリングオフ”という制度があるが、自動車購入に関する契約ではクーリングオフは適用除外となっている。

 新車注文書に正式に署名及び捺印、つまり契約が成立してからの無償キャンセルはどこまで可能なのか、そこについては注文書の裏に詳細が明記されているのだが、現実的にはセールスマンおよび販売ディーラーとの個別交渉次第にもなる部分も多い。おおむね初度登録(ナンバープレートがついてしまう)が完了していなければ可能なケースが多いようだ。

 新型コロナウイルスの感染拡大に歯止めがなかなかかからない状況下でもあるので、契約者の生活環境変化(大幅給料ダウンや失業など)リスクも高いので、とくに納期遅延傾向となっている車両の受注について、新車ディーラーではキャンセルをより警戒しているのが現状である。

 それでは購入車両に不具合があった場合には車両交換や返品には応じてもらえるのだろうかというと、それはなかなか難しいといえよう。まずクルマについては車両登録制度(軽自動車は届け出)というものがある。そして、新車の場合は初度登録業務が完了した直後から減価償却がすでに始まるからである。いったん誰かしらの名義で登録業務が完了してしまえば、たとえ未使用であっても売却時には中古車となってしまうので、同型車への交換はまず応じてもらえない。聞いた話では、原則論としては登録が完了したが未使用であっても、おおむね新車価格の7掛けぐらいまで価値が減ってしまうようだ。

 また、新車を引き取る、つまり納車時には“車両確認証”というような書面にサインすることになる。これは、注文した車両および希望オプションが装着しているかの確認だけでなく、車両のコンディションについても現状で納得しているということを確認するための書類でもある。そのため、車両にキズがあったり、メカニカルトラブルがあったとしても、基本的にはその状態で納得して車両を引き取っていることを証明していることにもなるので、原則論としては無条件で車両交換などに応じてもらえることはない。

ディーラーやセールスマン単位での個別対応で解決することも

 とはいえディーラーも客商売なので、できるだけ穏便に解決する手段を模索してくる。そのひとつが当該車両を買い取り、同型車を買いなおしてもらうという方法。しかし、このケースでは、どんなにディーラー側が譲歩しても、法定諸費用など追加的に費用が発生するので、これを許容できるならば車両交換は可能となる。メーカーが国土交通省にリコールを届け出たとしても、それを理由として車両交換となることはない。届け出に従って無償で改修を受けられるだけである。

 過去にリコールまでいかないが、根本的な修理が不可能で乗り続ける限り症状が出たら部品交換で対応するトラブルを抱えたクルマがあったそうだ。メーカー保証期間中は無償交換が可能だが、保証期間が過ぎれば有償修理となるので、担当セールスマンが個人的に当該車を買い取ってトラブル処理をしたという話も聞いたことがある。

 中古車については、たとえ同年式同型車が複数あったとしても、個々でコンディションが異なるので、現物のコンディションを十分チェックして購入するのが大原則。つまり購入後にトラブルが発覚しても、独自の品質保証制度でもないかぎりは原則的には購入時に“見落とした”ということになるので、あとは購入業者の良心を信じて個別交渉していくことになる。

 できるだけ追加の支払い分を発生させることなく、新たに車両購入するというのが現実的な解決法となる。無償交換などがまったくないわけでもないのだが、トラブルが発生したあと、それほど要求もしていないのに、新車への交換がすんなり行われたりしたら、それはそれで何か後ろめたいことがあるのではないかと用心したほうがいいだろう。