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 ただの1年生じゃない──市和歌山の小園健太を見てそう思ったのは、昨年夏の和歌山大会のピッチングを見た時だ。初戦の日高中津戦の8回から登板し、2イニングを無安打、1奪三振で試合を締めた。


今年7月の練習試合で152キロをマークした市和歌山の小園健太

 身長185センチと恵まれた体格から、すでに最速147キロの速球を投げ込んでいたが、なにより印象的だったのがマウンドでの佇まいだ。ポーカーフェイスで淡々と投げ込む姿は、1年生とは思えない雰囲気を醸し出していた。

 だが、秋の大会はほとんどマウンドに上がることなく、野手として出場していた。聞くと、フォームが安定せず調子を落とし、打者に専念したという。

 冬場は体幹トレーニングに時間を費やし、最良のフォームを求めた。例年なら冬場の努力の成果を見ることができるのが春季大会。だが、その機会はコロナ禍によって奪われた。

 半田真一監督は「例年なら3年生だけでなく、2年生も春に経験を積んで、秋につなげる。その機会がない今年は本当に苦しかった」と胸の内を明かす。

 5月半ばまで休校措置が取られ、その間は自主練習がメインだったが、小園は黙々とトレーニングをこなした。6月になると練習試合が徐々に始まり、約1年ぶりの実戦マウンドに立った。

 そんななか、独自大会前の7月上旬、大阪桐蔭との練習試合で自己最速となる152キロをマーク。もともと注目度は高かったとはいえ2年生右腕が150キロ超えをしたことで、関西の高校野球界は騒然となった。それでも本人はいたって冷静だ。

「正直、自分でもビックリしました。自分より格上の相手のほうが燃えるし、力以上のものが出ることがあるので、(152キロは)その結果だったと思います」

 小園はその体格や投げっぷりから速球派と見られがちだが、スピードにそこまで大きなこだわりはないという。

「練習試合で久々に実戦マウンドに立ってからは、冬場に積み上げてきた体の使い方を1カ月くらいかけて戻すことに集中していたんです。一番意識するのはコントロールです。体の使い方がしっかりすれば自然とコントロールはよくなるので、柔軟性や動きをチェックしながら投げていました。だから、練習試合が始まった頃はスピードが上がらなかったんです」

 だが、実戦を積み重ねるごとに自分の"形"が体にインプットされていった。6月下旬の報徳学園との練習試合では、バッターの反応を見ながら投げられるようになり、徐々に手応えをつかんでいった。

 夏の独自大会は3年生がメインで戦ったため小園の登板機会は限られたが、3回戦の智弁和歌山戦は背番号18をつけてベンチ入り。2回から2番手で登板した小園は、多少の力みは見られたが4イニングを投げて2安打無失点。この日の最速は144キロだったが、智弁和歌山の強力打線相手に堂々のピッチングを披露した。

「智弁和歌山戦はコントロールがよかったと思います。自信があるのは変化球のコントロール。とくにカットボールは自信があります。スプリットっぽく落ちるツーシームも使いますが、智弁和歌山戦はその球が有効だったと思います」

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 夏以降、小園は新たなテーマに取り組んでいる。

「いま一番のテーマは"力感"です。8割くらいの力で10割に近いボールをどれだけ投げられるか。余計な力を入れず、威力のあるストレートを投げられるのが理想です。最近の練習試合で自分の投げた動画を見ると、8割くらいの力で速いボールが投げられるようになってきました。とはいっても、150キロ中盤を出したいとか、球速に関してのこだわりはないです」

 性格はマイペース。周囲のことは気にせず、参考にしたり、好きな投手がいるのかを尋ねても「とくには......」と言葉を濁す。


中学からバッテリーを組む小園健太(写真左)と松川虎生

 今後はさらに「152キロ右腕」として注目を集めるだろう。それでも小園に浮かれる様子はない。

「自分は変化球があってのストレートだと思っています。変化球をしっかり投げられてこそ、ストレートが生きてくる。練習試合では、ボールを試すなかで四球を出すことはあるかもしれませんが、公式戦ではコントロールを意識してやりたい。守備からリズムをつくって攻撃につなげていけるピッチングができればいいですね。とくに自分はエースなので、この秋は負けないピッチングをすること。県で優勝して、近畿大会でも1位になって神宮大会にいく。それくらいの気持ちでいます」

 正捕手の松川虎生(こう)とは中学の貝塚ヤング時代からバッテリーを組み、今年で5年目になる。ピッチングの組み立てはほぼ松川に任せており、「首を振ることはほとんどない」と小園は言う。

 全幅の信頼を寄せる女房役とともに、"152キロ右腕"ではなく"負けない右腕"として、この秋、そして高校野球界を席巻する。