副業コンサルはなぜ本業コンサルから、その存在を軽視されがちなのか?(写真:EKAKI/PIXTA)

いま、空前の副業ブームです。2018年に厚生労働省が会社員の副業を促進し、「副業元年」と言われました。さらに今年、コロナによる収入減少を受けて副業を始める会社員が増え、副業はすっかり市民権を得ました。

副業というと、ウーバーイーツの配達員のように本業と関係ない仕事を思い浮かべますが、本業で培ったスキル・経験を活かせるコンサルタントや講師も人気です。

私は中小企業診断士としてコンサルタント・研修講師をしていることから、会社に勤務している中小企業診断士(企業内診断士)から副業の相談を最近よく受けます。今回は、副業でコンサルタントや講師をする上でのポイントを、3つの実例を交えて紹介しましょう。

副業でコンサルを始める人の心理

なぜ副業ブームでコンサル業に注目が集まるのか? その理由はスキル・経験を活かせるだけでなく、初期投資や大掛かりな準備が不要、低リスク、本業にもプラスになる、体力的に楽、といった点からでしょう(後で紹介する講師も同じです)。

ただ、手軽に始められる分、参入者が多いのが難点。無数のプロと副業がひしめく中で成功するのは、容易なことではありません。やはりポイントになるのは、集客です。

<ケース1:副業コンサルを始めた水上さん>
大手システム会社でSEをしている水上さん(仮名)は、中小企業に対しシステム開発やネットワーク構築のアドバイスをする副業コンサルティングを始めました。社内ルールで勤務先の顧客や関係者と契約することはできません。ただ、勤務先の顧客は大手企業で、関係する中小企業がたくさんあります。水上さんは中小企業を紹介してもらい、顧客開拓を進めました。水上さんが副業を始めて2年。現役のSEから実践的なアドバイスをしてもらえるということで評判が上がり、今では毎月50万円以上の副収入を得ています。

では、水上さんのように会社のネットワークを使えない、自分自身に広いネットワークがないという人はどうすれば良いのでしょうか。

最近、副業ブームを受けて副業を紹介するサイトがたくさん誕生しており、サイトに登録するのも一つの方法です。ただ、サイトにはたくさんの副業希望者が登録していますし、利用者は「過去の実績」を重視してコンサルタントを選ぶので、新たに副業で始めたコンサルタントがサイトで受注するのは容易ではありません。やはり、手間・時間はかかりますが、自分で広告し、顧客開拓するのが賢明でしょう。

広告というと世はSNS全盛。しかし、コンサルティングの顧客は企業なので、SNSはあまり効果がありません。しっかりしたホームページを作り、サービス内容や実績などを記載して、専門性をアピールすることが必要です。さらに、専門誌への記事の寄稿、無料セミナーの開催などにも取り組みたいところです。

「何でもやります!」は存在感をなくす

専門家としてのブランディングも大切です。顧客はコンサルタントに、専門スキルを求めます。コンサルタントは、自分の専門性を明確にしなくてはいけません。「私は生産技術のプロ。工程改善ならお任せ」といったブランディングができると、断然有利。

ところが、(副業に限りませんが)仕事欲しさに、「何でもやります!」と手を広げるコンサルタントが目立ちます。「生産技術のプロ」のはずだったのに、「マネジメント教育も任せてください」「市場調査もお手伝いしますよ」とアピールする具合です。

手を広げると、とりあえず顧客・収入は増えます。しかし、やがて「何をやっているのかわからない」「何でも屋」という市場の評価になり、長い目で見て存在感を失ってしまいます。

また、コンサルタントは、ある企業で案件を実施したらそれで終わりにせず、その社内の他の問題を探って、業務を広げていくという動きをします。ただ、そういう動きが逆効果になる場合もあります。

<ケース2:顧客から反感を持たれた須藤さん>
電機メーカーの人事部に勤務している須藤さん(仮名)は、1年前からある建設会社で人事評価制度を改定するコンサルティングをしていました。コンサルティングを通して須藤さんは、同族経営の建設会社の保守的で活力に欠ける組織風土が問題だと考えました。そこで経営陣に「組織体制や組織土を改革するプロジェクトをやりませんか?」と次のコンサルティングを提案しました。ところが、経営陣からは「そういうことには関心ありません」という返答でした。同時に、まだ進行中だった評価制度改定のコンサルティングも打ち切りになってしまいました。

経営陣は、須藤さんの提案の何が不満だったのでしょうか。提案内容よりも、人事という須藤さんの専門領域を超えて経営全体の提案をしたことに対し、経営陣は「経営をしたことがない一介のサラリーマンが偉そうに」と反感を持ったようです。

一般に、コンサルタントにとって社内展開は大切です。ただ、時間・スキル・人脈などリソースが限られる副業コンサルタントは、手を広げ過ぎず、専門領域でブランド価値を高める方が良さそうです。

講師についても少し触れておきましょう。講師も、コンサルタントと同じ理由で人気の副業です。講師ビジネスをする上で知っておきたいのが、セミナーと研修の違いです。

<ケース3:「2年間受注ゼロ」の小平さん>
専門商社に勤務する小平さん(仮名)は、得意の英語力を生かして異文化コミュニケーションの研修講師をしようと、営業エージェントに登録しました。しかし、登録から2年経っても、受注実績はゼロのままです。1年目、営業エージェントを通して企業からの引き合いが3件ありました。しかし、いずれも内容や日程の調整がうまく行かず、失注してしまいました。3件目が失注に終わってからこの1年間、まったく引き合いが来ていません。

なぜ小平さんは、営業エージェントから見放されたのでしょうか。致命的なミスは、そもそもセミナー講師でなく、研修講師を目指したことです。人前であるテーマについて話すという点でセミナーと研修は似ていますが、まったく別物です。

セミナーは、講師の特殊な経験やスキルを一方的に受講者に伝えます。主催者と内容をすり合わせる必要はありません。個人の受講者が対象で、平日夜や土日に開催するのが一般的です。したがって、副業の講師でも十分に対応することができます。

一方、研修は、企業が直面する問題を取り上げて、講師が社員の受講者に解決のヒントを提供します。人事部など主催者と綿密に内容・進め方をすり合わせします。会社業務の一環として平日の昼間に開催します。したがって、平日夜と土日に活動する副業の講師が対応するのは困難です。

小平さんは、副業ならセミナー講師を目指したほうが良かった。あるいは、研修講師にこだわりがあるなら、独立開業したほうが良かったのかもしれません。

副業コンサルは使えないのか?

先日、外資系コンサルティングファームの幹部をしている知人と副業コンサルタントについて話したところ、彼は「おいおい、そういう“なんちゃって”の人たちが(俺たちと同じ)コンサルタントを名乗らないで欲しいね」と鼻で笑っていました。彼に限らずたいていのプロコンサルタントは、副業コンサルタントに批判的です。

ただ、私の考えは違います。すでに現場を離れた頭でっかちのプロコンサルタントよりも、現場で実務を担っている副業コンサルタントの方が、より実践的なコンサルティングを提供できる可能性もあります。これから副業コンサルを始める方は、なんちゃってコンサルではなく、専門性を発揮し、企業の発展に寄与できるコンサルを目指してほしいものです。