コロナ禍で激動した株価。テレワークで増えた在宅時間に取引する人も急増した(デザイン:藤本 麻衣)

「企業の実力とは関係なく株価が下がっていたので『今なら儲かる』と考えて、3月中旬に投資を始めた。含み益は足元で(投資額に対し)60%。時間をかけず投資額を倍にしたい」

そう話すのは会社員の30代男性。証券口座は以前に開いていたが、「投資の知識があまりないし負けたくもない」と、売買はしていなかった。そこに起きたのが新型コロナウイルスの感染拡大を受けた世界的な株価の急落。男性は昨年末まで株価が右肩上がりだった銘柄の中から、コロナ禍でもビジネスモデルが影響を受けないと思う企業を選び、医療情報サービスのエムスリー株などに投資した。

個人の資産運用はコロナ影響でどう変化したのか。

『週刊東洋経済』9月19日発売号は、「コロナ時代の株入門」を特集。インターネットを使った独自アンケートを8月下旬から9月上旬に実施したところ、回答者約6000人の2割がコロナ禍を機に資産運用を始めたり再開したりしていた。「日経平均が大幅下落し資産運用を始めるいい機会と思った」「コロナ禍で株が激安セールだったので追加投資した」(ともに40代男性/会社員)など、株急落を投資の好機ととらえた人は多かった。

外出が減り投資を勉強

そのほかに目立った回答は、「在宅時間が増え、新聞をじっくり読んだり、ネットで情報を目にすることが増えたりして、資産運用に興味がわいた」(50代女性/主婦)というもの。コロナがもたらした生活環境の変化は投資意欲に影響を与えたとみられる。


6月に投資を始めた30代女性の場合、コロナ感染拡大で休日の外出や趣味だった旅行を控えることになり、浮いた時間を投資の勉強に充てた。管理栄養士として職に就いているが満足できる給与水準ではないため、第2の収入源となるものをちょうど探していたところだった。

『会社四季報』の独自業績予想などを参考に100円ショップのワッツ株を購入。株価が調整局面に入ったところで売り、現在は野菜用ドレッシングなどを販売するピエトロ株や菓子大手のブルボン株を保有する。投資対象は「商品・サービスを利用している会社」だ。分散投資という点で、金価格に連動するETF(上場投資信託)も持つ。

コロナ禍の中で生き方を見つめ直し、投資を積極化した人もいる。

30代男性は最近、地方で暮らしていた祖母を亡くした。男性の父が看取ったが、病院ではコロナの影響で面会が制限、東京からの移動もままならなかった。父の様子を見聞きし「時間は有限だと感じた」と話す。体力のあるうちに限られた人生を全力で過ごすため、投資によって経済的に自立し早期退職を目指すとの思いを一層強くしたそうだ。

投資を積極化した理由は、目先の収入減を補うためという声も多い。「コロナで仕事が休業に。観光業なので収入が減ると思った」(30代女性/会社員)、「コロナ禍でパート先のシフトが減らされた」(40代女性/パート)など、切実な内容だ。

試される投資スタンス

アンケートでは、年初から直近までの含み損益を含めた運用成績も尋ねた。回答者のうちプラスの人は39%、マイナスの人は32%でほぼ拮抗している。

「大幅下落した株価が戻り始めているのに、やらないの?」という妻の言葉に背中を押され、投資を始めた30代男性。日本株のほかに、「Zoom」を運営するアメリカのズーム・ビデオ・コミュニケーションズの株などコロナ禍で株価の上がった銘柄を保有するが、運用成績はマイナスだ。

理由としては、投資スタンスがまだ定まっていないことが挙げられそうだ。男性は、「大きく下がったタイミングで売ってしまったとか、もっと上がるかなと思って買ったら下がったとかでマイナスになっている」と説明する。

この男性のようにアメリカ株に狙いを定めた個人は多い。そのような人にとって気が気でないのは9月に入ってからのハイテク株下落。だが投資歴35年、現在は定年後生活を送る60代男性は、「足元の下落は調整。5年後に上がっていればいい」と鷹揚に構える。

強がっているだけでは、と一笑に付せない。なぜならこの男性は、20年以上前からアップル、アマゾン・ドット・コム、マイクロソフトに投資し、資産を増やしているからだ。

長期的に成長が見込める企業であれば、足元の利益が赤字でも投資している。コロナ禍の今、目を付けたのは、テレビ動画配信プラットフォームのROKUや、企業向けID管理システムをクラウドベースで提供するOKTAといった企業だ。ともにアメリカのナスダック市場とニューヨーク証券取引所に上場している。

アンケートでは、「株の売り時については悩む」(30代女性/専業主婦)など、初心者共通の悩みが多く寄せられた。これに対する60代男性の解は、「『株価』を買っていると、安く買って高く売ることに気をとられる。企業の将来性や成長を買え! その結果として資産を増やせる」。覚えておいて損はない言葉だ。

『週刊東洋経済』9月26日号(9月19日発売)の特集は「コロナ時代の株入門」です。