(写真:日刊スポーツ新聞社)

仕事柄、日ごろさまざまなメディアに出入りしていますが、ドラマ、バラエティ、CM、雑誌などを手がけるスタッフの間で、「今、最もキャスティングしたい」と言われているのは、松本まりかさん。実際、コロナ禍に見舞われている現在も、芸能界トップクラスの幅広い活躍を見せています。

最近の主な活動を挙げていくと、ドラマでは「妖怪シェアハウス」(テレビ朝日系)と、「竜の道 二つの顔の復讐者」(カンテレ、フジテレビ系)に同時出演。

バラエティでは、今月だけでも7日の「人生が変わる1分間の深イイ話」(日本テレビ系)、9日の「あいつ今何してる?」(テレビ朝日系)、15日の「田舎で1000万円プレイヤー」(フジテレビ系)に出演。さらに、12日には大型音楽特番「THE MUSIC DAY」(日本テレビ系)でアーティストに交じって出演し、テレサ・テンの名曲「愛人」を歌い切りました。

テレビだけでなく雑誌からも引く手あまた

声優としての実績も豊富な松本さんには声の仕事も多く、「中居大輔と本田翼と夜な夜なラブ子さん」(TBS系)でナレーターを務めているほか、5月にはコロナ禍の緊急特別番組「あたらしいテレビ 徹底トーク2020」(NHK)でもナレーションを担当。7月には清川あさみ監督のオンライン動画「人魚姫 第1〜3部」(YouTube)の朗読も務めました。

CMでは、「ソフトバンク」の白戸家シリーズに出演中で、お父さん犬に声をかけて連絡先交換しようとするカフェ店員を演じていますし、9月から「ハインツ・大人むけのパスタ」のブランドアンバサダーに就任しました。

雑誌からも引く手あまた。9月の『プレイボーイ』で2号連続グラビアを飾ったほか、この1カ月あまりで『美的』『「MAQUIA」『anan』『GOETHE』にも出演。6日には読売新聞でも特集が組まれ、7日にはデジタル写真集「夏の魔物」もリリースされました。

テレビ出演時やネット記事では「怪演女優」なんて記号的な紹介をされがちですが、それはあくまで一部の姿。ドラマ、バラエティ、音楽番組、声の仕事、CM、雑誌、グラビアなどで活躍する芸能界屈指のオールラウンダーであり、年齢性別を問わず人気を集める存在なのです。

今月12日に36歳の誕生日を迎えた今、松本さんは、なぜこれほどのオールラウンダーとなり、幅広い人気を獲得する存在となりえたのでしょうか。彼女の言動を掘り下げていくと、ビジネスパーソンにも参考になり、励みになりそうなキャラクターが見えてきます。

現在、松本さんは、「これ以上、振り幅の大きい女優はいない」と思わせるほど、変幻自在の演技力を見せています。前述した「妖怪シェアハウス」では「四谷怪談」のお岩さんを演じたほか、ヤマンバギャル姿などもそつなくこなし、「竜の道」では性悪な社長令嬢が少しずつ心を開いていく姿を熱演しました。

また、8月15日には「しくじり先生」(テレビ朝日系)にセーラー服とツインテール姿で出演。違和感のなさに驚く声があがっていましたが、彼女にしてみればこの姿も演じることの1つだったのではないでしょうか。今年は3月25日の「Premium Music 2020」(日本テレビ系)では松任谷由実さん、4月17日と7月25日の「あざとくて何が悪いの?」(テレビ朝日系)では思わずイラッとするあざとい女性を演じるなど、振り幅の広さを披露してきました。

変幻自在の活躍ぶり

さらに、男性誌のグラビアでは壇蜜さんに勝るとも劣らない大人の色気を見せ、女性誌では「女性が憧れるカッコイイ女」のイメージが浸透。これほど変幻自在の活躍ぶりを見る限り、松本さんはどの現場でも「女優は誰かを演じるのが仕事」という本分をまっとうしているようにしか見えないのです。

では、そのプロ意識の高さは、どこから来るのでしょうか。松本さんは中学生時代にスカウトを受けて芸能界入りし、モデルや女優として活動をはじめたものの、順調なステップアップを重ねたとは言えず、長きにわたって雌伏の時を過ごしていました。

2018年のドラマ「ホリデイラブ」(テレビ朝日系)で脚光を浴びるまでに費やした年月は、実に約18年。このところ「芸歴20年のうち18年間、下積みを重ねた苦労人」として紹介するメディアが多いように、継続の大切さを教えてくれる新たなシンボルのようになっています。

事実、「あいつ今何してる?」に出演した中学生時代の元カレが、「まりかさんから続けることの大事さを教えてもらった。勇気をもらったし、刺激になっている」と語っていました。その言葉を聞いた松本さんの目には涙……。「つらい時期を耐えて、続けてきた甲斐があった」と感じていたのでしょう。

松本さんを10代・20代のころから知っている業界関係者やファンたちは、「当時から魅力的だった」と言っているように、資質や実力があっても成功するとは限らないのがビジネスの世界。「売れないことに飽きた」と冗談交じりでコメントしたことがあったように、迷い、悩み、苦しんでも、決してあきらめず、逃げ出さずにチャンスを待ち続けた結果が現在の成功につながっているのです。

そんな松本さんは、「実力はあるのにチャンスが来ない。思っていたほどの評価を得られない」とくすぶっているビジネスパーソンにとって、勇気をもらえる存在ではないでしょうか。

コンプレックスの持つ可能性を示唆

松本さんを語るうえで忘れてはいけないのは、「アニメ声」と言われる甘い声。実際、現在も続くアニメ「蒼穹のファフナー」や、ゲーム「FINAL FANTASY X」の声優としても活動していますし、かつては女優よりも評価を得ていました。

しかし、その声は“女優・松本まりか”にとってはコンプレックスであり、最大の悩みだったのです。「アニメやゲームならいいけど、ドラマや映画では浮いてしまう」「男性に媚びるような声とみなされて役の幅が広がりにくい」「オーディションで『この声では使えない』と言われた」などのつらい経験を重ねていました。現在でも、「『この声じゃなかったら』と考えてしまうことがある」そうですから、相当なコンプレックスなのでしょう。

ただ、松本さんは女優としてブレイクしたこの2年弱、悪女、犯人、愛人、幽霊、妖怪などの“悪く、強く、怖い女”を何度も演じてきました。「甘い声とは、真逆の印象がある役も演じられる」ことを自ら証明したのです。人々が持つ印象とは真逆の役を演じられたのですから、もはや「どんな役も演じられる」と言っても過言ではありません。しかも「“悪く、強く、怖い女”を甘い声で演じられる」という唯一無二の存在となりました。

そんな松本さんからの学びは、コンプレックスの持つ可能性。彼女の甘い声を生かした成功は、「本当にコンプレックスを持つべきものなのか?」「自分の武器にならないか?」「実はチャンスなのではないか?」といったん先入観を捨てて、可能性を探ることの重要性を示唆しているのです。

半信半疑でもいいから、まずは自分のコンプレックスを「武器」と言い聞かせてみる。周囲の反応を見て、よほど悪くなければ続けてみる。すると次第に、「〇〇なのに〇〇」というポジティブなギャップにつながり、唯一無二の存在に近づいていく可能性があるのです。

基本的に大抵の物事は表裏一体であり、「100対0でよくない」「絶対に直すべき」ということはそれほどありません。松本さんが「甘い声なのに、悪い、強い、怖い」というポジティブなギャップを武器にできたことと同じように、見た目、性格、経歴などのコンプレックスも弱点とは決めつけられず、武器に変えるチャンスがあるのです。

松本さんはかねて歌が苦手なことも明かしていましたが、前述したように先日、大型音楽特番「THE MUSIC DAY」で人気アーティストの中に交じって歌唱しました。驚かされたのは、歌うことに苦手意識があったうえに、生放送の番組だったこと。VTR出演も可能だったにもかかわらず、あえて生放送での歌唱に挑戦する姿勢は、「成功を収めている今だからこそ挑んでいく」というたくましさを感じさせました。

松本さんはこの挑戦について自身のツイッターに、「こんな事が私の人生で起こるなんて。そう思いました。粛々と、取り組ませていただきました」とつづっていましたが、ハードルの高い挑戦ほど、おのずと練習量は増えていくもの。数えきれないほど「愛人」を歌い込み、それでも「こんなの聴かせたくない」と悩みながらも、さらに練習を重ねて本番を迎えたようです。

成功を重ねながらコンプレックスや苦手を克服

そんな松本さんの歌唱が大きな反響を集めたのは必然であり、彼女自身が求めていた「表現者としての可能性を広げたい」という目的は達成されたのではないでしょうか。成功を重ねながら、コンプレックスや苦手なものを1つ1つ克服しているのですから、今後も活躍の場はますます広がっていくはずです。

9月15日に放送された「めざましテレビ」(フジテレビ系)の出演時にも、いかにも松本さんらしく、成功を収めるビジネスパーソンにも共通するコメントがありました。

“怪演女優”と呼ばれることについて聞かれた松本さんは、「怪演しているつもりはないんですけれど、そういうふうに言っていただけるのは、すごくうれしいですし、『面白いな』と思います」とコメント。この言葉から感じるのは、「仕事の評価は自分ではなく他人がするもの。ただ、それをどう思うかは自分次第」というスタンス。だからこそ松本さんは、どんな評価を受けたとしても、「そうなのか。じゃあ、次はこうしてみよう」などと進化につなげられるのではないでしょうか。

さらに、「悪女の役が多いため女性から反感を買うのでは?」と聞かれた松本さんは、「反感は、とても買ってると思うんですけど、でも『1周回って好き!』とか『すごく嫌いだったのになんか好きになってきた』と言われるのはうれしいですね」とコメントしていました。

この言葉から感じるのは、物事を点ではなく線でとらえられる柔軟性。「反感を買っている」という点でとらえて感情的になるのではなく、「でも『1周回って好き』『なんか好きになってきた』という人もいるから大丈夫かな」と線でとらえることで、ストレスをため込み、活動にブレーキがかかることはないのでしょう。やはり10代・20代のときから試行錯誤を続けてきた成果が30代の今、発揮されているのです。

芸能人だけでなくビジネスパーソンのみなさんも、1つの評価や1回の人事を点でとらえて怒り狂ったり、どん底まで落ち込んだりしないことが大切。松本さんのように線でとらえられたら、メンタルのコントロールができるうえに、次のチャンスに備えられるものです。

同じ30代中盤の田中みな実との共通点

松本さんのように多岐にわたる活動をする人は、「出る杭は打たれる」という言葉があるように、不特定多数の人々から攻撃を受けるリスクを抱えています。SNSが浸透した現在では、目立つことが誹謗中傷につながりやすくなり、慎重に仕事を選びはじめた芸能人は少なくありません。その点、松本さんはまったく恐れることなく、前述したさまざまなオファーに挑んでいるのです。

そんな松本さんとほぼ同じ柔軟性を持っているのが、同じ30代中盤の田中みな実さん。田中さんはフリーアナウンサーとして進行役を担う仕事のほか、バラエティ、ドラマ、写真集など、多岐にわたる活動を見せています。

さらに、「あざとかわいい」キャラクターを演じるのがうまいことや、かつて好かれていなかった同性から「1周回って好き」と言われていることも一致。「出る杭は打たれることを承知で、新たなことに挑戦していく」という2人のスタンスは、令和という時代をけん引する女性像なのかもしれません。