失敗しないDeNA外国人選手獲得戦略(後編)

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 今シーズンの横浜DeNAベイスターズの目玉となった外国人補強は、何といってもタイラー・オースティンだろう。アメリカへ渡った筒香嘉智に代わる大砲として白羽の矢が立ったメジャー通算33本塁打のパワーヒッターだ。

 ケガにより戦列を離れることもしばしばあるが、オープン戦から練習試合、さらに開幕後に見せたインパクトのある打撃は、チームに大きくプラスになっていることは間違いない。


メジャー通算33本塁打の強打者、タイラー・オースティン

 近年、DeNAが獲得した外国人選手としてオースティンはビッグネームの部類に入るが、獲得に至るまでの経緯をチーム戦略部部長の壁谷周介氏が教えてくれた。

「ソトと同様に長年追い続けた選手です。国際担当スカウトのルイス・ロペスがチェックしはじめたのは2015年、ヤンキースの2Aのトレントン時代からです。その後、オースティンはステップアップし、2016年にメジャーデビューするのですが、当時はとてもではありませんが、手を出すことができる選手ではありませんでした」

 オースティンはメジャー初打席でホームランを放つなど華々しいデビューを飾るが、その後、ヤンキースの分厚い選手層の壁に突き当たり、出場機会を減らしていく。徐々にではあるがDeNAに獲得のチャンスの芽が出てくる。

「2018年にオースティンはツインズにトレードされるのですが、たまたま編成部長の進藤(達哉)さんと一緒に別のツインズの選手を視察した際、彼も見たんです。ロペスは『オースティンはトレードされたから来年ぐらいにチャンスがあるかもしれない』と。その時は『獲れたらいいね』というぐらいだったのですが、翌2019年にジャイアンツにトレードされ、その夏にリリースされてブルワーズとマイナー契約を交わしました。

 彼の動向はずっとチェックしていたわけですが、マイナー契約なら本当にチャンスがあるかもしれないと。それで再びアメリカに渡り、ブルワーズの3Aであるサンアントニオのデビュー戦を視察しました。すると、大活躍をして『これはいいぞ』と。そして昨年のオフにブルワーズが放出してFAになると、すぐに我々が獲得のオファーを出したわけです」

 ただ来日前、オースティンは右投手や変化球の対応に難があると言われていたが、そういった不安要素が飛び交うなか、球団としてどこまでの可能性を見出していたのだろうか。

「正直、オースティンに関しては、あまりネガティブなものは感じていませんでした。表面的なスタッツだけを見れば、たしかに巷で言われているとおりかもしれません。ただ、スカウトのロペスは広角に打てる技術があるし、選球眼も優れていると言う。

 ではなぜ、メジャーで数字が悪かったといえば、彼はレギュラーとして毎試合出場する選手ではなく、おもに代打として一線級の投手と対峙せざるを得ない立場でした。そのような状況で目を見張るような数字を残すのは難しい。ただ、ロペスは3Aでフル出場する彼を見て評価を下しています。事実、オースティンを数試合見た進藤さんは、スイングスピードは速いし、ボールの見極めができている。日本の野球に対応できるだろうと判断しました」

 さらにITを活用したデータ分析を担うR&Dグループを持つチーム戦略部ならではの評価も獲得への後押しとなった。

「2016年から3Aのトラックマンデータなどを入手できるようになり、アナリティクスの分野においても分析が進んでいます。打球速度や強い打球の比率、どの方向へ飛ばすかすべてわかり、表面的なスタッツだけではない部分も分析可能になりました。とくにオースティンの場合はそのあたりの数字がメジャーでもトップクラスだったので、これはいけるのではないかと判断しました」

 昔ながらのスカウトの眼力とアナリティクス。このふたつがDeNAの外国人選手獲得のカギとなっている。

「これを我々は"ブレンディング"と呼んでいます。まずはスカウトの目線を優先し、アナリティクスを融合させる」

 また、オースティンはハングリー精神も旺盛だ。キャンプの時、本人に「過去の栄光やプライドを捨てなければ、日本で成功するのは難しいと言われているが?」と尋ねると、「過去のことは関係ない。今ある状況を受け入れ、自分のやれることを精一杯やるだけ。日本の野球をしっかりと学びたい」と答えてくれた。

 DeNAは黎明期に、現在監督を務めるアレックス・ラミレスをはじめ、トニ・ブランコ、ホルヘ・ソーサ、アーロム・バルティリス、そしてホセ・ロペスなど、NPBで実績のある外国人選手を積極的に獲得してきた。

 これは当時の高田繁ゼネラルマネージャーの意向であり、コアになる日本人選手が少ないなか、「外国人選手は失敗できない」という理由から、多少コストがかかっても実行してきた施策である。だが時代は変わった。

「予算が潤沢な球団であれば、日本で活躍した外国人を獲得するのは可能でしょうが、それでは持続性が生まれません。DeNAはそういった方針の球団ではありませんし、戦略として自前で発掘をして、予算内に収め、持続性を生むことが求められます。その流れになったのは、2016年から2017年あたりだと思います」

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 そしてもうひとつ、球団が外国人選手に関して新たに取り組んでいるのが"育成"だ。

 DeNAは2018年からドミニカ共和国でトライアウトを行ない、有望な若い選手を発掘。昨季はドミニカ出身のレミー・コルデロ(投手)、今季はベネズエラ出身のジョフレック・ディアス(投手)、ドミニカ出身のフランディー・デラロサ(野手)と育成契約をしている。いずれも20代前半のダイヤの原石であり、今後の成長に期待が高まる。

「ビジネスでいえば、オースティンのように日本人だけでは足りない部分を外から持ってきて戦力化するという意味から"M&A"、また育成に関しては、小さく投資して大きく花を開かさえようということで"インキュベーション"。今後は、この両輪をもって外国人選手戦略を進めていけたらなと考えています」

 時代や情勢は変化するものであり、前提が覆ることも当然ある。今季はメジャーの情勢もあり、アダム・ジョーンズ(オリックス)やアルシデス・エスコバー(ヤクルト)といった実績のある選手が来日している。

 以前とは変わりつつある外国人選手の獲得状況において、DeNAはどのように対応していくのだろうか。壁谷氏は考察を深める。

「たしかに、ソフトバンクがMLBドラフト1巡目のスチュアートを獲得するなど、以前では考えられないようなことが起きています。またメジャーも若返りが進み、脂の乗りきった選手が日本に来ることもあります。ですから、そこは凝り固まったビジョンではなく柔軟に対応していきたいですね。常に国際担当スカウトと議論しながら、いま何が起きているのかしっかり把握していきたいです」

 また今年はコロナ禍の影響もあり、スカウティングの主な市場であるマイナーリーグがストップしている。これは来季以降にどのような影響が出ると考えられているのか。

「今の状況はチャンスであり、ピンチでもあります。チャンスというのは、プレー機会を求めて、これまで以上に日本に来たがる選手が増える可能性があります。ピンチは、ご存知のとおりアメリカでのスカウティング活動が満足にできないということです。渡米することができず、ビデオでしかチェックすることができません。今後を考えれば不安はありますが、いろいろと方策を練っていきたいと思います」

 条件は他球団も一緒であることを考えれば、これまで革新的なアイデアで行動力を示してきたDeNAなら、きっと打開策を見つけるに違いない。壁谷氏の言葉にも力が入る。

「先程も言ったように、我々の方針はスカウティングとアナリティックをブレンディングしていくこと。そこは変わりなく武器にしながら変化にも対応し、チャンスをつかんでいきたいですね」

 ピンチをチャンスに変えることができるのか。DeNAの外国人獲得戦略の今後がさらに楽しみだ。