ゲーマーが使うことを想定して作られた家具「ゲーミング家具」が注目されています(写真提供:ビーズ株式会社)

コロナ自粛が長期化する中、テレワーク環境を整えようと、オフィスチェアやデスクが売れている。売り上げを伸ばしている家具ブランドの1つが、「バウヒュッテ」だ。ネット上で見かけたことがある人もいるのではないだろうか。

実はこちら、オフィス家具ではなく「ゲーミング家具」のブランドだ。「ゲーミング家具」とは、ゲーマーが使うことを想定して作られた家具のこと。昨今ゲーム業界が盛り上がるとともに浸透しつつある家具カテゴリーだ。しかしなぜ、ゲーマーをターゲットとする家具が、テレワーク需要で注目されたのだろうか。

ゲーマー用の「ぼっちてんと」が人気化

昨今、eスポーツや家庭用VRが話題となるなどゲームへの注目度が高まっており、長時間プレイするゲーマーが疲れにくいよう設計された「ゲーミングチェア」が人気だ。

そんな流れにいち早く目をつけた同社は、2016年、「ゲーミング家具」をテーマにチェアを皮切りとして座椅子、デスクを発売した。すると、ツイッターを中心に話題となって狙いどおりゲーマーにヒット。「毎年倍々のペースで売上げを伸ばしてきた」と同ブランドプロデューサーの川瀬隼利さんは説明する。

特徴は160にも上る品ぞろえだ。収納ラックやチェアマットのほか、眼鏡やクッション、衣類など、デスク周りに必要なモノが網羅されている。

コロナ自粛の中でとくに注目されたのが、「ぼっちてんと」(参考価格 1万500円、税抜)だ。デスクを丸ごと覆うことができる室内用テントで、遮光性の高い生地を使用しており、作業に集中できる暗室空間を作れる点が特徴。


コロナ禍で注目された「ぼっちてんと」。閉所への愛から生まれた商品だが、テレワーク需要と合致してヒット(写真提供:ビーズ株式会社)

暗闇でゲームに没頭したいゲーマーの定番人気商品だったが、急遽テレワークとなり仕事に集中できない人や、オンライン会議の際にこもりたい人が飛びついた。4月は前年比3倍の売り上げを記録したという。

幅130cm×奥行130cm×高さ150cmのサイズなので、よくある幅120cm×奥行60cmくらいまでのデスクなら余裕をもって囲うことができる。天井部分はファスナー式で開閉でき、両サイドにメッシュ窓がついており、通気性も考慮されているのでエアコンがある部屋なら夏でも熱中症になる心配はなさそうだ。

ポップアップ式で設営も簡単らしく、たためば直径60cmの円形に収まるため収納にあまり悩まずにすむ点も、突如在宅勤務になった人にとっては導入しやすかったのではないだろうか。

同社によれば「子どもが自宅にいて仕事に集中できない」と購入するビジネスパーソンが結構いたらしいが、納得だ。実は筆者も在宅勤務ハプニングを起こしている。よりによって同社にオンライン取材を行っているときだったのだが、小学2年生のわが息子が乱入して一時中断となってしまったのだ。緊急事態宣言中は別部屋でおとなしくしてくれていたのに「なぜ?」と後から問い質したが、息子は謝るばかりで理由はわからなかった。

しかし、よくよく考えたら筆者がオンライン取材を行う部屋は親子の寝室で、息子の部屋でもある。しかも筆者は平時の執筆はシェアオフィスで行っており、息子からすれば「自粛要請は解けたしママは外に事務所があるのに、僕の居場所でもある部屋を仕事で占領する意味がわからない」のかもしれない。

同商品があれば、「寝室には入ってもいいけど、このテントの中には入ってきちゃだめよ」と立ち入り禁止エリアを明確に示せるので息子も仕事への理解がしやすくなるかもしれない。こうした強力な空間仕切り力を期待して購入した子持ちワーカーは多かったに違いない。

「日本人サイズ」と機能性が改めて注目された

ほか、デスク商品も売り上げが伸びたという。テレワーク需要が高まったので想定範囲内ではあるが、おそらくサイズ感や機能性が注目されたのだろう。同社は「日本人向けの設計」を意識している。例えば、既存の人気ゲーミングチェアは欧米製が多かったこともあり、同社の椅子は身長154cm~184cmの人が使いやすい低座面にするなど、当初から小柄な日本人の体格に合ったサイズ感にしている。


「ゲーミングデスク」。発売当初からのロングセラー商品だが、コロナ禍で改めてサイズ感や昇降式の利便性が注目された(写真提供:ビーズ株式会社)

使い心地にもこだわる。「ゲーミングデスク」(120cm幅商品参考価格 2万7750円、税抜)がいい例だ。デスクの高さは、1970年代に定められたJIS規格の70cmや、日本オフィス家具協会が日本人の体格向上に合わせ推奨する72cmなどいくつか基準値がある。

しかし、同社はパソコンでの作業が主流の現代ではもっと低い方が体はラクであると考え、体格や作業内容に応じて59cm〜80cmの間で高さを変えられるこの「ゲーミングデスク」を開発した。推奨身長は手書き作業で140cm〜190cm、キーボード作業で150cm〜202cmと、10歳頃から大人まで幅広く使えるようになっている。

発売当時からロングセラーとなっているが、今回のテレワーク需要が高まった中で、4月の売上げは前年比2倍となったという。疲れにくいデスクを求め、たどりついた人も多かったのではないだろうか。


コロナ禍でとくに売れたデスク商品、「スタンディングデスク」(写真提供:ビーズ株式会社)

「ぐらつかない」「収納力」に高評価

「スタンディングデスク」(70cm幅参考価格 1万7250円、税抜)は前年比4倍とさらに売れた。メールチェックは立って行い、書類作成は座って集中するなど、気分や作業内容に応じて高さを75.5cm〜117.5cmの範囲で変えられるデスクだ。この手のタイプはとくに今回家具市場全体でニーズが高まったアイテムの1つだろうが、中でも同社の商品は総合点が高いということで支持を得たのではないかと思う。

例えば、キーボードスライダーが付いているほか、両サイドのパンチング部分に電源タップを固定できたり、背部のパイプにS字フックなどを駆使すればゴミ袋や小物を引っ掛けたりすることもでき、地味に収納力が高いのである。底板やクロスバーを施すほか、ネジで水平調整ができる仕様も、ぐらつかないデスクが欲しい人に評価されたのではないだろうか。

また、それなりにしっかりした作りのデスクは幅100cm以下のラインアップがないことも多々あるが、同社のスタンディングデスクは100cmと120cm幅のほか、70cm幅も選べる。

今回、この70cm幅が最も売れたという。家が狭いと省スペースのデスクに目が行くが、コンパクトすぎるものはいかにもガタつきそうだったり、シンプルすぎて収納力など気の利いたポイントが見当たらないものが多い。そんな中、同商品は「緊急対応ではあるが、ちゃんと使えるものがほしい」という人の要望にちょうどよくハマるものだったのかもしれない。

もう1つ、激安ではないが、メイン購買層の19歳〜25歳でもなんとか手が届きそうな価格設定も特徴だ。自社HPに掲載する記事で「予算10万円。ゲーミングデスクの最強レイアウト」と家具の組み合わせを提案しているが、この内容を参考にする人は多いという。

政府の10万円給付も後押しに

「特別定額給付金10万円と、この提案が同額ということもあり注目されたのでは」と、川瀬さん。また、「ゲームのために購入したいと家族に相談して以前は却下されたのに、在宅勤務を理由に改めて相談したら承認された」という声をよく聞くそうで、同ブランドを認知していたビジネスパーソンが、在宅勤務を機に(口実に?)購入したケースも多いとみている。 

先ほどの「予算10万円〜」の記事を始め、自社サイトで発信するコンテンツは企画・執筆・実装とすべて内製。狙いはグーグルの検索上位だ。例えば「eスポーツ」「ゲーミングデスク」は検索するとトップに同ブランドの記事が表示される。「猫背」や「ストレートネック」といったパソコン使用による悩みワードでも上位表示されるので、在宅勤務疲れを機に検索して同ブランドに行き着いた人も多いのかもしれない。

テレワークが思わぬ追い風となった同ブランドだが、世界的な自粛でゲーム人口が増え、それに伴い海外から注目される機会にも恵まれた。


2020年3月に海外から注目を浴びたデスクレイアウト「ゲーミングベッド」(写真提供:ビーズ株式会社)

3月、手持ちのベッドに商品を連結させることで、食事・睡眠・アニメ・ゲームというオタク活動がベッドの上で完結できる「ゲーミングベッド」というレイアウトが、海外メディア記事や海外在住者のツイートで取り上げられ、バズった。これによりアメリカを中心にアジア、イスラム圏などの人々に関連商品が売れたという。現在はアマゾンや国内の量販店などが主な販路だが、これを機に年内にも海外展開を広げていく方針だ。

同社は1997年に創業した、工場を持たないファブレスメーカーだ。現在アウトドアブランドを中心に5ブランドを展開している。2008年に誕生したバウヒュッテは、実は当初オフィスチェアブランドだった。

当時はまだネット上でオフィス家具が気軽に買える時代ではなかったため販売は好調だったそうだが、2014年に増税があったほか、同時期に中国の工場から直接ネット上にオフィスチェアを出品する業者が増え始めたことで売り上げが急速に落ち込んだ。

子ども時代の夢、「秘密基地」を実現


ビーズ株式会社「バウヒュッテ」プロデューサーの川瀬隼利さん(写真提供:ビーズ株式会社)

一方、川瀬さんが当時担当していた別ブランドで「セーラー服のパジャマ」などエンターテインメント性の高い商品が支持されていたこともあり、ここで得たノウハウを生かし、バウヒュッテをリニューアルすることになったという。そして、プロデューサーに就任した川瀬さんがゲーム好きだったこともあり、この「ゲーミング家具」シリーズが生まれた。

コンセプトは「デスク秘密基地化計画」だという。その発想の原点は、秘密基地に憧れたという川瀬さんの小学生時代。ワクワクしながら段ボールを使って学習机を改造したりしたという。

また、悪さをして狭い場所に閉じ込められたときに、「居心地のよさ」を感じたそうで、それ以降、押し入れで勉強したり、本棚で囲ったコタツでネットゲームにハマったりと、閉所に居場所を求める暮らしを送ってきた。

前述の「ぼっちてんと」が顕著だが、同ブランドには「囲う系」の商品やレイアウト提案が多い。それはこの「閉所にいる安心感」の再現を大きなテーマとしているからだ。「子どもの頃に好きだったことや体験、あるいは当時やりたくてできなかったことを大人の解釈で企画・商品化している」(川瀬さん)。

そんな子どものロマンが詰まったシリーズ展開が当たり、現在、オフィスチェア専門で展開していた時と比べると、売上げは10倍以上に伸びているという。

ちなみに外にオフィスを借りなければならないほど住宅環境の悪い筆者は、「高さ調節できて折りたためる、でもガタつかない丈夫なデスク」といった商品開発をこっそりダメ元でお願いしたが、都心の狭小住宅暮らしのゲーマーに応える商品はまだまだ開発余地があるのではないだろうか。あるいは都心を捨てて地方に移転したオフィスで役立つ、既存商品を駆使した画期的なレイアウト提案なども見てみたい。

あくまでゲーマー向け家具であることは承知しているし、個人の嗜好が細分化されている時代の中で理屈ではない「童心」に訴えかけるブランド展開は今後もコアなファンを惹きつけていきそうだが、まだまだ続きそうなテレワーク需要に同社がどう切り込んでいくのかも気になるところだ。