都心を中心に街でよく見かけるようになった「Uber Eats」のリュックを背負った配達員(写真:Uber Japan)

緊急事態宣言中の都心部、大きなリュックを背負って自転車などで疾走する人が目に見えて増えた。リュックに書かれているのは「Uber Eats」の文字――。

ウーバーイーツは外食の配達代行プラットフォームで、世界各国で配車アプリを展開するUberの事業の1つだ。サイトやアプリ上で住所を入力すると近くの提携レストランが表示され、注文すると店の近くにいる登録配達員が店舗に向かいユーザーが指定した場所まで料理を運んでくれる。食事を配達してほしいユーザーと飲食店、さらには個人事業主で仕事のほしい登録配達員の3者をマッチングする役割を果たしている。

日本でも認知度が徐々に広まりつつあったが、新型コロナウイルスの感染拡大に伴う外出自粛を受けて利用が急拡大した。Uber Japan社の執行役員でウーバーイーツ事業の責任者を務める武藤友木子日本代表は、フードデリバリー事業の今後をどう見据えているのだろうか。

利用者層も利用のされ方も変わった

――街中でウーバーイーツの配達員を数多く見かけるようになりました。利用はどれくらい拡大しましたか。

2016年9月のサービス開始以降、右肩上がりで成長してきたが、その加速度が新型コロナの影響でさらに増している。

サービス開始時に150店だった提携レストラン数は、2017年9月に1000店、2018年9月に3500店、3年経った2019年9月で1万4000店にまで増えていた。それが足元では3万店を超えている。この3万店は、他社の数字と違って(登録だけでなく)実際に受注しているアクティブなレストランを指す。

利用件数も伸び続けている。ユーザーに表示されるレストラン数が多いほど、ウーバーイーツのアプリやサイトを開いてから実際に利用に至る確率が高くなる。そのため、提携レストラン数の伸びと比較しても利用件数が加速度的に伸びている。

利用者層も急速に拡大している。(いち早くユーザーとなって利用した)アーリーアダプターは20代後半から30代前半と若く、ITリテラシーの高い1人暮らしの人が多かった。今は認知度も高くなってきているので、だんだん利用者が広がってきている。

――使われ方は変化しましたか。

1回当たりの注文金額が少し上がっている。これまでウーバーイーツは、「おひとりさま」向けのサービスだと思われていたのではないだろうか。それが家族用として頼んだり、外でお酒を飲めなくなった代わりにちょっと贅沢な料理を家で楽しむためだったりと、利用シーンが広がっている。

1人当たりのオーダー件数も増えている。数字は出せないが、違いとして見られるくらい、注文件数が顕著に増えている。

――飲食店側からは、通常税込み価格に対して35%かかるウーバーイーツへの手数料が高いという声もあります。ウーバーイーツはどれくらいの利益が出ていますか。

(利益は)めちゃめちゃ薄い。高くない価格帯のカジュアルなランチであれば、もらったマージン(手数料)から配達している方々に満足に働いてもらえるくらいの報酬を出すと、利益は限られる。


むとう・ゆきこ/アンダーセンコンサルティング(現アクセンチュア)でキャリアをスタート。共同創設者として起業した事業を楽天に売却後、楽天で楽天ダイニング事業の統括本部長などを務める。グーグルの新規顧客開発の日本代表などを経て、2018年6月からUber Eatsの日本代表(写真は2020年2月に撮影、撮影:尾形文繁)

だからこそ規模が必要だ。いかに効率よく、いかに(データ分析を基に経営判断を行う)データドリブンでビジネスを回すかがカギになる。そういう意味でサービス開始以降の4年間での積み重ねは大きい。

重視しているのは、配達員への報酬やプロモーション費用を含めた、配達当たりの利益率。配達関連コストは、マーケットによって大きく異なる。とくに日本は配達員の獲得コストが他国より圧倒的に高い。日本は失業率が低いし、移民のように今すぐ仕事が欲しい人たちの数も限られている。そうするとフレキシブルな働き方を訴求することになるので、配達員のコスト体系が他国とはまったく異なってくる。

ウーバーイーツだから提供できる価値

――手数料率を下げることは考えていない?

そこは何とも。

配達コストを下げるうまい方法が見つかってレストランにリターンを返せるといった理由がついたら、配達当たり利益率を見ながら手数料率を下げる可能性はある。競合など誰かが下げたからという理由で手数料率を下げることはあまり考えていない。

ウーバーイーツだから提供できる(注文の)ボリュームがあるし、ウーバーイーツが提供できる価値は間違いなくあるので、1〜2ポイントの手数料率の差に本当に意味があるのかは慎重に見ていく。後から参入している競合も私たちと同じような料率で来るのは、ビジネスとして成り立たないと元も子もないところがあるからだ。

――マクドナルドのように自社で配達機能を持つチェーンも数多くあります。ウーバーイーツなどに支払う手数料を抑えるために、配達の自前化が進むことも予想されませんか。

特に小さいレストランだと、効率はウーバーイーツのほうがいいと自前配送を辞めたところはある。大手の中でもウーバーイーツに寄せたいというところもあるし、ウーバーイーツには新しい客を連れてきてもらって自社は自社で確固たる配達網を持ちたいという会社だってある。つまり考え方はレストラン次第ということだ。


コロナ後の「新常態」とどのように向き合っていくべきなのか。「週刊東洋経済プラス」では、経営者やスペシャリストのインタビューを連載中です。(画像をクリックすると一覧ページにジャンプします)

ただし、ウーバーイーツを利用するほうが、自社で配達網を持つのと比べて圧倒的にメリットが高いと判断し使っていただいているケースが多い。人材の確保が困難な業界なので、出前の要員をつねに1人置けるか、1人辞めた際の穴をどう埋め合わせるかは悩ましい問題だ。

また、自社で配達員を抱える場合、配達員の数を時間に合わせてフレキシブルに増減させることはあまりできない。ピークアワーに合わせて配達員を準備すると、ほかの時間帯では人員が遊んでしまう。

「週刊東洋経済プラス」のインタビュー拡大版では「日本におけるデリバリー市場の展望」「配達エリアの拡大戦略」などについても語っている。