■サラリーマンは絶滅危惧種

サラリーマンはもはや完全に「絶滅危惧種」となった。その理由は、日本の経済成長がほぼ止まったこと、人口の伸びが止まったこと、そしてなにより、少品種大量生産の時代が終わったことが挙げられる。

つまり、環境が変化したのである。

2019年5月、トヨタ自動車の豊田章男社長は記者会見で、「なかなか終身雇用を守っていくのは難しい局面に入ってきた」と述べた。時を同じくして日本経団連の中西宏明会長も「終身雇用を前提に企業運営、事業活動を考えることは限界がきている」と発言している。日本型雇用システムはもう維持できないと、経済界がついにさじを投げたのである。

トヨタというのは、かつて奥田碩元社長が「経営者よ、クビ切りするなら切腹せよ」という言葉を残したように、社員のリストラには否定的であり、日本型雇用システムの象徴ともいえる存在だった。

しかし、日本の基幹産業である自動車産業はいま、EV(電気自動車)や自動運転というテクノロジーによって「移動産業」へと移行する大変革期に直面している。その激変する環境に対応するため、トヨタはいま本気になって、人事システムや評価制度の見直しを行っているのだ。

■「働かないおじさん」の正体

そして近ごろ、新聞紙面や雑誌などでよく目にするようになったのが、「働かないおじさん」や「妖精さん」といった、40〜50代のサラリーマンを揶揄する言葉だ。

みなさんの会社でも探せば見つかるのではないだろうか。会社にはいるが、仕事をしているようには見えず、それでもそれなりの給料をもらっている存在が……。

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日本型雇用システムにおいては、終身雇用や年功序列などの特徴から、若いころは多大な労働力を提供しながら給料は低く抑えられ、年齢が上がるにつれ給料が上がり、50歳前後になると、給料が生産性を追い抜いてしまうということが起きる。

つまり、働かないおじさんたちは若いころの会社への貸しをいま、取り返しているのであり、日本型の雇用システムの象徴といえる存在なのだ。

そんな彼らがクローズアップされていることと、トヨタなどが日本型雇用システムの刷新に手を付け始めたことは明らかにリンクしている。日本型雇用システムからの脱却──社会の流れははっきりとその方向に向かい始めた、ということである。

■「黒字リストラ」の意味

働き方改革、副業容認、ワークライフバランス、同一労働同一賃金など、これらはすべて日本型雇用システムから脱却するために進められているものだ。リストラの中身にも、その兆候がはっきりと表れている。

東京商工リサーチのまとめによると、2019年の早期・希望退職によるリストラは6年ぶりに1万人を超えた。上場企業では富士通2850人、NEC3000人、ルネサスエレクトロニクス1500人、東芝1410人など、業績があまりよくない企業や業種が人数的には目立つ。

しかし注目すべきは、2018年度決算で過去最高益を出したキリンホールディングスをはじめ、アステラス製薬、カシオ計算機など、業績が非常に好調である企業までリストラに踏み切っている点だ。その募集の対象年齢も、多くの企業が足並みを揃(そろ)えるように、45歳にまで下げてきている。

新型コロナウイルス問題のために見えづらくなっているが、それ以前の企業業績は全体的には悪くなかった。景気回復の期間は戦後最長ともいわれた。こうした中でのリストラの増加であり、それも業績のいい会社までが、ターゲットを40代にまで下げてリストラに手を付け始めているのだ。

■「40代強制定年」が当たり前になる

そもそも、これまで日本の労働者は守られ過ぎてきた。欧米の労働市場は、日本よりはるかに流動的である。一流企業は何年もかけて育てないとモノにならない新卒など採用しない。採用するのは他社で経験を積み、スキルを磨いてきた即戦力の人材だ。

年功序列の日本型雇用システムにおいて、企業の管理職ポストは限られており、40代というのは曲がり角であることは言うまでもない。いまの日本の企業には生産性に見合わない賃金を払う体力はない。すぐにでも日本型雇用システムから脱却しないと手遅れになるとの危機感から、昨今の「黒字リストラ」という状況が生まれた。

そして、日本型雇用システムを象徴する40〜50代の「働かないおじさん」や「妖精さん」の処遇を変えることが、日本型雇用システムからの脱却につながる。論理的には必然として、彼らをターゲットとする「40代強制定年」が進んだ、というわけだ。

要は、これからは会社に食べさせてもらっている人は生き残れず、自分の力で食べていける人だけが生き残るようになる。そして、自分の力で食べていける人にとって、会社に所属するかしないかは二次的な意味しか持たないようになっていく。

■新型コロナが社会の変化を加速させた

今後は、意欲や姿勢、年齢や性別など、非エッセンシャル(本質的)な部分で評価されることはなくなるだろう。会社のビジネスにいかに貢献したかという、目に見える成果のみで測られるエッセンシャルな評価システムになる。

「働かないおじさん」だけではない。この動きが促進されることで、男女、年齢問わず、「会社にぶら下がっているだけの人間」は要らなくなる。

そして、新型コロナウイルスの出現によって、その変化はさらに大きく加速される。変化には、これまで想定していたものと、まったく想定していなかったものとが混在するだろう。

たとえばグローバル化は明らかに後退する。アメリカの自国第一主義やイギリスのEU離脱など、グローバリズムに対する反発はこれまでもあったが、このグローバル化に逆行する流れが、新型コロナウイルスによって強まる可能性がある。

私たちの働き方への影響も大きい。日本型雇用からの脱却とテクノロジーによる人間の代替という、これまで想定していた変化が、急激な経済の悪化と環境変化によって加速されるうえ、テレワークの拡大という要素も加わることになった。

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■中小企業の大廃業危機

テクノロジーというのは、開発されても、その利用が進むまでには大きな谷があるものだが、今回、多くの人がテレワーク関連テクノロジーに強制的に触れざるを得なくなった。このように、新型コロナウイルスによって、その谷を一気に越えるテクノロジーが続々と出現するだろう。そうやってテクノロジーによる仕事の代替が加速することになる。

AIやビッグデータなどのIT技術による技術革新を「第4次産業革命」というが、その革命を新型コロナウイルスが早めることになるだろう。

そして中小企業の大廃業問題である。私はかねて、日本人の雇用の大半を占める中小企業のうち127万社が後継者不足から廃業の危機にあると警鐘を鳴らしてきた。これはすなわち日本人の雇用危機そのものだ。

「コロナショック」による景気の急速な悪化と経済環境の変化によって、中小企業の大廃業が一気に進むことは間違いない。すでに私のファンドにも「会社を買ってくれないか」という依頼が次々舞い込んできている。

中小企業はもともと体力に乏しい。中小企業の資金繰りに対し、国が十分な手当てをしない限り、中小企業の経営は大きく悪化する。ただでさえ後継者不足に悩んでいる中小企業が多い中、ここで資金繰りに窮し、見通しが立たないということになれば、廃業を選ぶところが多くなるのは容易に想像できる。

■サラリーマンは「資本家」をめざせ

「黒字リストラ」「40代強制定年」「コロナショック」の三重苦に見舞われ、新しい世界のとば口に立っているいまの状況は、雇われる側の労働者にも、雇う側の資本家にも非常に厳しいが、私たちはなるべく早く、エッセンシャル化が進む世界で自分がどうやって生きていくかを決めなければならない。

私からアドバイスするとすれば、先行きがまったく見えない時期だからこそ、自分の生き方や暮らし方に関する「コントロール権」を保持しておくべきだ。「自分の時間」のオーナーシップを取り、権限を持って、自分の生き方や暮らしの意思決定をするのである。

それができるのが「資本家」という生き方だと思う。私はベストセラーになった『サラリーマンは300万円で小さな会社を買いなさい』(講談社+α新書)などの著作を通して、サラリーマンに中小企業を買うことをすすめてきたが、コロナ危機に直面し、これはもう不可避だと感じるようになった。

■人生逆転の大チャンス

今回の事態に際して、私が運営するファンドは、投資先で厳しいところはもちろんあるが、逆に儲かっているところもあるので、ダメージはそれほどでもない。ポートフォリオを組み、リスク分散をして投資しているからだ。

みなさんの中には、「小さな会社を買ったとしても、今回のような危機が起きたら、ひとたまりもない」と感じる人もいるかもしれない。その心配はもっともだと思うが、だからといって、いまいる会社にしがみついて安心ということはまったくない。

そもそも、資本家というのはどんな状況になっても生き残る術を心得ているものだ。

新型コロナウイルスによって、今後、ますます中小企業の大廃業が進むということは、買う側からすれば「会社を買いやすい状況」になるということだ。また、あらゆる局面で私たちはニューノーマルを模索しなければならない。そんな変化に富むいまの状況は、資本家の発想を持つ人にとっては「むしろ魅力的だ」と考えることもできる。

既得権益のある人もない人も、すべてがいったんゼロになり、実力のある人だけがのし上がれるという、まるで「幕末」のような雰囲気を感じる。少なくとも、これからは、そういうマインドを持っている人の時代になるだろう。

こんな状況だからこそ、アフターコロナの「エッセンシャルな世界」では「資本家」として生きることを、改めてみなさんにすすめたい。

■サラリーマンこそ会社を買うべき

「こっちの水は甘いぞ」と言い切ることはできない。楽して儲けられるという簡単な世界ではないが、貴重な「自分の時間」を自分でコントロールできるようになることは間違いない。

サラリーマンとして40代にもなれば、管理職やチームリーダーとして、束ねる社員の数は十数人から数十人になるだろう。大企業なら数百人の部下を持つ人もいるかもしれない。

写真=iStock.com/pick‐uppath
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もしそういう立場なら、あなたは毎年、経営計画に則って予算を立て、そのために必要な人員計画や業務計画を作って、OJTや研修で身に付けたマネジメントスキルを駆使しながら、日々の業務を進めているはずだ。

そのあなたの仕事は、従業員数人から数十人の中小企業の業務よりはるかに複雑である。それをあなたは長いことこなして、結果を出し、経験を積んできているのだ。

私が言いたいのは、そんなサラリーマンの方々は、中小企業を経営するための準備がもう十分にできている、ということである。

■リスクよりはるかに大きなリターンが待っている

三戸政和『サラリーマン絶滅世界を君たちはどう生きるか?』(プレジデント社)

会社経営にリスクはある。そのリスクは、サラリーマンに比べると大きいかもしれない。しかし、サラリーマンよりリターンがはるかに大きいのだから、それは当然である。

間もなく日本型雇用システムは失われ、いわゆる「サラリーマン」が会社にぶら下がって生きていける環境ではなくなる。これからは「40代強制定年時代」が訪れ、日本の会社をめぐる環境は大きく変わっていく。

その中であなたはどういう生き方を選ぶか、考えなくてはならない。その選択肢の1つとして「会社を買って資本家になる」というということを考えてみてほしいのだ。

※本稿は、三戸政和『サラリーマン絶滅世界を君たちはどう生きるか?』(プレジデント社)の一部を再編集したものです。

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三戸 政和(みと・まさかず)
株式会社日本創生投資代表取締役CEO
1978年兵庫県生まれ。同志社大学卒業後、2005年ソフトバンク・インベストメント(現SBIインベストメント)入社。ベンチャーキャピタリストとして日本やシンガポール、インドのファンドを担当し、ベンチャー投資や投資先にてM&A戦略、株式公開支援などを行う。2011年兵庫県議会議員に当選し、行政改革を推進。2014年地元の加古川市長選挙に出馬するも落選。2016年日本創生投資を投資予算30億円で創設し、中小企業に対する事業再生・事業承継に関するバイアウト投資を行っている。また、事業再生支援を行う株式会社中小事業活性の代表取締役副社長を務め、コンサルティング業務も行っている。
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(株式会社日本創生投資代表取締役CEO 三戸 政和)