金沢のB級グルメ「金沢カレー」を展開し、国内カレー市場2位に躍り出たゴーゴーカレー(記者撮影)

ステンレスの皿の上に粘り気のある濃厚なルーが盛られ、それにキャベツの千切りやソースのかかったカツなどを載せたものを先割れスプーンで食べる。

この金沢の人気B級グルメ「金沢カレー」を看板メニューとする、国内外食カレー市場2位の「ゴーゴーカレー」がカレーの卸売事業と外販事業を強化しようとしている。

ゴーゴーカレーグループの宮森宏和代表は「コロナ禍で、本格的にカレー屋から『カレーの専門商社』へと業態を変え、拡大路線を続ける」と意気込む。

ランチ限定でルーを提供

同社は北陸と首都圏を地盤とするが、業界首位の「カレーハウスCoCo壱番屋(ココイチ)」を展開する壱番屋の背中は遠い。親会社のハウス食品グループからルーの安定供給を受けながら、「家庭的なカレー」を自分好みにカスタマイズできるという戦略で全国展開を果たしたココイチの国内店舗数は、1262店(うち直営153店、2020年2月末)と圧倒的だ。


粘り気のある濃厚なルーにキャベツとカツが特徴のゴーゴーカレー(記者撮影)

それに対し、ゴーゴーカレーの店舗数は約70店舗(うち直営約30店、2020年2月現在)。壱番屋の連結売上高が514億円(2020年2月期)であるのに対し、ゴーゴーカレーはグループ全体で55億円(2019年9月期)と約9倍もの差がある。

そのゴーゴーカレーが壱番屋にもひけを取らないのが多様な販路だ。飲食店事業だけでなく、自慢のレトルトカレーを自社のEC(ネット通販)やコンビニ、スーパーなどで販売するほか、東洋水産や第一屋製パン、ローソンなどとコラボ商品を販売している。中でも力を入れているのが、コロナ前から手掛ける独自のカレー卸売戦略、「プロデュース店舗」事業だ。

6月には名古屋市内で居酒屋を複数展開する「やぶやグループ」に対し、ランチ向けメニューとしてカレーのルーを提供した。コロナ禍で苦境に陥ったやぶやは、ランチタイム限定で1店舗をカレー店に転換する。ゴーゴーカレーから提供を受けたカレーを販売することで、コロナ禍で減った夜の売り上げをランチで補う狙いだ。

一般的な外食企業は、フランチャイズ(FC)の形態で多店舗展開することが多い。ゴーゴーカレーも、「ゴーゴーカレー」の看板を掲げて営業する店舗とFC契約を結び、ルーを卸売りすると同時に加盟店からロイヤルティー(加盟店手数料)を受け取る。初期投資である店舗の内装費や研修費、保証金などは加盟店側が負担する。

一方、プロデュース店舗だと、店舗側が負担するのはルーなどの食材費のみ。初期投資も低コストで済み、人気のあるゴーゴーカレーからルーの提供を受けていることをアピールできる。

フランチャイズ方式で多店舗展開した場合には、FC店舗への綿密な指導・対応に人員を割く必要があるが、プロデュース店舗だとこうした手間も省ける。ただ、一般的なFCとは違い、安定したロイヤルティー収入を見込めないため、収入確保のために卸先を拡大させる必要がある。

店内飲食売り上げはコロナで5割減

宮森代表は、「経営に苦しんだ居酒屋がコロナ禍でこぞってランチに手を出したものの、うまく行っている店はそう多くない。われわれはブランドが定着しているため、安定して売り上げを伸ばせる。カレーを提供してほしいという依頼は足元でも数十件ある」と明かす。

ココイチもFC向けに食材の卸売りを行っているが、ゴーゴーカレーのように外部への販売はあまり多くない。


ゴーゴーカレーの宮森宏和代表は「カレーの専門商社へ業態を変える」と意気込む(編集部撮影)

プロデュース店舗は飲食店以外にも、高速道路のサービスエリアやテーマパーク、スキー場、社員食堂、医療法人、カラオケチェーンなど多岐にわたる。現状600店舗超のプロデュース店舗を、中期的には1000店にまで広げる方針だ。

そんなゴーゴーカレーも、コロナ禍においてはやや苦戦気味だ。4〜5月の店内飲食事業の売り上げは前年同期比で5割強も減少。その一方、巣ごもり需要を受けて自社のレトルトカレーが前年同月比200%増と大きく伸びるなど、4〜5月の会社全体の売上高は前年同期比で3割程度の減少にとどまった。

宮森氏は「固定費のかかる直営店への出店は今後は避ける。飲食店以外の事業に経営資源を投資していく」と話す。

M&Aにも意欲を見せる。2017年には後継者不足に陥っていた金沢市内の老舗カレー屋「ホットハウス」の事業を継承。インバウンド需要を見越し、2019年にはハラール認証を受けたインドカレーを提供する東京地盤のチェーン「サムラート」の製造部門を買収した。

M&Aに乗り出したのは、「2016年ごろに通っていたビジネススクールで、日本電産の永守重信会長から『トップになるには会社を買いなさい』というアドバイスを受けたから」(宮森氏)だという。

カレー市場で規模拡大が難しい理由の1つが、原材料となるスパイスの調達だ。壱番屋がココイチを全国展開できたのは、2015年に親会社となったハウス食品からスパイスを安定して供給されていることが大きい。ゴーゴーカレーは2025年を目途にスパイス会社の買収を計画しており、原材料の調達から小売りまで一気通貫体制を整える。

海外展開の強化も見据えている。現在はアメリカに10店舗、ブラジルに1店舗のFC店を展開しているが、今後はプロデュース店舗を拡大していく。そのために、近年の新卒採用では商社志望の学生を積極採用しており、中川直洋副社長は「われわれはただの飲食店ではなく商社であるというメッセ―ジを採用説明会などでは伝えている」と語る。

不安が残る財務基盤

外販強化やM&Aを掲げるゴーゴーカレーグループだが、財務面は盤石とは言いがたい。人件費や設備投資などの成長投資が先行し、自己資本比率は約9%にとどまっている(2019年9月期)。

一方、東京商工リサーチによると、ゴーゴーカレーグループは2015年9月期以降増収を続けている。利益も、2018年9月期に不採算店舗の整理で特別損失が発生し最終赤字になった以外は、黒字を計上している。

東京商工リサーチ情報本部の増田和史課長は「健全な財務とは言えないが、成長企業は自己資本比率が低くなりがち。金融機関からも定期的に借り入れをすることができており、売り上げや利益でみると成長軌道にのっている」と分析する。

宮森代表も「負債が膨らんでいるのはすべて将来への積極的な投資のためで、コロナが落ち着くと市場が拡大して収益の増加が見通せる。最終的にはカレー業界のプラットフォーマーを目指す」と鼻息は荒い。

コロナで先行きが依然見通せない外食企業において、ゴーゴーカレーの商社化戦略は新たな外食のモデルとなるか。