見た目とは裏腹の走りを見せるクルマ

text:Colin Goodwin(コリン・グッドウィン)

最近、BMW Z8に新車で乗って以来、初めてハンドルを握った。素晴らしいクルマだが、運転して失望した。

良さを感じられたのは、自然吸気エンジン、マニュアル・トランスミッシ、そして無駄なインフォテインメントシステムがないことだけだった。

BMW Z8

発売当時、このZ8を手に入れたら二度と手放さないだろうと思ったが、今では手放してもいいと考えている。

クルマの魅力は、見た目だけではない。振り返ってみると、見た目は素晴らしくても、走りがよくないクルマはいくつか思い当たる。

その逆もまたしかり。見た目は最悪だが、運転すると素晴らしいと思えるクルマもある。

友人に見せる勇気があれば

その中でも特に記憶に残っているのが、1990年代初頭の日産プリメーラeGTだ。

酷いとまでは言わないが、平凡な見た目のクルマだった。

グッドウッドで行われた故ピーター・ゲティンのドライビングスクールに行ったとき、プリメーラを何台も所有していることを知って驚いたのを覚えている。

実際に運転してみて分かったが、プリメーラeGTは152psのエンジンを搭載しているだけでなく、フロントとリアのマルチリンクサスペンションのおかげで、優れたシャシー性能を発揮するのだ。

一度見たら忘れない

しかし、プリメーラに勝るとも劣らない、走りは良いが見た目には不快なマシンの最高傑作がある。

リライアント・シミターSS1だ。

トライアンフのスピットファイアやスタッグを生み出した天才、ジョバンニ・ミケロッティがこのリライアントをデザインしたとは信じがたい。

ある種、独創的過ぎて言葉を失う。

SS1にはフォードのCVHエンジンが搭載されていたが、後のSSTには日産シルビアの1.8L ターボエンジンが採用された。

136psのパワーを発揮し、独立懸架式サスペンションを装備したSSTは、友人に見られるリスクさえ覚悟していれば、運転するには最高のクルマだった。

無能な美女たち

では、Z8をはじめとする無能な美女たちの話に戻ろう。

いろいろな意味でガレージから出したくない、美しいクルマたちである。

英国のマスタング

アルファ・ロメオ・ブレラ

フォード・カプリはどうだろうか?

英国では、欧州版マスタングとして思い入れのある人が多い。

スタイリングは素晴らしく、特にフェイスリフト前のMk1のフォルムは、純粋なスポーツマシンに乗っているかのような錯覚に陥るほど。

しかし、3.0L V6の愛すべきモデルも存在するが、「クロスフロー」と呼ばれる1.3Lないし1.6Lエンジン搭載車は非力で、駐車場に停めておくのがベストだった。

美しきイタリアンスポーツ

フィアットグループ、特にアルファ・ロメオは、ショッピングカートのようにダイナミックな動きをする美しいマシンを数多く生み出してきた。

その中でも特に目を引くのが、ブレラと4Cだ。

ブレラは、一目でそれと分かるほどの見事なクーペである。

しかし、1800kgもの車重は受け入れがたい。なぜこんなにも重くなってしまったのだろうか。

そして4Cに関しては、どうして走りが台無しになってしまったのか、理解に苦しむところだ。

アーキテクチャーは、ダラーラが用意したカーボンファイバー製のプレミアムなものだった。

しかし、4Cスパイダーは特に、今までで最も無能なスポーツカーの1つである。

多くの人にとって、アルファへの批判は冒涜となるだろう。

イタリア嫌いではないことを証明するために、エンジンをかけると魅力が薄れてしまうような英国車をいくつか紹介しよう。

エンジンをかけると気分が下がる

運転には向かない英国車

子供のころからランドローバーの見た目が大好きだった。大人になってからシリーズ2を買い、それ以降のすべての世代に乗ってきた。

ただし、ジャングルの中でもない限り、どれも運転には不向きだ。

MG ZS 180

高級車の中で酷かったのはジャガーXJ220。

V6エンジンは退屈で、ブレーキ性能も悪く、クルマの動きが全く感じられない点も好きではなかった。

同じ日にXJ220とフェラーリF40の両方を運転したことがある。

フェラーリは速くて運転に集中でき、クルマの限界を感じやすかった。

一方、ジャガーは限界点がどこにあるのか分かりづらく、カーブを猛スピードで駆け抜けたとき、危うくクラッシュしそうになった。

冴えない実力派

非常に高いシャシー技術を持つチームによって作られたMG ZS 180。

ホンダ製サスペンションに取り付けられたブッシュ、スプリング、ダンパーを丁寧にチューニングすることで、冴えない見た目のローバー45サルーンがダイナミックなスポーツカーに生まれ変わった。

そこにローバー製KV6エンジンを搭載することで、その走りを確固たるものとした。

このエンジニアチームは、ローバー200と75にも同様のチューニングを施し、ZRやZTを生み出した。

この2台は決して悪くはなかったが、スタイリングに魅力はなく、ZSのような走りも期待できなかった。

そのスタイルにお金を出せるか

個性的過ぎて

プジョー205 GTiはヒーローの地位を獲得したが、そのプラットフォームとパワートレインを共有したシトロエン・ヴィザGTiは真逆の存在といえる。

2CVやアミなど、シトロエンには個性豊かなモデルが多い。しかし、ヴィザのデザインはいただけない。

シトロエン・ヴィザGTi

走行性能は205 GTiよりも優れていただけに残念。

私は205 GTiを所有していたことがあるが、同じ金額をヴィザGTiに払うかと聞かれれば、答えはノーだ。

なぜそうなった?

メルセデス・ベンツは、岩のようにしっかりしていて味のあるW124 Eクラスを提供してくれたが、その後、完全にビジョンを失い、W210に置き換えられた。

品質は欠落し、デザインは錆びついて、ヘッドライトも大変なことになってしまった。

メルセデスの歴史をさかのぼってみると、これとは逆に見た目が良くても中身の伴わないクルマが見つかる。

1950年代の190SLは、300SLにも似た愛らしいモデルだが、その走りはまるで使い古されたタクシーのようだった。

目をつぶって運転したい

ポルシェは長い歴史の中で、性能は素晴らしくても、美しさに劣るモデルを数多く量産してきた。

例えば914、具体的には914/6だ。フォルクスワーゲンとの共同プロジェクトで生まれたこのクルマは、決して魅力的とは言えないが、運転していて楽しいクルマだった。

最近でいうと、初代パナメーラが思い浮かぶ。

グッドウッドで開催されたオートカー・ハンドリング・デイに参加したことはよく覚えている。私はパナメーラのハンドルを握り、ジャガーXFRに乗る同僚を追いかけていた。

300psのパナメーラに対しXFRは500ps。私よりもはるかに速かったのだが、私は何度も何度も彼のリアバンパーに肉薄した。

パナメーラはカイエンと同じようにダイナミズムに優れている。しかし、スタイリングもカイエンと同じく、美しさからは程遠い。

見た目と走り、どちらを優先するか

スタイルに恵まれなくても、偉大な旅の王者として君臨しているのは、今日のホンダ・シビック・タイプRだ。

ただしそれは、あなたの優先順位次第である。

私が若かった頃、道路はより開放的で、スピードカメラも存在しなかったので、クルマがどのように走るかは見た目よりも重要だった。

今では反対側に立っている。そうは言っても、大抵の人は見た目通りに走るクルマが欲しいのだ。

最近のクルマはデザインが〇〇

新型BMW 4シリーズは、最新の3シリーズと同じく、素晴らしい性能を持つクルマになるに違いない。

だが、あの巨大なフロントグリルを見慣れる日が来るのだろうか。

ポルシェ・パナメーラ

SUVやクロスオーバーの人気は、その主な原因の1つだ。重心が高すぎるせいで、全体のプロットが崩れているように思える。

アルファロメオが4Cのようなクルマをもう一度作るとは思えない。少量生産のスポーツカーは企業にとってビジネス上のリスクに他ならないためだ。

将来的には、見た目と走りにギャップのあるクルマはどんどん減っていくだろう。

最近はどのクルマの走りもよくなってきている。致命的な欠点のあるクルマは減りつつある。

走りのレベルが底上げされているのは喜ばしいが、デザインが同質化してしまったのはあまりいいこととは思えない。

ノーブルM10を初めて運転したときのように、あんなに醜いものがロータスと同等、あるいはそれ以上によく走ったことに唖然とした出来事が懐かしい。