百貨店各社の6月の売上高は前年同月比マイナスだった。写真は東京・中央区の三越日本橋本店(編集部撮影)

百貨店の大手各社が6月の売上高実績を公表した。

三越伊勢丹ホールディングス(HD)が展開する三越伊勢丹の既存店売上高は前年同月比22.5%減(5月実績は同83%減)、エイチ・ツー・オー リテイリング傘下の阪急阪神百貨店の全店売上高は同10%減(5月実績は同64.1%減)だった。

また、J.フロント リテイリングが展開する大丸松坂屋百貨店の既存店売上高は同25.7%減(5月実績は同71.8%減)、高島屋の全店売上高は同17.3%減(5月実績は64.1%減)となった。

夏のセール前倒しが下支え

各社ともにコロナ禍で一部店舗の休業を強いられた5月は、営業面で大打撃を受けた。だが、政府の緊急事態宣言解除を受け、5月後半から営業を再開。つれて売上高も徐々に回復し、6月実績は最悪期を脱したものの、前年割れの厳しい状況が続く。


各社の売上高が底入れした要因としては、外出自粛期間に消費行動を抑えていた揺り戻しが出たことがあげられる。エイチ・ツー・オー リテイリングの荒木直也社長は「今はミニ特需が起きている。一部店舗を45日間休業していた分の反動が出ている」と語る。

1人10万円の特別定額給付金も需要喚起に寄与したようだ。さらに、夏のクリアランスセールは従来だと7月1日に始めていたが、今年は三密回避の意味合いもあり、早いところでは6月初旬から五月雨式にスタートした。こうしたセールの前倒しも売上高を支えた。

三越伊勢丹では、ランドセルやベビーカーといった子供用品、調理器具や寝具などの食品・リビング用品が伸びた。「日常生活をより豊かに過ごしたいというニーズに応えるカテゴリーが健闘した」(三越伊勢丹HD広報)。

大阪市の阪急うめだ本店でも「子ども服がいちばんよく売れている。必需品の最たるもので、2カ月も経てば子どもさんも成長して、大きいサイズの服がどうしても必要になる」(エイチ・ツー・オーの荒木社長)という。

その反面、コロナ前に好調だった化粧品はインバウンド需要が消滅したこともあり、大きく後退。紳士スーツやネクタイ、婦人向け通勤用衣料などの動きも悪かった。

復調の兆しを見せたとはいえ、百貨店大手の本格回復には程遠いのが現状だ。

6月は都心型店舗よりも郊外店に客足が流れた。伊勢丹新宿本店の売上高は前年同月比21.9%減、三越日本橋本店が同17.1%減だったのに対し、郊外の伊勢丹立川店が同8.5%減、伊勢丹浦和店が7.6%減と落ち込み幅が小さかった。

大丸松坂屋百貨店でも、大丸梅田本店が同31.6%減、大丸東京店が同49.8%減だったのに対し、郊外型の大丸須磨店が同5.3%減、松坂屋高槻店は同18.3%減にとどまった。

本格回復は早くて来期以降か

高齢者を中心に、都心部に出ることにまだ慎重な姿勢の消費者は多いと見られる。「特に年配のお客さんは慎重。通常は30代ぐらいの娘さんと50〜60代のお母さんが一緒に来店して、いちばん財布を開いてくれることが多いのだが、そういうお客さんがまだまだ少ない」と、エイチ・ツー・オーの荒木社長は指摘する。

三越伊勢丹HDも「現在は一時的な特需なのかどうか見極めが必要だ。本格的な回復は早くても来期以降」(広報)と話す。他の大手百貨店も「2次感染が広がったときに備えて、6月は化粧品などの分野でまとめ買いをする動きもあった」と今後反動減が出る可能性を示唆する。

前半戦の苦戦と今後の不透明要因が重なり、大手各社の今通期業績は大きく落ち込みそうだ。

J.フロントは6月29日、今2021年2月の通期業績見通しを売上収益3320億円(前期実績4806億円)、当期純利益260億円の赤字(同212億円の黒字)と、従来の売上収益4110億円、純利益50億円の黒字計画から、一転赤字に下方修正した。

高島屋は7月6日に2020年3月〜5月期の業績を発表し、営業収益1162億円(前年同期比48%減)、当期純利益205億円の赤字(前年同期実績105億円の黒字)と赤字に転落した。

通期業績については、「コロナ影響の見極めが困難」との理由から計画を公表していないが、通期ベースでも赤字になることは免れない。同様に、8月に第1四半期の決算公表を予定している三越伊勢丹HDやエイチ・ツー・オーも大幅減益は必至の情勢だ。

そもそも百貨店は構造問題を抱えていた。取引先アパレルと築き上げた「消化仕入れ」(委託販売の一種で、商品が売れたときに仕入れを計上する仕組み)というビジネスモデルは、バブル崩壊以降にモノが売れなくなり、百貨店の売上高も徐々に萎んでいくと、通用しなくなった。

地方を中心に少子高齢化で消費不振に陥り、EC(ネット通販)も台頭。百貨店はこういった環境変化や消費者行動変化に対応できなくなり、革新的な手を打てずにいた。また、バブル期に抱えた多くの従業員も重いコストとしてのし掛かり、今や多くの百貨店の損益分岐点比率は90%を超えている。

大きく伸びたネット通販の売り上げ

百貨店に打つ手はないのだろうか。実はこのコロナ禍で、販売を拡大した分野がある。ECである。

三越伊勢丹はオンラインショップの6月売上高が前年同月比1.5倍に、化粧品専門のオンラインサイト「meeco(ミーコ)」も同2.5倍に拡大した。オンラインショップは全社売上高の5%にも満たないまだ小粒の事業だが、今後の伸び率は期待できる。

三越伊勢丹はこの6月にオンラインショップとアプリを刷新した。三越と伊勢丹のブランドごとにわかれていたオンラインショップを統合し、1つのウェブサイトの中でブランド情報やキャンペーン情報を閲覧できるようになった。

店頭で人気の商品を中心に約10万種類を展開するが、そのために数年前から伊勢丹新宿本店に隣接するパークシティ伊勢丹の1、2階を改装し、ささげ作業(商品をECサイトに掲載するための撮影、採寸、原稿書き)を進めていた。

外出自粛機運のまだ残る6月のサイトリニューアルが集客につながった。「クリアランスセール対象の商品やリピート購入しやすいアイテムが特に好調だった。お中元のオンライン購入も増えた」(三越伊勢丹HDの広報)。2021年3月期における売上高目標は当初250億円に設定していたが、足元の状況を踏まえて上方修正する構えだ。

三越伊勢丹とは対照的にエイチ・ツー・オーはリアル店舗の催事と連動したEC強化を目指している。

阪神百貨店で毎年ゴールデンウィークと秋に開催している「大ワイン祭」は、1000円から4000円程度のテーブルワインを世界中から約850種類揃え、来場者は全商品を試飲できる。大人気のイベントで、1週間で1億5000万円の売上高を叩き出す。

外商客との商談もズームで

今回はコロナで中止となり、4月29日からホームページ上で展開した。ワイン通やソムリエ、レストランオーナーのうんちくを動画で流すなどの工夫もあり、1週間で約6000万円の売り上げを計上できたという。

「モノを単にカタログ化して売るのではなく、価値観や世界観を含めて売っていくのは、百貨店が追求するオンライン販売の1つの手法ではないか」とエイチ・ツー・オーの荒木社長は強調する。

今後は阪急百貨店で世界の茶葉を集めた催事「ワールド・ティー・フェスティバル」もオンラインで展開していく。ZoomやLINEのチャットを使用した外商客とのコミュニケーションも実施していく。

構造不況の中でコロナ禍に見舞われた百貨店大手。ただ、コロナで環境が変わったからこそ、今後伸ばしていく分野や手法が見えてきた側面もある。各社が巻き返せるかどうかは、デジタルシフトのスピード感がカギを握る。